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エジプト勢の高速鉄道建設が始動 新首都は砂漠に花開くか(IISIA研究員レポート Vol.25)

エジプト勢がドイツ勢のシーメンス社との間で高速鉄道路線のためのMOUに署名した(参考)。

この高速鉄道はカイロの東の砂漠に建設中の新しい首都、そして新アラメイン、紅海のアインソフナを通る460キロメートルにわたる区間で建設が開始され、2年以内の完成が予定されている。今次鉄道建設では230米億ドルが当てられる。

シーメンス社は以前にもエジプト勢におけるインフラ整備に関わっている。2015年には総額70億ドルをかけ4.8ギガワットの発電所を3基建設した。これらは当時、それぞれ世界最大のものであった。

(図表:State-owned Egyptian Electricity Holding Company (EEHC))

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(出典:EGYPT INDEPENDENT)

実はドイツ勢はエジプト勢に対して積極的な姿勢をとってきている。

エジプト勢においては2011年にいわゆる「アラブの春」、2013年にも政変があり政治と経済が混乱した。これに対して欧州(EU)勢が強硬姿勢をとっていた中、2013年にはエジプト勢との関係見直しを求めるなどドイツ勢(メルケル首相)はエジプト勢との関係継続を求めてきた。

国内情勢の混乱の中で一時は深刻な電力不足に陥ったエジプト勢であったがドイツ勢の協力による発電所開発などを受けスーダン勢やリビア勢など他のアフリカ勢諸国に売買する発電能力を持つまでとなった(参考)。

更にエジプト勢は昨年(2020年)末には同シーメンス社と500メガワットの風力発電所の新設計画を打ち出している(参考)。

ドイツ勢は比較的アフリカ勢諸国に対する影響力が低く、そうした点からエジプト勢との協力体制は続くものと考えられる。

他方で問題はエジプト勢における「新首都」建設にあろう。

エジプト勢の首都はカイロにあるが、首都圏の人口は2500万人とアフリカ勢最大の都市である。こうした中で首都の混雑解消のため、カイロ東の砂漠に行政首都を建設する計画が2015年から始まっている。この新都市は約700平方キロメートルの面積に大統領府、議会、中央省庁などの行政施設に加え発電所や空港なども建設される(参考)。

他国勢の首都機能(一部)移転の事例に鑑みると、ブラジル勢においては新首都建設費用を賄うために行われた貨幣の増刷や外国からの借款により激しいインフレーションとなった。

またミャンマー勢においては新首都のインフラ整備を進めたものの移転は進まず「無駄の象徴」とも評される状況となっている。

新首都への移転の成功は難しいといえる。

他方で中国においても人口増により北京の都市機能が限界に達していることから、首都機能以外の経済、教育、文化といった領域を雄安新区に移転し「副都」としての役割を担わせる「国家千年の大計」が2017年4月より始められた。

中国勢においてもこの首都機能一部移転に伴い首都・北京と雄安新区を結ぶ高速鉄道が去る(2020年)12月27日(北京時間)に開通した。

高速鉄道による新首都へのアクセスの向上は首都移転に関して成功要因となり、新首都の移転が景気浮揚策となるのか。引き続き注視していきたい。

 

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

佐藤 奈桜 記す

 

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