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新型肺炎のグローバル経済への影響を知る

中国・武漢市に端を発した新型肺炎の世界的感染拡大は留まるところを知らない。武漢に滞在していた日本人も次々と帰国している。現時点ではまだ140人あまりがまだ武漢に残っていて、受け入れは感染拡大の影響から長期化する可能性もある。中国では沿海部の温州市も都市全体を封じ込む措置を取り始めている。そして死亡者数は2003年に発生したSARSより多くなりつつあることから事態の深刻さがうかがえる。

感染を防ぐための措置として最も重要なのは手洗いである。マスクの着用を第一に考える人が大勢いるものの、予防措置の中で最も重要かつ基本的な目標はウィルスを体内に入れないということである。また、目からも感染し得るのであって一般向けのマスクは不十分であるから、むしろウィルスを経口しないという観点から手洗いのほうが効果的であるのだ。

(図表1 新型ウィルス感染の主な予防法)

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(出典:毎日新聞)

我々研究所の最新の中期の予測分析シナリオ「Tochter aus Elysium」で述べたとおり、今年(2020年)最も注目しなければならないことの一つはパンデミックである。
新型肺炎が経済に与える影響は増大していく中でどれほど感染が拡大していくのか、本稿では、去る2003年のSARSのデータも引用しながら比較していきたい。
まず感染者が最も多い中国での経済への影響だ。今回武漢では、2つの病院が驚くべきスピードで建設された。去る23日に工事が始まり、今日(3日)から開院したという。いずれも患者を1,500人以上収容できる 。建設に当たり政府は新たに3億元(47億円相当)の追加予算を申請しているとされ、新しい病院の建設はそれを更に超える金額になると推察される。国有企業の建設会社が「報酬とコストを考えずタイムリーに納品」を合言葉として正式に発表。政府としても今次感染についてはかなり深刻に考えているということだ。
病院の建設だけでなく、新しく投入される医療人員や薬品、医療用ベッド、更には薬品などのニーズは増す一方、すべて税金から賄うために経済への影響は必至である。また、シンガポールから武漢に渡航した人はすべて上陸後に隔離されたという。隔離のための費用、体温検査の費用、更に心理学者のケア費用なども含めれば膨大な支出になる。
以前では中国人が病気の時、マスクを着用するという習慣はなかった。しかし今回の肺炎の影響を受け、武漢市以外でもマスクを着用する人が増えている。
また、国内でのマスク生産不足で日本のメーカーへのオーダーも飛躍的に増加している。春節の休暇日数も当初より2日延び、2月9日までになっていて、大学も全面休校となっている。
以上述べた通り、新型肺炎の中国全土への影響は必至である。国民の大移動を伴い、中国で最も儲かる「春節」と重なってしまった。2003年のSARSでは中国における各四半期の国内総生産(GDP)成長率はそれぞれ11.1パーセント、9.1パーセント、10パーセント、そして10パーセントであった。SARSが最も流行った時期は第二四半期であり9.1パーセントだった 。中国全体の経済量を考えた場合、9.1パーセントの成長率は決して低いものではなかったものの、第一四半期と第三四半期と比べ1.5パーセント低下している。
また当時の中国では工業が経済を牽引していたため、成長率はまだ上向きであった。しかし今や、経済成長の牽引力となるのは第三次産業である。新型肺炎の感染拡大防止のため、人の流れが制限されれば、サービスに対して反攻があり、企業自身にもダメージを与える。
幸いなことに米中貿易協議は“休戦状態”。まだ有効な治療法はない。
猛威を奮う新型肺炎だが、日本の場合はどうなるのであろう。まず観光業に対するダメージは必至である。それとは別に、一部隔離されていない人の存在、今後医療器械の不足も考えられることから、感染拡大防止が重要である。
武漢からの第一次チャーター便206人のうち、2人が肺炎と診断されているが、これはストレスによるものである可能性もある。
世界的には、今後パンデミックの発生に備えて医療設備の準備が進められている。専門家の予測によると、今回の新型肺炎の世界経済に対する脅威は2003年のSARSより深刻なものであることがわかった :

“2003年当時、世界のGDPに対する中国の寄与度はわずか4%、世界の成長額に占める割合も同程度だった。
しかし今年の寄与度は約17%、成長額に占める割合は29%に達する見通しだ。今までIMFが今年の世界の成長率見通しを3.3%に下方修正するとしていた主な理由はインド経済の低迷だった。
新型コロナ・ウィルスの感染者が米国からオーストラリアと出現するようになり、一部の国は入国した者を追い返したり隔離措置を取ったりしている。中国の新たな大流行はまさしく新たな脅威だ”

中国の中央銀行である「中国人民銀行」が昨日(3日)、金融市場に1兆2000億人民元(日本円で18兆円余り相当)を投入すると発表した。もちろんその狙いは大量の資金を市場に供給し銀行が貸し出すことができる資金を増やすことで、企業の資金繰りを支援するものだ。但しこれら企業が生存するためには人口の流動性が必要であり、新型肺炎に対するワクチンが開発できるかどうかも併せて考慮に入れるべきである。

グローバル・インテリジェンス・ユニット
リサーチャー 王 鵬程 記す

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