SDGs達成への切り札としての“国際連帯税”~その復権の可能性は~(IISIA研究員レポート Vol.77)
大型台風やサイクロンなど気象現象が深刻化し、各地において被害や損失が相次いでいる。様々な損害保険制度や国際支援団体等は存在するものの、被害の多くは開発途上国に集中し、被害者自身がその代償の多くを物質的にも金銭的にも払わされるというケースがほとんどだというのは、いささか理不尽である。
(図表:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書)
(出典:IPCC)
こうした点に関する問題提起として、あるバングラデシュ勢のジャーナリストは、世界の人々が連帯して気候変動問題による被害の補償を負担すべきであると指摘している。気候変動問題による損失をできるだけ回避し、最小限に抑えるべく対処するには、あらゆる国の人々が貢献できるクラウド・ファンディング・スキームを設けることが必要であると主張している(参考)。
このように、あまねく世界の人々が費用負担しながら、国連が定めた「持続可能な開発目標(SDGs)」などを含めたグローバルな問題の解決を進めるべきであるという主張は、去る2000年代から本格的に検討され始めた、いわゆる「国際連帯税(international solidarity levy)」においても論じられた概念である。気候変動や貧困、感染症などの地球規模の問題への対策資金を創出するため、国境を越えるモノ、人、金(マネー)の移動に課税して、その税収を開発途上国における開発資金として充当するという制度である。その一例として、去る2006年、国連の「革新的開発資金メカニズムに関するパリ会議」で「航空券連帯税」の実施が決まり、13か国で導入されることになった(参考)。
一方で、我が国では「国際連帯税」の導入は去る2010年度から検討されてきたが、航空料金に上乗せするという手法に対する反発もあり、実現を断念したように(参考)、「国際連帯税」が一種の税として受け入れられ、各国勢で定着するには様々な課題がある。英国勢の経済学者で18世紀に活躍したアダム・スミスは税に関する4原則として、「公平の原則」「明確の原則」「便宜の原則」「最小徴税費の原則」を提起した。その後、19世紀にドイツ勢のアドルフ・ワグナーは4大原則(「財政政策」「国民経済」「公正」「租税行政」)・9原則をまとめ、さらに20世紀以降では、米国勢の著名な経済学者であるリチャード・マスグレイヴは、税の基本原則として「十分性」「公平」「最終負担者への配慮」「課税の中立(効率性)」「経済の安定と成長」「明確性」「費用最小」という7つの条件を挙げた(参考)。つまり、税として存在するためには「公平な費用負担」で、「中立で明確な運用」を行い、「分かりやすく簡素なしくみ」でなければならないという条件を満たす必要があると考えられる。
「国際連帯税」が上記のような条件を満たしているのかについて言えば、租税は恣意的であってはならないという「明確の原則」に抵触するのではないかという指摘が考えられる。こうした観点から疑念を突き付けてきたのは、国際航空運送協会(International Air Transport Association・IATA)のような業界団体であり(参考)、その他には主に米国勢が強く反対してきたという指摘もある(参考)。
しかし、開発途上国に向けた各種のサポートや対策は急がなければならない中、こうした反対論を説得するためには、2つの対応策が考えられる。第一に、「国際連帯税」を国連またはその他国際機関の管轄下にある独自の財源とすることによってその団体に資金力を与え、「国際連帯税」導入に向けた取り組みが機能不全に陥ることを防ぐことである。第二に、「国際連帯税」の目的をより明確化することで「恣意的な運用」という批判を抑えることができるとも考えられている。
この第二の論点については、今次パンデミックがもたらした経済的混乱を経験した世界では、パンデミックへの対処こそが「国際連帯税」導入の目的となりうるとの考えも語られ始めている。例えば、国際通貨基金(IMF)の関係者はパンデミックの下で繁栄した高所得者や企業は、パンデミックで最も大きな打撃を受けた人々との連帯を示すために追加の税金を支払うべきだと指摘している(参考)。
これまで、停滞してきたかのように見られている「国際連帯税」に関する議論ではあるが、導入の目的をはっきりさせ、導入をリードしている国連に資金力を与えることができれば、今後、国際展開が期待できるのであり、ポスト・パンデミックの時代にこそ「国際連帯税」の動向により一層注目していくべきではないだろうか。
グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー
倉持 正胤 記す