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IGF2023「公務員の能力向上とDX」に出席して。(「IISIA技術ブログ」Vol. 8)

今回は少し毛色の違うコラムをアップすることにしたい。具体的には京都にて開催されているインターネット・ガヴァナンス・フォーラム(IGF)2023のワークショップであり、国連科学教育文化機関(UNESCO)がリーダーシップを務めた「公務員の能力向上とDX(Empowering Civil Servants for Digital Transformation)」セッションに10日(JST)、UNESCO側からの招待を受ける形で筆者はスピーカーとして出席した。いかなる経緯であったかは分からないが、開催される数日前に先方から急に依頼があり、実のところ極めて重要なグローバル案件で他用があったのだが、UNESCO,さらには国連との関係性強化という観点から急遽、出席を決断したものである。

UNESCOはデジタル・トランスフォーメーション(DX)を推し進めるべく、特に加盟国の政府内で働く公務員(civil servants)への浸透を図るべしという命題をここに来て掲げている。そこには当然、人工知能(AI)がスコープとして入ってくるわけであるが、2006年に行われたIGFアテネ総会の場でこの関連であらゆるステークホルダーを網羅するダイナミック・コアリション(Dynamic Coalition, DC)の結成が決定された経緯がある。爾来、UNESCO主導でIGFの場を通じてこのDCによる活動を巡る議論が行われてきた経緯があるものの、実体としてはなかなか議論が進んでこなかったようである。そうした中でUNESCOは今般、”Artificial Intelligence and Digital Transformation. Competencies for Civil Servants”と題するペーパーを公表。これをベースとしてDCとしても作業項目をそろそろ具体化しなければならないという流れで今回の議論が取り進められた。

あらゆるステークホルダーに対してオープンであるというDCの理念どおり、今回のワークショップも実に多種多様なスピーカーたちの出席を得て開催された。UNESCO側からのリードを受けて、筆者の隣のアフリカ出身のスピーカーから順番に発言を行った。スピーカーとして我が国から出席をしたのは民間代表としての弊研究所並びにそのリーダーシップである筆者だけであった。筆者からは概ね次のとおり英語で発言を行った。

―官僚制は「不透明性(instranparency)」を旨としている。なぜならば政治がそうした不透明性を必要としており、その結果としてあり得べき全てのステークホルダーとのディールが可能になってくるからだ。したがって(物事をはっきりさせる)AIの導入に公務員らが嫌々であるのは当然のことなのであって、その点をまず理解して事にかかる必要がある。その際、一概に公務といってもAIの導入に適したものから、そうではないものまで様々である点に留意しなければならない。自分(筆者)は外交官であった経歴があるわけだが、例えば外務大臣のスピーチを生成系AIに任せるといったことは到底あり得ないであろう。まずは公務の中で腑分けをした上で議論をしなければならない。

―次に公務員の世界においてデジタル・トランスフォーメーションを推し進めていくためには、一般公衆による参画(public engagement)がより一層不可欠であると考える。例えばUNESCOにおけるこのDCによる作業は、大変恐縮ながら、我が国社会において全くもって知られていない。こうした状況は是正されるべきなのであって、その際、非常に重要なのが「人口減少(declining population)」である。この場に集まられた途上国からの出席者各位には想像だに出来ないかもしれないが、我が国においては今、人口減少問題の影響が甚だしく、民間セクターでは生成系AIの導入が不可欠といった流れになってきている。こうした一般公衆、社会の側における問題状況とうまく連携しつつ、DCの作業も推し進めるべきである。

―最後にそもそもデジタル・トランスフォーメーションでいう「AI」とは何であるのか、という根源的な問いがある。技術的に見ると現状のAIは「パターン・マッチング(pattern matching)」に過ぎない。その計算結果はsparseなのであって、そういったレヴェルの代物に公務を依存させてはならないというのもまた理がかなっているのである。したがって、UNESCOやDCとしては、アカデミア等で推し進められているこのレヴェルでのAIを乗り越えるための技術開発について支援を行っていくべきだと考える。

それ以外にも大勢のスピーカーから発言があったが、中でも活発に発言をしていたのが流暢な英語で話すアフリカ諸国の国会議員たちであったのが大変印象的であった。インターネットのみならず、AIについても詳論に立ち入る議論を行っており、「アフリカの時代」の到来を肌で感じた次第である。また、今回の会合へのスピーカーとしての出席により最大の成果となったのが、マカオに所在している国連大学研究所(United Nations University Institute in Macau)の部長より、「生成系AIと外交」と題するwebinarを企画しており、是非協力してくれないかと言われたことであった。AIと外交について修士課程よりテーマとしてきたのが筆者であるだけに、このオファーには2つ返事で応じた。来年(2024年)4月にマカオで国連大学研究所主宰の生成系AIに関する会合が開催されるとのことである、それに向けての議論の積み重ねに対して実質的な貢献を出来ればと考えている。

 

最後にUNESCO側より「関連する知見をシェアするためのコミュニティ創出」「関連する知識を教育するためのツール開発」さらには「政府サイドでの関連の取り組みが行われるにあたって協力する専門家ネットワークの構築」の3つが今回の議論においては浮かび上がった論点であるとのとりまとめがなされ、ワークショップは閉幕した。閉幕後は複数の参加者より筆者も名刺交換を求められたわけであるが、こうした流れを見るに筆者の「元外交官・現独立系シンクタンク代表兼グローバルAiストラテジスト」という立ち位置からの貢献もグローバル社会において少しは役にたったのかなと感じたところである。

2023年10月10日 京都にて

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 代表取締役CEO/グローバルAIストラテジスト

原田 武夫記す