グリーンランド領有問題の真相。誰が本当の立役者なのか?(原田武夫の”Future Predicts”. Vol. 27)
「グリーンランド」という言葉。この言葉がこれほどまでに頻繁に我が国メディアにおいてすら語られる日が来るとは、一体誰が想像していたことであろうか?
「グリーンランド」はデンマークの自治領である。その自治領を巡り、米国で程なくして大統領の座に就くドナルド・トランプが例によって過激は発言をし始めたことで一気に状況が流動化し始めたことは、読者の皆様もご存じのとおりである。曰く、「グリーンランドを買収したい」「そのためには軍事力の行使も排除しない」と。そう言い切ったトランプ米次期大統領の様子を見て、グローバル社会全体に大きな衝撃が走っている。
なぜならば、本当に「軍事力の行使」をもってして国境線を変えるとなると、これまで続いてきた「ウクライナ戦争」の大前提が崩されてしまうからである。そこではロシアがクリミア半島、そしてウクライナ東部を軍事占領し、「国境線を書き換えようとしたこと」が問題視されている。しかし同じことを西側諸国のリーダーであるはずの米国が場所こそ違えど行うのだとすれば、もはや「領土の不可侵」という国際法上の大前提がもろくも崩れさってしまいかねない事態が生じてしまうからだ。当然、グリーンランドを領有するデンマークは首相のレヴェルでトランプに対し、「グリーンランドを譲ることなどあり得ない」と申し入れてはいる。しかし、そもそも米欧間の絆の基本である北大西洋条約機構(NATO)の現状に対して疑問符をつけることにすら躊躇しないのがトランプなのである。「ならば、NATOなど脱退してやるぞ」と言い出したらば、かえってデンマークだけではなく欧州全体が返り血を浴びてしまうのである。事態はかなり急迫不正、そして深刻なものになりつつある。
だがしかし、ここで読者の皆様には今一度冷静になって頂きたいのである。一見すると確かにこうしたトランプ及びそのチームの動きは単なる思いつきであり、何の脈絡もないものの様に見える。しかしそこで見える「点」と「点」を結ぶと、何も見えてこないのだろうか、本当に。あるいはそれらについてよくよく目を凝らして見ると「背後において実質的な何か」が見えてこないだろうか?
こうした分析を施す時、筆者が重視しているのが「同時並行で起きていることは何か」である。そうした観点で見渡した時、一方において「日本製鉄によるUSスチール買収問題」がある。これについてトランプは確かに表向き、バイデン米大統領と同じ方向での発言をしてきた。しかし、ここに来て行われた米連邦議会上院の公聴会においてベッセント次期米財務長官は「本件買収について再度申請がなされれば、通常の審査を行うことになる」とし、再審査の可能性をしなかった。すなわち結果として「承認」もあり得るわけである。他方で、習近平中国国家主席はトランプの米大統領就任式に招待されていたがこれを固辞しつつ、電話会談を実施したことを明らかにした。本当に「米中戦争前夜」であれば、こうした態度に出ることはあり得なかったであろう。しかし実際には、両者はいきなり話し合い、すなわちディールを開始したというわけなのである。どうも様子がおかしいと気づいた向きも多いのではないかと考える。
つまり、こういうことだ。―――個別に見るとてんでバラバラであり、脈絡のない様に見えるトランプの動きではあるが、しかし落ち着いて全体像を見る、すなわち俯瞰して見ると、なにやら一つの絵柄見えてきそうな気がしないでもないのである。そしてその絵柄がそもそも誰の手によるものなのかを考える時、今にわかに焦点となっているデンマークの「国旗」が他でもない我が国の「日の丸」に酷似していることを想起せざるを得ないのは筆者だけだろうか。
「世界に対して一律で関税をかける」と脅してやまないトランプであり、その政権樹立後は、我が国もこうした関税戦争に巻き込まれることは必至と一般的には考えられている。そうした中で我が国より対峙すべき石破政権はというと、そのトップである石破茂総理大臣が未だトランプとまともな対面での会談すら出来ていない始末なのである。その限りにおいて、我が国は最後の最後までカモとして取っておかれており、最後にばっさりと屠られてしまうのかと危惧せざるを得ない。
しかし我が国はこうした「政体」レヴェルでのみ代表されるものではないことを想起するならばどうであろうか。しかもしゃにむにUSスチール買収、すなわち米国勢の戦時経済における中核というべき鉄鋼業界の一角を占めることがかつて我が国が敗北してしまった先の大戦を踏まえた、先帝の彼岸であり、また米中勢のいずれのリーダーもがこれまで我が国の「国体」に十分飼いならされてきた存在であり、結果としてその行動は我が国にとって利するものとなるとすれば一体どの様に全体像を本当は見て取ることが出来るのだろうか。
20日(米東部時間)にいよいよトランプ米政権が誕生する。そこから矢継ぎ早に「新しい現実」が生じていくことになるが、そこで絶対に見落としてはならないのがこうした「俯瞰図」である、と筆者は考えている。つまり、グリーンランド領有問題であれ、他のacuteな種々の出来事であれ、「背後において実質的な存在の企図」を忘れてはならないと思うのである。このことを、今この瞬間だからこそ書き綴っておきたいと想う。我が国の真の恐ろしさは、そこにこそ、ある。
2025年1月18日 東京の寓居にて
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 ファウンダー/代表取締役CEO/グローバルAIストラテジスト
原田 武夫記す
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