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イスラエル勢「空飛ぶ車」の成り立ちは

近い将来、イスラエル勢の「空飛ぶ車」が世界を席巻するかもしれない。

イスラエル勢のヴェンチャー企業であるアーバン・エアロノーティクス(AE)が開発中の「垂直離着陸」を可能にした車「シティ・ホーク」が米ウーバーのサーヴィス、エア・タクシーとして稼働する旨“喧伝”されている。

 

(図表 アーバン・エアロノーティクス社の空飛ぶ車『シティ・ホーク』)

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(出典:ISRAEL21C

 

アーバン・エアロノーティクス(AE)のシティ・ホークの最大の特徴はヘリコプターのローター機能は持たず一見すると自動車のような点である。機体の下部に格納されている前後の大型プロペラによって垂直飛行を可能にする。AEはこのシティ・ホークについては特許を取得、最高時速は180キロメートル、最大荷重は800キロとされ、同社では2020年の実用化を目指しているという。

AE社にこうした「空飛ぶ車」の開発を要請したのはイスラエル国防軍である。軍は2006年に発生したレバノン戦争における経験から、市街地などヘリコプターが着陸できない場所において負傷した兵士を救い出すという技術の必要性を感じたとされる。他方で、予備役を除き、イスラエル国防軍の兵力数は約17万5000人でイラン勢の兵力約52万人の3分の1に過ぎないのだ。シティ・ホークはまずは救急用に運用開始される見込みだが、イスラエル勢にとっては負傷兵を一人でも多く救助することは戦略上極めて重要なのであり、空飛ぶ車が実用化されれば負傷兵の生存率も上がることになる。ちなみにシティ・ホークには水素燃料が搭載される予定だ。

 

(図表 シティ・ホークの構造)

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(出典:URBAN AERONAUTICS

 

イスラエル勢においては軍と民間経済が極めて密接につながっているのが特徴である。イスラエル勢におけるヴェンチャー企業の創設者の中にはイスラエル国防軍の兵役で学んだ技能を民間企業でも活かすといったケースが非常に多い。高度な諜報・軍事技術が同国内における起業に役立つことが多いということなのである。

この文脈で重要なのは、イスラエル勢が誇る世界有数の電子諜報部隊「8200部隊」の存在がある。8200部隊はイスラエル国防軍の部隊の一つで組織的にハッキングも行う精鋭集団だ。8200部隊のユニークさはその卒業生の「行く先」かもしれない。同部隊の出身者が創業したヴェンチャー企業は1000社に上り、世界のサイバー・セキュリティ・マーケットのヴェンチャー投資額の約15パーセントがイスラエル勢に流れ込んでいるという。8200部隊での訓練が起業にも役立っているとする意見もあり、自分の頭で考えて知恵を絞るという経験が経営にも活かせるのだという。

イスラエル勢にはヴェンチャー・キャピタル(VC)ファンドが存在しているが、イスラエル政府は1993年に「ヨズマ(英語でイニシアティヴ)」計画というVC支援計画を始動させる。政府がまず1億ドルを投資し新たに10個のヴェンチャー・キャピタル・ファンドを作らなくてはならない。当時の政府のねらいはイスラエル勢への投資をためらっていた米国勢を取り込む狙いがあったようである。他方で、米国勢はイスラエル勢と「世紀の取引」の実現に向けて協力関係にあるが、イスラエル勢によるヨルダン西岸併合計画は依然として風当たりが強い。そうした中で我が国の一部企業もイスラエル勢に接近し始めている。大手自動車メーカーはテルアヴィヴに3か所目となるイノヴェーション開発拠点を、損害保険大手は我が国における交通事故問題解決に向けてイスラエル勢のスタートアップ企業との連携を模索している。

 

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

羽富 宏文 記す

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