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「52ヘルツのクジラ」と2024年11月における”本当の焦点”。(原田武夫の”Future Predicts”. Vol. 18)

「原田さんならばきっと分かってくれると思うのですが・・・世の大半の人々は話をしていてもどうしても分かってくれないわけです。こちらが言うことについてほぼ何も理解出来ない。時にはそれで大声の喧嘩になったりするので本当に疲れます。しかしほんの一握りだけしかいないのですが、ある種の方々は最初から、そう”生まれてこのかたずっと一緒に生きてきたか”の様に分かり合えることが出来るのです。何とも言いようのないことですが、そうであるから仕方の無いことです。なので、私はある時から、”永遠の無理解者”と相手を判断した場合には相手方に対してあえて本当のことは言わないようになりました。永遠の無理解ならば、話しても無駄ですからね」

2005年3月末日に外務省という「古巣」を自らの意思で後にした私にマーケットの表も裏も「イロハのイ」を教えてくれた1年年下であるマーケットの”猛者”は当時は毎月行っていた私との会食の場でそう語った。どうだろうか?この言葉を読んで、読者の皆様はどう思われただろうか?「そうそう!」「あるある!」と思われたか?はたまた「いや、何を言っているのか分からない」と思われたか?どちらであろうか?

私事で恐縮だが、この秋から私は生き方を変えた。そうした中で色々な発見をしているわけだが(ポッドキャスティング等など)、そこでの取り組みの一つに「小説を味読する」ことをまた始めたことがある。自らに課したリスキリングの中で大学院へ3つも通わせてもらい、それぞれ学位を得たわけだが、そうした中で全く読まなくなっていたのがアカデミアとは無縁の小説なのであった。そこで「失われた時」を追い求めるかの様に小説を再び手にすることにした。そうした中、昨晩は町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』を味読したところだ。

「普通のクジラと声の高さが―――周波数って言うんだけれどね、その周波数が全く違うんだって。クジラもいろいろな種類がいるけど、どれもだいたい10から39ヘルツっていう高さで歌うんだって。でもこのクジラの歌声は52ヘルツ。あまりに高音だから、他のクジラたちには、この声は聞こえないんだ。いま聞いているこの音もね、人間の耳に合わせて周波数をあげているらしいから、実際はもっと低い声らしいんだけど・・・」

52ヘルツのクジラ。世界で一番孤独だと言われているクジラ。その声は広大な海で確かに響いているのに、受け止める仲間はどこにもいない。誰にも届かない歌声をあげ続けているクジラは存在こそ発見されていけれど、実際の姿はいまも確認されていないという。

「他の仲間と周波数が違うから、仲間と出会うこともでこいないんだって。例えば群がものすごく近くにいたとして、すぐに触れる位置にいても、気付かないまますれ違うってことなんだろうね」

本当はたくさんの仲間がいるのに、何も届かない。何も届けられない。それはどれだけ、孤独だろう。

「いまもどこかの海で、届かない声を待ちながら自分の声を届けようと歌っているんだろうなあ」(町田そのこ『52ヘルツのクジラたち』中公文庫より抜粋)

これから起きることはこの52ヘルツの孤独なクジラたちが遂に探し求めていた仲間たちに出会うことだ、と私は想っている。そしてその最初の頂点が今月(11月)から始まり、高まっていく世の流れの中で感じ取ることが出来るようになる、とも考えている。

それではそうした「現代社会を生きる52ヘルツのクジラたち」にとって「52ヘルツの歌」とは一体何なのだろうか?―――このことを考える時、カギとなるのが人工知能の世界でしばしば問われる「記号接地問題(Symbol grounding problem)」だ。簡単に言うと、「AIは果たして言葉の意味を理解しているのだろうか」ということなのであるが、私たち人類はというと所詮、1:1対応の「呼称」と「事物・概念そのもの」のマッチングしか出来ないAIとは異なり、「白いウサギ」「黒いウサギ」「ブチのウサギ」の上位概念として「ウサギ」という言葉があることを3歳を過ぎる頃から自然に理解し、だから「ウサギ」が何色であっても的確に「ウサギだ」と言えるようになるのである。脳内に響く音声信号と実世界とのマッチングに安住することなく、その枠を超えて思考の枠組みを創り出そうとする能力を、アブダクション(abduction)だと最近のアカデミアは指摘し始めている

