「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第11回 マネージメント3:海外拠点での意思決定~
先週久方ぶりにロンドンに行ったところ、サービスの良さに驚き、大陸欧州(欧州ラテン系国!?)との違いを感じずにはいられませんでした(笑)。今まで書いてきたのは、欧州を中心とする海外拠点といえども、フランス、ベルギー、スペイン等の事例がメインですと言い訳をした方がよさそうです。さて、今回は「日本企業が直面する課題」の中でも一番の課題となる「マネージメント」の最終テーマとして海外支社或いはグループといった海外拠点での意思決定をテーマにしたいと思います。
企業経営におけるトップダウン方式とボトムアップ方式の利点、欠点、よく言われがちな日本企業はボトムアップ方式だからグローバルに対応できないといったような議論は専門家に任せるとして、率直な意見を言わせていただくと、日本本社と比較し規模の小さい海外拠点においてはトップダウン方式の方が理に適っていると思います。少なくとも日本本社からの情報なり要請なりが確かな形で入るのは海外拠点のトップレベルであり、これを速やかに皆に行き届かせるには上からの指示が必要不可欠といえるからです。また、情報伝達はもとより、問題が起こった際には多くの場合本社上層部との連携も重要となってくるのであり、トップダウン方式でないと物事がなかなか前に進まないといったことが往々に起こりうるからです。マネージメント1で説明した通り、欧州社会が階級社会でありもともとトップダウン方式が受け入れやすい下地があるのも理由の一つです。
トップダウン方式とは言っても、すべきことを強制する形をとるのは最後の手段であり、基本的には方向性をトップが明確に決定するという意味でのトップダウン方式です。しかしながら、実際のところはこれが曖昧な場合が多い。方向性が曖昧過ぎてどう解釈すべきかわからないレベルではまったく意味がなく、経営方針にしても問題解決にあたっても、具体例を挙げつつ、わかりやすいビジョンを明確に打ち出してこそトップダウン方式が活用できるのだと思います。こうした形でのトップダウンであれば、それに沿った形で取るべき行動を自ら考えるよう部下は努力もするし、仮にこうした努力がなければそれが求められているのだと教育することも可能です。
こうしたトップダウンを行うにはそれなりの人財が必要となりますが、残念なことに本来こうした役割を担うべきである本社より派遣されてくる幹部レベルの日本人駐在員にそれだけの能力があるかというと疑問符をつけざるを得ません。能力がないというよりも、能力はあっても「リスク」や「責任」を取りたがらない傾向が強く、トップダウンで皆を動かしていくだけのリーダーシップを発揮しない人材が多いという言い方のほうが正しいかもしれません。確かに3年なり5年なり限られた期間しかいない海外拠点で、未来の問題の種に対処する等面倒な仕事をするより、問題が炸裂しない限り見て見ぬふりをして余計な波風をたてず適宜やり過ごす方が楽であり、問題が炸裂している場合でさえ責任の所在を曖昧にしたまましばらく放置しておけばその拠点とはおさらばでき後は野となれ山となれと言える身なわけですから、リスクをできる限り取らないのも一つの処世術ではあるかもしれません。ですが、一度でもこういうタイプの駐在が派遣されると海外拠点の運営にはその後10年ひびが入るといっても過言ではないでしょう。ローカルはその後全く日本から派遣される駐在を信用しなくなり、信頼を取り戻すには相当の時間が必要とされ、かつその間その拠点の発展は滞り、海外進出した意味が水の泡となってしまいます。一方で、本当に能力のない人間が、社内に行き場所がなく、仕方なく海外拠点に送り込まれるということもありえます。これほど日本人以外の人間に理解できない人事異動はないと思います。おそらく外資であればクビにして終わりでしょうから。これは日本企業、ひいては日本という国家への信頼すら失わせる行為です。海外拠点を姥捨て山扱いするのだけは本当にやめるべきです。
逆に先に述べた形でのトップダウンでの意思決定が明確であれば、下からのコミットが容易となるばかりでなく、ビジョンの修正を相互に諮ることで円滑なコミュニケーションが自ずと必要となり「調和」を軸とした海外拠点の構築に一役買うといったメリットが生まれます。何事か起き判断を仰いだ際に、確固たる決断をとることのできるトップ陣がいれば、安心して部下は仕事ができ、また自分の属する企業への努力を惜しまなくなるでしょう。トップダウンの意思決定とは意思を押し付けることではなく、はっきりとした枠組みを与えて調整を加えつつ各自にゴール地点を見つけさせることなのだと思います。
これを実現させるには、判断力、決断力と行動力に長け、きちんと責任をとることのできる人財が必要です。長期的視野を持っていれば、保身に走らず、自分の能力を十二分に発揮することこそ求められているのだと理解し、真のリーダーシップを発揮して人望も勝ち得つつ組織を発展させていくことに真摯に打ち込めるのだと思います。組織を発展させてこそのマネージメントなのですから。
【執筆者プロフィール】
川村 朋子
元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。 現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。
リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得 主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。