『因数分解して要素をクリアにする』(連載「現場課題を乗り越える思考と行動のフレームワーク」その5)
本コラムでは経営コンサルタントとして国内外の顧客現場で直面した筆者の実体験を基に、「現場課題を乗り越える思考と行動のフレームワーク」について取り扱います。
前回は『ツール“事業計画”をうまく使い、事業の各現場指標(共通言語)を定義する』と題しまして、売上や利益を達成する上で必要な行動計画、それに対して具体的な売上達成額とコスト(販売管理費)を明確に紐づかせて、しっかりと見える化させる必要があると述べました。これを「共通言語」とすることで、戦略⇒実行、そして売り/コストに一貫性を持たせることができます。
第5回目の寄稿となる今回は『因数分解して要素をクリアにする』について書かせて頂きたいと思います。複数の要素が絡み合って依存関係が見えにくい状況下であっても、要素ごとにイシューを分解して依存関係を整理すること、新人経営コンサルタントは入社後最初の研修でこれを叩きこまれます。要素を切り分け、パターンを識別できるように可視化し、それらの関係性を明確にリンクさせていくこの手法は、前回扱ったツール“事業計画”でも重要な考え方ですし、数値化する局面でなくとも、コミュニケーションギャップや関係者間の認識の違いを防ぐことに繋がります。
のっぺりした議論をせず、しっかりと要素を切り分ける手法を学ぶことは基本的ですが極めて重要です。色々な整理のフレームワークは存在しますが常に有効なフレームワークなど存在せず、いかに適切に要素を分解でき、想定パターンを区別できるかが重要になってきます。分解だけでは確かに不十分で、その要素(フレーム)で物事を組み立てる必要はあるのですが、書籍などではよく「ありふれたフレームワークの利用法」について書かれていることが多く、本質的な要素分解の仕方についてはあまり言及されていません。今回は要素の因数分解そのものについて簡単にお話していきます。
事業計画にて、売上の構成を「売上=顧客数×平均単価×購入頻度」と分解して施策を検討する等は一般書籍にもよく説明されていますが、目的・施策を明確にして行動計画に落とし込む上で「売上を上げる」では不十分で、行動は具体的に立てられません。闇雲に施策展開するのではなく、分解された要素レベルで「各要素を20%ずつ上げる」とした場合の施策、と定義し直すと問いが具体的になり、フォーカスが絞られます。単純かつ当たり前の話ではあるのですが、ブレークダウンして実行性のある計画や判断をする上で極めて重要なステップなのです。
因数分解は内容を詳細化していくだけでなく、レベル感・程度の差(影響度/優先度の認識)についての関係者の認識を明確にして物事を進めていくこともできます。各要素の関係性や派生した出来事が多くある状況下では、因数分解が大きく力を発揮します。僅かな視点での誤解や認識齟齬、考え方の違いで流してしまうのでなく、何が本質的な差を生んでいるのかを特定するのに役立つことができます
商品をE-commerce取引で販売するECサイト事業者を例に取ると、販売に必要な商品情報データを取得し、集約して適切なデータ形式でECサイトに出力する、という業務を中核に持ちます。仕入先から情報を取得して、データを集約・加工・配信する業務をどのくらい効率化できるかというのが重要になり、販売計画に沿った業務量に合わせて最適なオペレーター体制を敷く必要があります。これに対する販売管理費の圧縮が重要です。計画段階で中核業務をざっくりと一様に捉えてしまっては、綿密な計画値/見込は出すことができず、また業務に対する注力ポイントや認識が異なってしまうでしょう。
下記パターンによって、業務工数も必要な体制も営業のスタンスもそれぞれ大きく変わります。パターンをしっかりと捉えて分解し、適切な組み合わせができる必要があるのです。
●分解軸①:仕入先メーカーからのデータ連携容易性
・流通業界の標準データ統合システムを利用しているかどうか?
・自社の商品DBを持っており、単品管理・商品情報が集まっているか?
・それとも商品のデータを初期登録する必要があるか?
●分解軸②:商品の販促/見せ方に対する工夫
・ECサイトで独自性のある商品ストーリーページを作る必要があるか?
・販促機能をどれくらい含めた商品情報を持つ必要があるか?
・Exclusive商品なのか、ありふれたコモディティ商品なのか?
・セット品やギフトなど”組み合わせる作業”は発生するか?
●分解軸③:海外からの注文対応の範囲
・物流・通関に必要な商品レベルでの情報まで持つ必要があるのか?
・それとも国内取引だけを想定し、国内販売に必要な最低限度の情報だけ取得すればいのか?
●分解軸④:ワンシーズンや期間限定など、商品掲載メンテナンスの発生頻度
・期間毎の商品価格変更や高頻度な商品差し替えなどが発生するかどうか?
同じ商品数であったとしてもデータ集約/加工/出力作業に対して、このような差が生まれ、販売戦略と発生する作業コストがしっかりと同じスタンスで事業推進されなければ、営業利益ベースでの改善がいつまで経っても見込めないという事態になる可能性があります。ブラックボックス化せず、具体的に課題ポイントを特定することで示唆が生まれ、程度の差(影響度/優先度の認識)が明確になります。因数分解を意識した動きを徹底してみるだけで大きく現場課題を乗り越える礎になるでしょう。
限られた紙面での説明のためやや概念的な所もあったかと存じますが、「ちょっとした視点の切り替えが生む大きな変化」という観点で、少しでも読者の皆様のご活躍の一端となれば幸いです。
【執筆者プロフィール】
大橋祐介(おおはしゆうすけ)
慶應義塾大学卒業後、経営コンサルティング・ファームに参画。戦略、マネジメント、オペレーションを総合俯瞰したコンサルに価値を置く。国内外を跨いだ 数々のプロジェクトに従事し、直近では合弁会社設立や新規事業立ち上げに参画。アメリカ発祥の国際的非営利教育団体Toastmasters Internationalにてエリアディレクターも務める。