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国連とダグ・ハマーショルド事務総長 (“情報リテラシー”教育の発展とその向こう側(Vol.7)

8月夏休みの課題図書の一冊として、ダグ・ハマーショルド第2代国連事務総長が執筆した「道しるべ(1967)」が、弊研究所ファウンダー/代表取締役CEO・原田武夫より選出された。読者の皆様の中にも、実際に書籍を手にして読まれた方がいるのではないだろうか。今回は、「ダグ・ハマーショルド×国連」というテーマで、彼の人生を深堀したいと思う。

(写真:図書「道しるべ」)


(参照:みすず書房)

 ダグ・ハマーショルドは、1905年7月29日、スウェーデンの中南部に生まれた。彼の父ハヤルマ・ハマーショルドは第1次世界大戦中のスウェーデン首相であり、控訴院書記官、オランダ・ハーグの常設国際司法裁判所判事、ノーベル財団理事長なども務めた人であった。長兄は生前ハーグの国際司法裁判所の書記を務めた人物でもあり、次兄はスウェーデンの一州の知事で社会保障法立法の提唱者の一人である。三男はコロンビア大学でジャーナリズムを修め、1927年から30年までの間ニューヨーク・タイムズ紙の社会部記者を務めた。
ハマーショルド自身は18歳でウプサラ大学に入学すると、2年後にフランス語、文学史、哲学を専攻して学士号を修め、その後1928年に哲学修士、30年に法学士、33年に法学博士の学位を取得した。これと同時にストックホルム大学の経済学講師に任命され、その後国立銀行の秘書、財務次官、国立銀行総裁、外務次官を経て、無任所大臣として事実上の外務副大臣を務めた超エリートである。スウェーデンと聞けば、手厚い社会保障制度のイメージを抱くかもしれないが、スウェーデンの経済政策や賃金安定計画を作り上げたのもハマーショルドであった。

さて、初代代国連事務総長トリグブ・リーが1952年11月10日、国連総会で辞任の意向を表明すると、後継者の選出が始まった。
フィリピン人のカルロス・P・ロムロ(米国勢推薦)、ポーランド人のスタ二スラフ・クレゼウスキー(ソ連勢推薦)、カナダ人のレスター・ピアソン(デンマーク勢推薦)の3名が最初の候補者であり、特にピアソンはイギリスとフランスからも支持を得ていた。しかしその後無数の候補者の名前が浮上し、なかなか議論は進まず、ついにリーが事務総長の座に留まることも視野に入れると表明。一旦は振出しに戻ってしまうかと思われた。すると、フランス大使アンリ・オプノからの新たな提案として、アメリカ勢が受け入れることのできる4名の名前をソ連大使のワレリアン・ゾリンに提出し、その中からソ連勢が同意できる名前があれば、その者を国連事務総長とするものであった。

「国連の創立準備委員会の事務局長であったため国連事務総長として望ましい資質を十分に理解していたイギリス大使のグラッドウィン・ジェブは、オプノの合意を得てダグ・ハマーショルドをゾリンに提出する四人のうちの一人として含めることを提案した。[B.Urquhart,S Khrushchev,et al.13]p.14」という。
(そのほかの3名は、イランのアッバス・アミル・エンテザーム、メキシコのアマード・ネルボ、オランダのディルク・スティッカーである。)この時ジェブは、イギリス蔵相のスタッフォード・クリップス卿とともにハマーショルドとは既に面識があった。

これに関して、
マーシャル・プランなど欧州地域で立ち上がったばかりの組織のために献身的に働くハマーショルドのことをジェブは高くかっていたのである。さらにジェブは、当時、国連総会へのスウェーデン使節団の代表を務めていたハマーショルドと一緒に仕事をする機会も得ていた。当時、国際的な人物として広く知られていたわけではないハマーショルドだが、職務をともにした人物の間では卓越した評価を得ていたのである。[B.Urquhart,S Khrushchev,et al.13]p.14」と書かれている。
こうして非公式な議論や熟考を重ねた同年3月31日、ジェブは常任理事国がハマーショルドを推薦することで合意に達したことを安全保障理事会に知らせ、1953年4月30日、ハマーショルドは正式に第2代国連事務総長に就任したのだ。

(写真:ダグ・ハマーショルド)
(参照:国際連合広報センター)

 ハマーショルドの人物像について見ていこう。
彼は、スウェーデン学士院の会員になる1年前の演説でブラウンの一節「すべての人間は小宇宙であり、自分の周囲に全世界を作り出すものであるから、一人ぼっちの人間などはありえない」という言葉を引用して、「われわれはこの結論から逃げられるであろうか。[R. Mirror62]p.23」と問うた。

