初の「石破トランプ会談」を見て想ったこと。(原田武夫の”Future Predicts”. Vol. 29)
本日(8日)早朝、何気なく目を覚まして時計を見たらば4時半頃であった。ふと気になってスマホを手に取ると、速報ベースで「日米首脳、共同記者会見中」と出ていた。普段ならば流してしまうのであるが、今回はふと気になって、クリックしてしばしその動画配信を見た。記者会見の最後の方をライブ動画で配信していた。
私が気になったのはそうやって見た石破・トランプ両首脳による共同記者会見の中でも、とりわけ最後のシーンであった。米国人ジャーナリストからの質問に対して、石破茂総理大臣が「いかにもドメスティック(domesctic)」といった口調の答えをし、本人は得意げだが、居並ぶ米国人記者団からすれば「???」という感情から来る笑いが巻き起こったところで、トランプ米大統領が「これは名答だ。彼は良い仕事をしている」と最後に言い放った直後のことだ。ホストであるはずのトランプ大統領は一人で壇上をスタスタと降り、舞台裏に引っ込んでしまった。舞台上では石破茂総理大臣が所在なさげに突っ立ったままだ。慌てた外務省の担当通訳が「総理、こちらです」と声をかけ、総理は小走りに舞台裏へと移っていった。「個人的関係を構築するため」と銘打った今回の日米首脳会談が「結果としてどうであったのか」を如実に物語る一幕であった。
そして本格的に起床した朝。本邦メディアをチェックすると、例によって例のごとく「大本営発表」に対する賛辞の嵐であった。もっとも石破茂総理大臣による個人的な努力が実ったといった論調はわずかであった点が気になった。むしろ、「周到な準備の結果、トランプ大統領は突飛な発言を珍しくすることもなく、法外な要求はその意味で我が国に突き付けられなかった」といった論調ばかりであり、要するに本邦メディア側が取材をかけてきた外務省、そして首相官邸サイドの「自画自賛」をパラフレーズした報道ばかりであった。中でも注目されていたのが、今やカナダやメキシコといった西側諸国であっても容赦なくターゲットにしている関税が、我が国については「伝家の宝刀」として示唆されるにとどまった点だ。石破茂総理大臣はといえば、「SHINZO」とばかり連呼するトランプ大統領から蔑ろにされるかと思いきや、懸命に「自分とSHINZOとの関係性」に言及したところ、その流れの中で肯定的な表現をトランプ大統領から引き出すことが出来たので、満面の笑みといったところであろうか。ぎこちない両者の握手が持つ本当の意味について全く理解するところが無い石破茂総理大臣は、何回か握り返し、手を添えて来るトランプ大統領(フリーメーソンでは握手は重要なサインである)の手を懸命に握り返すのがやっとといった感じであるが、本邦メディアにおいてはよもやその点に注目などする理解度の者は誰もいなかったようだ。
こうした一連の展開、そして対外公表された今次首脳会談の「成果」を踏まえて、私が思い出したことがある。それは、かつて米国のインテリジェンス機関に対して命令を下す立場にある者から聞いた伝言である。
「我々は脅しに屈する者には脅ししかしない。それで相手が譲歩すればそれはそれで良く、そのレベルの相手として今後は付き合っていくことになる。しかし脅しに屈しない者には今度はカネを与えることとしている。そしてカネで屈するのであればそれはそれで良いし、それ程度の者として扱えば事足りる。だが一番厄介なのが脅しにも、カネにも屈しない相手だ。こういう相手は信念があるので非常に難しい。そうであると分かった時に初めて我々は相手を真顔で受け止めることとしている。本当のディールはそこからだ」
思うに。石破茂総理大臣が率いる我が国は今回、「忖度」をしまくり、脅されてもいないのに脅しに屈した。表面的にはうまくいったかの様に見えるが、その実、トランプ大統領からすると「それ程度の連中だ」ということになり、正直拍子抜けしたのではないだろうか。かつて1990年代に一度破産しかけた時、事もあろうにトランプを不動産マーケットで嵌めたのは日本人のビジネスパートナーであったと聞く。だからこそ、トランプ大統領は私たち日本勢を非常に恐れていたはずなのだ。ところが時は移り、今や「言わずとも屈する」脅しやすい連中に成り下がってしまったというわけなのだ。かつて「ZERO」を乗り回し、捨て身の特攻を行う我が国軍隊の飛行士たちを米軍人たちは心底恐れていた。「信念」こそが一番恐ろしいものであることを、自ら宗教国家である米国のリーダーシップは一番よく心得ているのである。しかし時は過ぎ去った。カネ=関税を巡ってディールをしないと屈しない中国勢よりも遥かに脅しやすい存在に私たち日本勢は成り下がってしまったのである。トランプがどうしても納得行かないといった表情を見せていた様に今回思うのは私だけだろうか。
もっとも、彼が一番気にかけていた、自らを評価してくれる「日本人」は石破茂総理大臣ではなかったということをここでは指摘しておくべきだろう。トランプ大統領が一番気にしていた御仁、それは我が国の本当の“国体勢力”。「投資であれば良い」とある意味気前よく譲歩して見せた。それもそのはず、米国勢の鉄マーケット、しかもその生産力そのものに直接的なつながりを持ち、何となればそれをねじ伏せる力を行使できる立場を築き上げるというのは、かの昭和の大帝の遺訓の中でも筆頭項目の一つだからである(私はこのことを、その直轄であった我が国経済リーダーシップに仕えていた貴重な経験を持つ我がメンターから直接聞いたことがある)。すなわちUSスチールを、名目はともかく、その影響下に置かせる、しかもその主体が我が国「国体」に歴史的に直結してきたNippon Steelであることを許す、というのはトランプ大統領からすれば我が国「国体」勢力に対する最大の微笑外交に他ならないのである。無論、そんなことを我が国首相官邸、そして外務省は一切知りはしないであろう。これはあくまでも「国体」、すなわちbloodの世界におけるランゲージでのディール上の出来事である。
こちらから直接名指しをしていないにも拘わらず、「忖度」で1兆ドルも貢いで来てくれるというのだから、さしものトランプ米大統領も驚いたことであろう。なぜならばその「国体」はというと、得体が知れず、しかし米国の根底をも覆す力を持っていることは同大統領が良く知っていることだからだ。推察するにその盟友となった「SHINZO」は、あたかも自らが「国体」に対しても力を及ぼすことが出来るかの様に吹聴されたため、一度はトランプと急接近するが、最後は「国体」の論理によって圧殺されてしまった。しかもその「国体」の中核から御名御璽を得て初めて成り得るのが我が国の内閣総理大臣なのである。「今度こそは」とその人について慎重に吟味をしたとしても、トランプ大統領の能力の乏しさだけを論難するにはしのびないといったところであろうか。
願わくば、ワシントンD.C.に到着し、疲れた様子の石破茂総理大臣を激励するがごとく、笑顔でブリーフィングをサポートしていた、我が外務省時代の最優秀な後輩同僚氏(テレビ報道で今回、ばっちり写真撮影され、放映されていた)が、「外交とは結局、演劇に過ぎない」という大前提で引き続き飄々とその道で活躍されんことを。「真の道」は今上天皇が来る7月にモンゴルを御訪問される、その直後から始まる、と私は考えている。トランプ米大統領も同じ心境であるということを、是非前提に前に進んで行ってもらいたいものだ。
2025年2月8日 愛媛・松山にて
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 ファウンダー/代表取締役CEO/グローバルAIストラテジスト
原田 武夫記す
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