「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第3回 コンプライアンスについて~ - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第3回 コンプライアンスについて~

さて、今回は「コンプライアンス」(法令遵守)について書かせて頂きます。

90年代の終わり頃から「コンプライアンス」というカタカナ語を頻繁に耳にするようになりましたが、実用日本語表現辞典では、カタカナ語の「コンプライアンス」について、『日本語におけるカタカナ語としてのコンプライアンスは、もっぱら「法令遵守」と訳され、企業における法律や倫理に則った企業活動を指す語として用いられている。企業の不祥事や不正行為が頻発する風潮を背景に一般的になった語と言い得る』[i]と説明されています。今回は、この狭義の「企業コンプライアンス」についてばかりでなく、個人としての法令遵守義務についても記していきたいと思います。

海外に赴任した際に一番最初にしなければならないのは、その国に合法に滞在し労働する許可を当該国関係機関より取得することです。それなりの規模の企業であれば、所謂滞在/労働許可証の取得は人事が代理申請することになるためか、「一応重要な書類」程度の認識しかもたれていない気がします。ドイツやベルギー等においては比較的手続きが簡略で短期間に滞在許可証が取得できるのですが、フランスについては大分手続き期間が短縮されたとはいえ、直に滞在許可証が発行されないこともままあるのが実情です。結果、日本で取得した入国時に必要なビザの期限は切れているにも拘らず滞在許可証が発行されておらず、不法滞在とは言えなくとも「合法滞在を証明する書類がない」という空白の状況が生まれることがあります。この空白状況を埋めるための「仮滞在許可証」というものも存在するのですが、市区町村によってはこれを発行しないところもあるからです。

滞在許可証の手続き中は原則国外に出ることは禁止されているのですが、欧州においてはシェンゲン協定のおかげで国境は無きにしも非ずの状況の上、地続きで国境の概念が湧きにくいこともあり、「多分パスポートコントロールは無いはず」とか「陸路だから大丈夫のはず」などと根拠も無く自分に言い聞かせ、「仕事が一番大事だから」と言い訳して国外出張を優先する駐在員の方を時折見かけます。仕事が大事なのは分かります。しかし、仕事よりも大事なのは駐在する国においても法に触れる行為を行わない、滞在国の法令を遵守することです。一般的なコンプライアンスは多くの国々において同じであり、あえて法を犯す行為を行うことはないと思いますが、「国境」と「合法滞在」という概念が軽視されるきらいがあるのは否めないところです。かつて外交官補としてフランス大使館に着任して総務参事官に一番最初に言われた言葉が「くれぐれも滞在許可証を取得するまで国外に出ないように」との注意喚起でした。外交を志すものでもこうした概念に疎いということでしょう。因みに、仮に国境で足止めされ入国できなくなった場合、日本大使館は何もしてくれません。あくまでも個人責任ですのでお忘れなく。

次に「企業コンプライアンス」の意味合いでのコンプライアンスの面で気が付くのは、グローバル企業にあっても「国際法」の観念が薄いところでしょうか。

日本企業と外国企業間で取引を行う場合、国内企業が直接外国企業と取引を行う場合もありますが、規模が多少拡大すれば多くの場合国内企業のグループ企業という形で国外に設立された事務所が仲介に立ち外国企業と取引を行う形に移行していくことになります。この場合、日本企業Aとグループ企業A´と外国企業Bという2段階の商取引となり、国内グローバル部署は在外グループ企業に対する「売価」を管理、在外グループ企業は日本からの「買価」を管理しつつ、外国企業に対する『売価』を管理することになるわけです。この形になった途端、国内部署はA´に対する「売価」と利益率にのみ着眼し、取引の最終である『売価』とのリンクを忘れがちになります。

そこで問題になるのが、次のような事例です。例えば、原価値上がり等様々な諸事情によりA´への「売価」を上げなければならない場合、最終的な外国企業への『売価』をA´がまず上げなければ「売価」を上げることはできないにも拘らず、そこの交渉に時間がかかり過ぎるが故に最終『売価』変更合意が成っていなくても「売価」を上げてしまうという強硬手段に本社が出るといった事例。また反対に、新規ビジネス受注等と併せ顧客から『売価』の値下げを要求されPOまで発行されてしまっているにも拘らず、本社側が「売価」の値下げに応じないといった事例。これが数日、数週間の誤差であれば言い訳も成り立つかもしれませんが、数ヶ月以上も継続している場合には明らかに国際貿易法上違反行為と見做されえます。

どちらも本社サイドのほうが立場が強いが上に、在外グループ企業の要求が通りにくいといった状況が往々にして起こるところに発端があるのですが、Aの「売価」はA´の「買価」であり最終顧客『売価』より価格が低いことは「国際貿易法に違反」するといった最低限のコンプライアンスを本社サイドも在外グループ企業サイドも保持していれば、利益率だの、交渉能力が無いだのといった内輪もめはまず横において、コンプライアンスに向けての動き、つまり買価<売価への是正という動きを速やかにとることができるのでしょうが、話し合いが平行線のまま問題棚上げになっている事例も実際にはあるようです。勿論、該当する「モノ」が日本国内では売られていなければまた別の話なのですが。

というわけで、不正行為をしている自覚は無くても「コンプライアンス」が行き届いていない側面があるグローバル企業も中にはあり、各社改善の余地がある点指摘したところで今回は締めくくらせて頂きます。

次回は、最後に話題に出た本社サイドと在外グループ企業サイドの立ち位置に焦点をあて、経営戦略に出る歪みについて書いていこうかと思っております。

 

[i]  実用日本語表現辞典 「コンプライアンス」http://www.weblio.jp/content/%E3%82%B3%E3%83%B3%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B9

 

【執筆者プロフィール】
川村 朋子

元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得。主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。

 

 

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