米中対立―「在外公館閉鎖」の応酬の影響―(IISIA研究員レポート Vol.1)
米国勢政府がテキサス州ヒューストンにある中国総領事館の閉鎖命令を出した旨<a href=”https://www.afpbb.com/articles/-/3295215?cx_part=top_topstory&cx_position=1″>報道された</a>。
米国勢はこれを米欧の知的財産と国民の個人情報を保護するためと説明している。
<p style=”text-align: center;”>(図表:在ヒューストン中国総領事館)</p>
<p style=”text-align: center;”><a href=”https://haradatakeo.com/wp/wp-content/uploads/2020/07/20200729.jpg”><img class=”aligncenter size-medium wp-image-82504″ src=”https://haradatakeo.com/wp/wp-content/uploads/2020/07/20200729-300×200.jpg” alt=”20200729″ width=”300″ height=”200″ /></a></p>
<p style=”text-align: center;”>(出典: <a href=”https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2020/07/post-94027.php”>Newsweek日本版</a>)</p>
21日(ワシントン時間)には米司法省が新型コロナウイルスに対するワクチン研究を進める米企業に対するハッキングの容疑で中国人の男2人を逮捕した旨<a href=”https://www.bbc.com/news/world-us-canada-53493028″>発表し</a>、容疑者らについて中国勢政府が支援をしているとして非難していた。在ヒューストン中国総領事館の閉鎖について、同総領事館の技術や知的財産に関わるスパイ活動の拠点になっていると強調している。中国勢は24日、米国勢側の提示した期限の前に同総領事館から撤退したものとみられる。
他方で中国勢政府は23日(北京時間)、米国勢の総領事館閉鎖という対応について米中両国の関係を激しく損なうものであり報復が必須であると<a href=”https://jp.reuters.com/article/usa-china-consulate-beijing-idJPKCN24O0X7″>表明した</a>。24日(北京時間)には成都にある米総領事館に対して閉鎖命令を出した。
自国に駐在する公館の閉鎖措置は通常、相手国が自国の主権等の国益を著しく損なうような場合に行われる。過去には米国勢は2016年にロシア勢との間で同様の対応を取っている。2014年のロシア勢によるクリミア半島併合と2016年の米大統領選に対するロシア勢による介入疑惑を受け、2016年12月に当時のオバマ政権はロシアの外交施設2か所の閉鎖とロシアの外交官35人の国外退去を命じた。翌年7月には米国上下両院で対ロシア制裁強化法案が圧倒的多数の賛成で可決された。これを受けてロシア勢は対抗措置として米外交官ら755人の退去と米外交施設2か所の接収を<a href=”https://www.bbc.com/news/world-europe-40769365″>命じた</a>。これを受けてトランプ政権は在サンフランシスコ ロシア領事館及び在ワシントン 大使館事務局別館、在ニューヨーク 領事館別科公館の閉鎖を通告した。本件ではトランプ米大統領が他の在米中国公館の閉鎖も示唆しており、米中間で更なる公館閉鎖の応酬となる可能性がある。
更に2018年には、同年3月に英国・ソールズベリーにおいて元ロシアスパイ、セルゲイ・スクリパリとその娘の毒殺未遂事件について英国勢政府がロシア勢の関与があったとの結論を下した。これに関連して、英国勢政府は駐英ロシア外交官23人の国外追放を命じた。これに対し米国勢が先導する形で25か国以上の欧米諸国が150人以上のロシア外交官を退去させる対応を取った。これに対してロシア勢は、米国が国外退去処分としたロシア人外交官と同数(60人)の米国人外交官をロシア勢から退去処分とする旨通知した。またセルゲイ・ラブロフ外務大臣は他国の外交官についても同様であると強調した(参考:<a href=”https://www.bbc.com/news/world-us-canada-43545565″>https://www.bbc.com/news/world-us-canada-43545565</a> )。これまでのところ他国で同様の対応が取られる旨の報道はないものの、香港国家安全法を巡り各国との間で対立が深まっており、欧州連合(EU)離脱(BREXIT)を進める英国勢をはじめとして米国勢に協調する国が出てくる可能性がある。
米国勢・中国勢は新型コロナウイス感染症によるパンデミックの責任、香港国家安全法、ウイグル自治区での人権問題、南シナ海の領有権や貿易摩擦といった様々な場面で対立を深めている。本件は外交拠点を閉鎖するという一段と対立構造を進めた形となり、今後の米中勢を巡る動向に注視する必要がある(註:<a href=”https://bit.ly/2CnIVNx”>「2020年夏中期予測分析シナリオ」パラメーター27-36参照</a>)。
<p style=”text-align: right;”>グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す</p>