ハマーショルドは、ときにあらゆる宗教に共通してみられる神秘主義に近い発言をすることがあり、国連の黙想室で彼は次のように言ったという。
深い思索と、欲求の本源に立ち至るとき、われわれは孤独であり、天地を感じ、内心の声を聞く。[R. Mirror62]p.23」

本文ではこれに関して以下のように語られている。
このような神秘主義からハマーショルドは夢多い理想主義者、一種の超世界国家論者だったとみる見方が生れる。ところが彼と一緒に仕事をしてきた人々の間では、彼はむしろ夢を破る現実主義者と考えられていた。―中略― 実現可能でタイムリーな解決策に対するすぐれた感覚を持つハマーショルド氏は、現実的理想主義者ともいうべき人だった。彼は、一つの情勢を知的な冷静さでみて、本質と可変要素との相関関係をふるいにかけ、そのうえで憲章の精神に従って現実可能な解決案や暫定措置を考えたのである。[R. Mirror62]p.23,24」

国連事務総長を7年に渡り勤め上げたハマーショルドが、事務総長という地位に対して抱いていた考え方は、「登山に成功する秘訣」と題して彼自身が語った次の言葉でも端的に語られている。(彼は大の登山好きで、スウェーデンの山岳会の会長、スウェーデン・ツーリスト連合会の副会長も務めている。)

つぎにどこへ足をかけるべきかを知らずに決して動いてはならない。またその一歩を完全に進めうるに足る十分な安心感なしには決して動いてはならない。本気で頂上を極めようと決心している者は覚つかない足場や頼りない手がかりに焦ってとびつくような賭けはやらない。最終目標が何であるかをはっきりと認識していれば、目前の問題に努力を集中するはずである。なぜならこれが解決されなければ、頂上がどうのこうのということは、すべてむなしいたわごとと帰してしまうからである。[R. Mirror62]p.24,25」

彼の言葉からは、非常に賢く聡明な人物像が浮かび上がるが、いかがだろうか。
“国連”と聞くと、国家の束であり、さらには国家間のエゴでぶつかり合い何も進まないように思われるかもしれないが、ハマーショルドの思想にはそのようなものはなく、超国家的存在として独立した意思を持って活動を推進していたことが見えてくるのである。

夏の課題図書「道しるべ(1967)」の一説をご紹介して締めに入ろう。
国連以外のいかなる権威、いかなる政府からの指図も求めない[D. Hammarskjold67]p.8」
この一文は、まさにハマーショルド自身が国連を、国家をも超えた聖なるものであると解釈していたことを示しているように思う。

以上のような背景を持つダグ・ハマーショルドは、国連事務総長としての職務を全う中に1961年コンゴ行きの飛行機墜落事故に巻き込まれ死亡した。

(写真:1961年9月、飛行機事故で死亡したハマーショルド国連事務総長と墜落現場)
(参照:西日本新聞)

コンゴ動乱の際、仲介に入ったものの、大国の狭間で追い詰められ、最終的に自分自身が乗り込むしかないと向かった時に飛行機が墜落したのだ。あなたはこれをただの事故だと考えるだろうか。事件であるとの見解もあることから、今後調査が進み原因が判明することを祈るばかりである。(アフリカ史上最悪の植民地と言われたベルギー領コンゴについてより深くお知りになりたい方は、弊研究所のマンスリーレポート(2019年9月号)のご購入もご検討ください。URL: https://haradatakeo.com/ec/products/1210
本ブログでは、「ダグ・ハマーショルド」という人物像を想像するためのエッセンスを提供し、且つ、弊研究所が国連との関わりを持とうと活動するその根本には彼のような思想も隠れているということがお届けできていたならば非常に嬉しく思う。

※当ブログの記述内容は弊研究所の公式見解ではなく、執筆者の個人的見解です。

業執行部 社会貢献事業担当 田中マリア 拝

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[参考文献]
・[R. Mirror62]リチャード・I.・ミラー著,波多野裕造訳,「平和への意志:ハマーショルド総長の生涯」,日本外政学会,1962.
・[D. Hammarskjold67]ダグ・ハマーショルド著,鵜飼信成訳,「道しるべ」,みすず書房,1967.
・[B.Urquhart,S Khrushchev,et al.13]ステン・アスク,アンナ・マルク=ユングクヴィスト編,ブライアン・アークハート,セルゲイ・フルシチョフ他著,光橋翠訳,「世界平和への冒険旅行―ダグ・ハマーショルドと国連の未来-」,新評論,2013.