マイニング・ビジネスを持続可能にする新たな仮想通貨とは (IISIA研究員レポート Vol.72)
普及が進んでいると見られている仮想通貨ではあるが、一方でマイニングと呼ばれる過程における多大な電力消費が問題化している。中央銀行のような管理者が存在しない仮想通貨の世界においては、第三者が取引承認や確認に必要となる複雑な計算作業に協力しており、その成功報酬として新たに発行される仮想通貨を得ている。これをマイニングと呼んでいる。
マイニングの過程において要する計算処理は膨大なものとなるため、多くのコンピューターが使用され、電力消費も多大なものとなる。仮想通貨は地球環境と人類にとって大きな脅威であるとも言われるが、どのくらいの電力を消費しているのかについて正確に把握することは困難である。詳細な数字を弾き出すことはできないが、様々な試算の仕方がある。ビットコインのマイニングが可能な限りにおいて、最も効率的なコンピューターを使用していると仮定した場合でも、使用されていると考えられる電力は最も少なくて13テラワット時であると見られ、スロベニア勢の国全体に匹敵するという。このような保守的な見積もりをしないとなれば、ビットコインはスロベニア勢の約2倍、つまり米国勢全体の約0.7パーセントにあたるアイルランド勢と同等のエネルギーを使用している可能性が高いともいわれる(参考)。
(図表:ビットコイン電力消費の時系列データ)
マイニング・ビジネスはかつて、安価に電力を得られる中国勢に集中していたが、中国勢が規制に動いたことで、仮想通貨のマイニングがエマージング・マーケットを中心として世界に分散した。それはつまり、環境に負荷を与えるというリスクが広く拡散することを意味する。例えば、ジョージア勢の山岳地帯においては家庭向けの無料電力と企業向けの割引料金を提供しており、安価な電力を得られるメリットがあることから仮想通貨のマイニングにおける「ホットスポット」となっていると伝えられている。しかしながら、当地域では慢性的な電力不足が問題化していることから専門家らは住民に対して水力発電所建設などの補償を行っていくべきだと指摘している(参考)。このため、マイニング・ビジネスを各地域で継続するためには、環境への負荷を低減するよう、消費電力に配慮することが不可欠となっていくだろう。
(図表:マイニングと鉱物資源のエネルギーコスト比較)
(出典:The Guardian)
こうした大量なエネルギー消費が問題視されている状況において、そもそも電力消費量がより少ない仮想通貨とはどのようなものなのかに注目が集まっている。ドイツ銀行によると、ビットコインは世界で流通する通貨の中において、時価総額で第3位にランクされるほど多く取引されている仮想通貨であるが(参考)、そのマイニングは電力の大量消費が懸念されるエネルギー集約型のPoW(プルーフ・オブ・ワーク)モデルである。PoWは複雑な数学的処理を大量に実行するため、コンピューターは大量の電力を必要とする(参考)。これに対して、イーサリアムは、保有コインの割合によってネットワークを動かすPoS(プルーフ・オブ・ステーク)のマイニングモデルに切り替える方向に進んでおり、結果的に、イーサリアム財団は、ブロックチェーンの電力消費量が99パーセント以上減少することを目指しているという(参考)。
また、テスラ車に関してビットコインでの支払い受付を停止すると発表したイーロン・マスク氏は、環境負荷の低いドージコイン(Dogecoin)に言及しているが(参考)、環境問題に関するサイト「リーフ・スコア(Leaf Score)」は、ドージコインも省エネルギーという点で不十分であるとして、「2022年、最も持続可能な28の仮想通貨」について紹介している。例えば、パワーレジャー(Powerledger)のプラットフォームは、日々変動している風力や太陽光などの再生可能エネルギー源における不確実性の問題を解消するため、リアルタイムでエネルギーを追跡し、交換するのを支援する分散型ネットワークを提供しており、より安定性のあるエネルギー網に対応している(参考)。
(図表:持続可能な28の仮想通貨)
#1. SolarCoin (SLR) | #2. Powerledger (POWR) | #3. Cardano (ADA) | #4. Stellar (XLM) |
#5. Nano (NANO) | #6. IOTA (MIOTA) | #7. EOSIO (EOS) | #8. TRON (TRX) |
#9. Signum (SIGNA) | #10. Holochain/HoloTokens (HOT) | #11. DEVVIO | #12. Hedera Hashgraph (HBAR) |
#13. Chia (XCH) | #14. Algorand (ALGO) | #15. MetaHash (MHC) | #16. Harmony (ONE) |
#17. Tezos (XTZ) | #18. Flow (FLOW) | #19. Avalanche (AVAX) | #20. Gridcoin (GRC) |
#21. Mina Protocol(MINA) | #22. ReddCoin (REDD) | #23. GoChain (GO) | #24. EFFORCE (WOZX) |
#25. GreenTrust (GNT) | #26. Near Protocol (NEAR) | #27. MobileCoin (MOB) | #28. Electroneum (ETN) |
(出典:LeafScore)
上述の通り、今後、仮想通貨の利用においては消費電力の問題は避けて通れなくなるだろう。さらに、注目すべきは消費電力量だけでなくCO2の排出量であり、それはマイニングが行われた国でどのような発電方法が採用されているかによって左右される。今後の仮想通貨がどのような形で進化していくのか、詳細かつ慎重な見極めが必要となってくるのではないだろうか。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
倉持 正胤 記す
前回のコラム:インターネットという罠~何が未来のリスクなのか?~(IISIA研究員レポート Vol.67)