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「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第34回 各国法規と企業の対応

毎日35℃越えの猛暑警報が出ている@フランスです。

ということで、今回は異常気象から窺える各国法規と企業の対応について考えてみたいと思います。

毎日30℃越えなんていうのは日本では当たり前のことで珍しくもありませんが、欧州では全国的に30度を超えるなんていうのは年に数日あるかないかという程度で、湿度も比較的低いことから、直射日光が当たる場所は暑くても木陰に入れば涼しいというのが定説でした。が、ここ数年の暑さは明らかに異常気象と呼べる暑さです。今は木陰でも普通に37度になってしまうのです。猛暑の日数も明らかに増加しています。問題は30-40年前くらいの日本と同じで、冷房がある場所が限られている点です。個人宅はもとより、事務所でも冷房完備でないところはまだまだ多く、35度くらいの頭が朦朧となりそうなオフィスで仕事をせざるをえないなんていう事態は至る所で起こっています。仕事は地味にさぼれますが(笑)、現在、大学入学資格試験(Bac)の真最中。勿論学校に冷房など設置されていませんので、40度近い教室で1科目3-4時間のテストを受けている高校生はかわいそうで仕方がありません。

各国法規が異なっており、隣国ドイツでは2011年の法律で、労働場所の気温が26度を超える場合には雇用者が被雇用者の安全と健康を確保するために必要な措置をとる必要があるときていされました。30度以上ではより適切な措置を求められ、35度以上では安全条件を満たさないと見做されます。また、別の隣国ベルギーでは2012年に気温に関する労働法が作成され、労働条件によって許容最高気温が決定されており、重労働従事者に対しては18度、室内での軽労働従事者に対しても気温が29度を超える場合には雇用者が冷房設備を設置する義務が課せられています。一方、フランスの法律では温度規定が全くなく、「命や健康に深刻な危険をもたらすと考えうる労働状況」であるならば、仕事を中断して帰宅が可能という曖昧な文面に留まっており、これを盾に冷房設備設置の必要なしと一蹴する中小企業も多いようです。2003年夏の猛暑では欧州各地で暑さによる死者が7万人にも上り、フランスだけでも2万人の死者を出し、こうした状況を受け、2013年には雇用健康保険機構が「室内気温が34度以上になった場合には室内から速やかに退出する」よう推奨していますが、あくまで推奨に過ぎません。2015年に40度を記録した際に、隣国ドイツと同様35度を超える場合には即刻退社の規定を作成すべきとの動きが議会で見られましたが、結局法制化には至っておりません。

企業によっては、こうした各国の違いをいいように盾にとって、ある面では欧州各国にある本社・支社の待遇を一律にする一方で、ある面では法律がないことを理由に待遇を国ごとに違え、つまらないことで不満・不平の種を生んでいることが時々あります。例えば、欧州各国同じユーロを使っていても物価水準は違うのに、役職ごとに給与レベルが一律であったり、購入してよい社用車の金額が同じであったり、本社・各国支社の「待遇一律」を謳っている一方で(既にそれが待遇一律でないことに気づいていない)、それこそフランス支社にだけ冷房設置を行わないであるとか、本社にだけ特別年末休暇を与える等、他の面では「法律」を盾に「待遇一律」を行わないといった事例。こうした矛盾を放置しておくと、当然、待遇の差に不満が沸き上がるばかりでなく、システムが機能していない企業と見做して人材が離れていく理由にもなると同時に、そもそもドイツなど物価レベルが欧州内でも高い国では人材が全く見つからないという問題が起こってきてしまいます。「待遇一律」を謳うのであればすべて一律に、そうでないならば全てを各国の状況にあわせるという、筋の通った「対応システム」を構築しておかないと後々の社内管理が非常に煩雑になってきてしまいます。

多くの場合、海外グループ企業への赴任者は、例え海外グループのシステムがおかしいと感じても、それをどうにかした方がいいとは思いつつ、そこまで余力がなく、結局は何もできずに日本に戻ってしまっているのだと思います。そこで何かを成しえる力がある方こそ「グローバル人財」と言えるのではないでしょうか ?

プロフィール

川村 朋子

元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。
現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。

リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得
主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。

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