もっと簡単に言うと、「目の前にある枠組みが実世界そのものだと安住することなく、その枠組みを超えた時にどうなるのか、いや超えて行くのが実世界なのであって、そこまでの道のり、論理構造と因果関係をあらかじめ推論し、イメージし、かつこれを言葉にして語ること」が実のところ、私たち人類には全員、脳内にある仕組みに従い、出来るはずなのである。しかしこのアブダクションの能力(sense)にはどういうわけか個人差がある。目の前で与えられた枠組みはほぼ経年劣化・変容はしないと考えてしまう向きと、「いやそうではなくて、ここから変わっていく先のイメージこそが自分には見えて仕方がない」と言う方々とに大きく二分されるのが私たち人類の常なのである。そして後者は圧倒的に少ないのであって、私が外務省を出奔して以来、世界中を歩き回って得た感覚からすれば1000人に1人くらいいるかいないかなのだと想うのである。正に「52ヘルツのクジラ」なのである。

「こうなる」と見えて仕方がないというのであればそれは単なる「思い込み」ではないか、という批判の声は常々聞かれるところである。事実、人間の脳にもAIと同じ様にノイズはあり得るのであって、そこで「52ヘルツのクジラ」たちが見るイメージとは全く異なる未来の現実が生じることはままある。その度に「52ヘルツのクジラたち」は「現実は全く違ったではないか」と「普通のクジラたち」に人類社会の中で詰られ、誹謗中傷にさらされてきた。したがって前者は永遠の深海へと潜り込み、いつか出会うかもしれない「52ヘルツのクジラ」の番(つがい)を静かに待ち焦がれてきたというわけなのである。それが有史以来、すなわち「書かれた言葉(written words)」を持つようになり、それが全てだと文明を地球上で大改編し始めて以来の人類史の全てだったのではないだろうか。失われた「52ヘルツのクジラの歌」―――これこそが、米国で活躍した稀代の精神医学者であるジュリアン・ジェインズが遺した佳作『神々の沈黙―意識の誕生と文明の興亡』で述べたことに他ならない。

これから起きること、そして2024年11月における最大の焦点。それはこの意味での「52ヘルツのクジラたち」が孤独の深海を泳ぎ切り、遂にはその仲間たちが群れ集う場所を見つけることだと私は強く感じている。そしてこの群れ集った「52ヘルツのクジラたち」が大合唱する”新しい歌”によってこそ、近未来がその中に全て取り込まれ、真にあるべき世界を、地球が創り出されていくことになるのである。そしてそれは、我が国において、そして米国やそれ以外の諸国においても続々と生じる、民主主義という意味での「政治」によって創り出される新たな現実ではないのである。これを創り出すのは類稀なるアブダクションの能力(sense)に恵まれたが故にこれまで深海に潜んでいた「52ヘルツのクジラたち」に他ならないのだ。

私はこれからもこうした「52ヘルツのクジラたち」との出会いを求めて、全国で歩みを続けていければと思う。誰にも聞かれない、異なる周波数で、しかし高らかに、確信を持った歌声で未来を歌ってきた貴方の下へと、私は必ず辿り着いていく。

2024年11月3日 広島にて遠く瀬戸内の海を眺めつつ

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 ファウンダー/代表取締役/グローバルAIストラテジスト

原田 武夫記す

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本日のコラム、如何でしたでしょうか?弊研究所では来年1月、恒例の「年頭記念講演会」」を開催致します。今回取り上げたテーマも含め、じっくりとお話をさせて頂きます。ご関心を持たれた方はどうぞ、こちらから講演会の詳細をご覧ください。皆様のお申込み・ご来場をお待ち申し上げております。