「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第22回 韓進海運破綻に見る情報リテラシー能力の必要性 – IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 – haradatakeo.com
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「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第22回 韓進海運破綻に見る情報リテラシー能力の必要性

 長い夏休みが終わり新学期が始まりました。ニースでのテロ事件を受け非常事態宣言を延長したフランスでは、昨年度よりもさらに厳戒態勢が高まっています。この国では小学生でも保護者が登下校に付き添う規則となっているのですが、今年度は下校時間を学年毎に少しずつずらして設定し一人ずつ生徒を出すようにする等登下校時に校門を最小限しか開かない努力がなされている他、事件があったばかりのニース市では各学校施設に警官を配置する等、不審者の侵入を軽減する措置が施されています。レア・ポケモンの学校施設への配置も全面的な撤廃を呼び掛けていました(笑)。そしてもう一つ、今年度新たに登場したのが「ライシテ(教育・宗教分離)憲章」。フランスでは毎年学校内部規則に違反しないという誓約書を必ず提出しなければならないのですが、この学校内部規則の最後のページに「共和国はライック(宗教を公共の場に持ち込まない)である」とする15条からなる「ライシテ憲章」が付け加えられており[1]、前回話したブルキニ騒動に見るように、フランスに在住するならば「フランス共和国の理念」を尊重するのが当然とする、フランス国家の強い意志が窺われます。

 フランスの近況はさておき、今回は海外に拠点を持つ本邦企業の中には「物の輸出入」を扱っている業者も多いと思いますので、韓進海運破綻の影響とこうした状況を最小限に抑えるための情報リテラシー能力の重要性について考えてみたいと思います。

 韓進海運が8月31日に日本の会社更生法適用に当たる法定管理を申請し事実上倒産したことは皆様御存知だと思いますが、韓国トップ、世界でも第7位の海運業者の倒産であっても、世界経済的には「一時的に海運事業に混乱は生じるものの年末ぐらいには終息する模様で多大な影響はない」的な見方がメディア等では散見されるようです。しかし、同社の「荷主」として貧乏くじを引いてしまっている日本企業は意外に多いのではないでしょうか ??

 貧乏くじを引いてしまった企業の中には、所詮は他人ごとだろうからマスコミは勝手なことを書いているが、多大な影響はないなど当事者でもないのに言うな!と声を大にしたい向きもあることでしょう。同社コンテナについては、入港拒否され立ち往生している船舶の積み荷のみならず、水揚げ済みのコンテナ内の積み荷も引き渡し不可能の状況が続いており、この分を挽回しようにも、被害に遭っている各社が同じことを考えているため、限られた積み荷枠がエア枠も含め手一杯で物を運びたくても運べないという状況にまでなってきており、特に米国向けの輸出が圧倒的な被害を受けています。欧州向けでも米国向けに比べ規模は小さいながら韓進枠での輸送は行われており、ロッテルダム港やハンブルク港では、水揚げ済みのコンテナについて先週は「荷主」が代わりに港湾料支払いを行うよう発表したかと思えば、5日には韓進が払うべき費用を「荷主」に課すのは違法との判断を裁判所が下すなど現場は混乱を極めている状況です。多少余裕のある企業であれば、積み荷価格を考慮すれば数千ユーロの費用を肩代わりしてでも積み荷を引き取ろうとの動きを見せるでしょうが、それが出来ない企業もあるわけで、司法が介入したとなると、調整がつくまで結局は荷受けできない状況が続きそうです。つまり、運悪く韓進を使用していた企業は、本社並びに各拠点での現場の進捗状況聴取と積み荷確保への動き、高負荷をかけての通常以上の挽回生産及び代替品送付手続き、今後の輸送枠確保、損害賠償手続きなど諸々の手番が発生するわけであり、「失う可能性のある積み荷」以上の損失を被っていることになります。今後輸送価格も上がる可能性が高くそれを製品価格に反映するための顧客との攻防も必要になる一方で、納期までに納入できず顧客を失う事態すら発生しかねません。

 では、こうした状況を各社とも回避することができたのでしょうか ?多くの企業では、万一の事態を想定して輸送枠として数社を同時並行して使用していることが多いと思いますので、仮に同社を使用していたとしても、全ての出荷品が「無」になるといった最悪の事態は起こっていないかと思います。一方で、数社を並行利用していたのですから、韓進海運の状況を関連部署が理解していたのであれば、輸送枠が限られている中で同社への荷量をゼロにすることはできなかったにしろ、出来る限り減らすという努力はできていたかもしれません。同社は今年5月頃から流動性危機が始まっており、法定管理を申請する可能性が高くなっていました。こうした状況を的確に判断し、経営に反映できていれば、損失は最小限に抑えられていたことでしょう。これこそが情報リテラシー能力です。こうした事態はそう度々起こることではありませんが、事業に直結するしないに拘わらず、様々な方面の情報を収集し活用できる力があれば、また、そうした能力がある人財を活用できる企業であることが、損失を生み出さないために重要であるのだということを、今回の韓進破綻劇が教示してくれているような気がします。

プロフィール

川村 朋子

元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。
現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。

リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得
主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。

[1] http://cache.media.education.gouv.fr/file/09_Septembre/64/0/chartelaicite_3_268640.pdf

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