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アフガン情勢に我が国も無関心ではいられない理由 (IISIA研究員レポート Vol.51)

「8月15日」、我が国にとっては「終戦の日」であると同時に、米国勢にとっては日本勢に勝利した日であるが、今年(2021年)の8月15日は米国勢にとっては敗北の日となった。

アフガニスタン勢で進攻を続ける反政府組織タリバンが首都カヴールを制圧し、政権を奪取したのである。8月15日以降、世界のメディアはアフガン情勢一色となった。主な論点は、(1)各国大使館職員等の出国状況といったミクロな報道から、(2)今次のタリバンの進攻を招いたとされるバイデン米政権のアフガン撤退に対する批判、(3)アフガニスタン勢が「帝国の墓場」と呼ばれる歴史的経緯とそこに足を踏み入れた中国勢の意図など多岐にわたっている。

我が国ではお盆の最中で、しかも「災害級の大雨」が続く中で、どうもアフガン情勢のニュースが霞んでしまった感を拭えないが、アフガン情勢の行方は、我が国にとっても他人事ではない重要な地政学リスクなのである。そこで本稿では、上記(1)~(3)の論点を追っていくことで、アフガン情勢が我が国にとって重要である所以を明らかにしたい。

(1)アフガニスタン勢からの出国

いち早く出国したのがアフガニスタン勢の大統領ガニであった。ロシア通信は、「車4台に現金を詰め込み、一部をヘリコプターに押し込もうとした。入りきらなかった金は駐機場に置いていった」とガニ逃亡の様子を詳細に伝えている。それまで米国勢を後ろ盾としていたガニ政権の混乱ぶりを印象づけたいロシア勢の意図も見え隠れする(参考)。15日午後にカヴールを出国したガニ氏は、初め隣国のタジキスタン勢に向かったが着陸を拒否され、結局、アラブ首長国連邦勢(UAE)に退避した。最終的には、未だにガニ「大統領」と呼び続けている米国勢に向かう可能性が高い(参考)。

(図表:トランプ前米大統領と握手しているガニ大統領)

(出典:Wikipedia

各国の大使館のスタッフも早々に脱出を開始した。カヴール国際空港を離発着する軍用機リストをみると、8割が米軍機で、残りが英国勢、ドイツ勢、フランス勢、カナダ勢などNATO主要国が続いていることがわかる(参考)。まさにこの地域へのコミットメントの多かった国々のリストともとれるが、我が国の航空機は一機も離発着していない。

我が国外務省の発表によると、日本大使館館員12名は、「友好国の軍用機」により、カヴール国際空港から出国し、アラブ首長国連邦勢(UAE)のドバイに退避したとのことだが(参考)、ここでいう「友好国」とは英国勢である(参考)。もっとも、日本大使館や国際協力機構(JICA)事務所で働いていたアフガニスタン人の現地スタッフやその家族は、国外に退避する見通しが立たないまま、アフガン国内にとどまっているという(参考)。

さらに絶望的な状況にあるのが、何ら伝手のない一般的なアフガニスタン人である。カヴール国際空港の滑走路にまで押し寄せ、米軍のC-17輸送機に群がる光景は、我が国のメディアでもショッキングに報じられたが、いかにタリバン政権への回帰が多くのアフガニスタン人にとって絶望的な状況なのかが痛いほどわかる映像であった。

(図表:米軍のC-17輸送機に群がるアフガニスタン勢の人々)

(出典:Twitter

これに対し、欧州各国は、「これまで助けてくれた現地人を保護するのは義務」だとして救出作戦を開始している。英国勢やフランス勢などの大使は、一人でも多くのアフガン人を救出するべく、空港でもビザを発給し続けている旨、Twitter上などで“喧伝”されていた(参考)。ドイツ勢も軍用輸送機A400Mなど3機を派遣し、カヴールとウズベキスタン勢のタシュケント間でのピストン輸送を行っている。西側諸国にとりインテリジェンスの拠点となっているウズベキスタン勢の地政学的重要性が改めて浮き彫りになった(参考)。

ある国の政権が崩壊するとはどういうことを意味するのかを、今次アフガン情勢を通じて我が国も真剣に顧みなければなるまい。

(2)バイデン米政権に対する批判

そして、今次の混乱を招いたとされる米国勢への批判も高まっているが、これに対し、バイデン米大統領は、政権崩壊翌日の8月16日にアフガン撤退の「正当化」演説を行ったが、その演説の中で、次のような我が国にとっても耳の痛くなるような「忠告」が含まれていたからである:

American troops cannot and should not be fighting in a war and dying in a war that Afghan forces are not willing to fight for themselves.(米国軍はアフガニスタン軍が戦う意思がない戦争で戦うべきではないし、死ぬべきでない)

次で述べるように、中国勢をとりまく情勢も不穏な動きを見せる中で、いざ我が国が有事に巻き込まれた際にも、果たして日米同盟が有効に機能するのか否かは、我が国の「戦う意思」にかかっているということを今次の「忠告」は暗示しているのではないだろうか。

(3)「帝国の墓場」に足を踏み入れた中国勢の意図

そして最後に、今次アフガン情勢が我が国にとり重要な最大の要因が、中国勢とタリバンの蜜月関係にある。「帝国の墓場」とも言われるアフガンに、中国勢がなぜわざわざ足を踏み入れたのかという点を改めて考えなければならない。

そうすると、その裏には米国勢でさえ匙を投げたアフガン情勢を中国勢が敢えて「引き取る」ことで、米国勢はその「見返り」として中国勢の台湾有事に「目を瞑る」というディールがあるいはあったのではないかともとれるわけである。事実、タリバンが首都カヴールを制圧してから2日後の8月17日には、中国勢は台湾周辺で実戦的な軍事演習を行ったと発表している(参考)。

かつて2014年にロシア勢によりウクライナ危機が勃発して以降、中国勢は南シナ海への進攻を強化したという連関性(リンケージ)がみられたが、今次アフガン情勢も同じようなリンケージがフラクタルに再現されるのか、その場合、尖閣諸島、沖縄をかかえる我が国はすべからく有事に巻き込まれるということを念頭におきつつ、今次アフガン情勢を注視していかねばなるまい。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

原田 大靖 記す

前回のコラム:「中国バブル崩壊」のトリガーとなるものとは?(IISIA研究員レポート Vol.50

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