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ジョン・ソーントンとは何者か ~米中「グローバル共同ガヴァナンス」の真相~ (IISIA研究員レポート Vol.59)

アフガニスタン勢の政府が崩壊する約一か月前にあたる2021年7月14日(北京時間)、ドイツ勢の「フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥング(F.A.Z.)」紙は、米欧勢が撤退するアフガニスタン勢に対して中国勢が今後コミットする旨を報道していた(参考)。まさに、当研究所がかねてより分析ラインの要諦に位置づけてきた「グローバル共同ガヴァナンス」の“潜象”とでもいえる動きであった。

来る2024年から2025年にかけて実施される米大統領選挙は、民主党勢に対して、「トランプ勢」が逆襲をしかけるが如き苛烈な戦いを挑むことによって、事実上「内戦」にも似た事態にまで突入することで、米国勢の「政体」勢力が大混乱に陥る中、グローバル社会全体においても未曾有のヴォラティリティーが発生する可能性が高まっている。それへの対処のために、米国勢はロシア勢、さらには中国勢を巻き込む形で、あらかじめ「グローバル共同ガヴァナンス」への転換を図っているわけである。

米国勢は去る6月16日(ジュネーヴ時間)にはロシア勢との間で、「戦略的安定対話」を開始した。米露勢は“角逐”を演じつつも、その実、「戦略的」、すなわち敵同士であることを否定した上での協議体の立ち上げを実現していたというわけである。米露間における「グローバル共同ガヴァナンス」の顕在化である。

(図表:2021年6月16日、ジュネーヴで行われた米露首脳会談)

(出典:Wikipedia

元来、内向的な中国勢に対しても、「グローバル共同ガヴァナンス」へ誘導するべく、一方では米国勢の側から、「帝国の墓場」であるアフガニスタン勢へのコミットメントを中国勢に呼びかけ、他方では中国勢の側はこれに応ずる代償として「台湾勢」の確保を取り付けた可能性があるとみられていた中で、去る7月28日(北京時間)には中国勢の王毅・外交部長と「タリバン」の最高幹部と会談している。米中勢の「グローバル共同ガヴァナンス」も動き出していることの証左であった。

そうした中で、本年(2021年)1月下旬、バイデン氏が第46代米国大統領に就任し、ホワイトハウス入りした直後に、北京では中国勢の王岐山・副主席とある米国人が密会していたと、9月28日(北京時間)、香港勢に拠点をおく「South China Morning Post」紙は報じている(参考)。

その米国人とは、ゴールドマン・サックスの共同会長も務めるなど、「ウォール街の重鎮」ともいわれるジョン・ソーントン氏である。ゴールドマン・サックス退任後は、清華大学で教鞭をとったり、英金融大手HSBC(中国香港上海銀行)の取締役に就任したりしている(参考)。現在は、「バリック・ゴールド」というファンドを立ち上げそのCEOとなっているが、同時に米国勢政府にとっては、「米中交流の非公式ルート」として欠かせない人物である(参考)。

(図表:1990年代から友人であるという王岐山・副主席(左)とソーントン氏(右))

(出典:South China Morning Post

ソーントン氏は、去る8月に訪中し、数週間かけて上海、北京、さらには新疆ウイグル自治区も訪れ、米中勢の指導者間のメッセージを伝える役割を担っていたのだ(参考)。今夏は、特にウイグル勢をめぐる人権問題を巡って、米欧勢と中国勢との“角逐”がエスカレートしていると“喧伝”されていたが、その裏では、米中勢は語らっていたというわけである。そして、こうした米中「グローバル共同ガヴァナンス」の顕在化とでもいえる動きを、ここにきて本邦メディアも報じ始めている(参考)。

ソーントン氏は、よく「第2のキッシンジャー」とも言われる。同氏が約50年前のヘンリー・キッシンジャーと同様の役割を果たしているためだ。ハーバード大学の教授だったキッシンジャーはニクソン米大統領より国家安全保障問題担当大統領補佐官として抜擢されホワイトハウス入りし、1971年には極秘に訪中して、翌1972年のニクソン訪中をアレンジしたためである。

(図表:北京で毛沢東と会談するヘンリー・キッシンジャー(左))

(出典:Wikipedia

このように、歴史の転換点の裏側には常に「密使」の存在が見え隠れしている。古くは、米国勢の建国当時、ジョージ・ワシントンの密使として、政治家カバヌーア・モリスを旧宗主国である英国勢に派遣し、非公式の交渉に当たらせていたという例がある(参考)。また、最近でも、去る2014年12月に突如として実現した米国勢とキューバ勢の歴史的和解の裏には、ローマ教皇フランシスコの密使として派遣されたオルテガ枢機卿の存在があった(参考)。我が国でも、1960年代後半の沖縄返還交渉において、若泉敬・京都産業大学教授が佐藤栄作首相の密使として重要な役割を果たしている。

「歴史の転換点に密使あり」― 大局的、俯瞰的な視点が重要となる国際情勢分析であるが、時に、一個人の動向が歴史的な動きへとつながっていくというミクロの視点の重要さを改めて認識させられるものである。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

原田 大靖 記す

前回のコラム:さらに揺れる「スイス・プライベート・バンク」の行方 (IISIA研究員レポート Vol.57)

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