自動車業界を襲う規制の波 ~「第二のマスキー法」を突破する企業とは~ (IISIA研究員レポート Vol.80) – IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 – haradatakeo.com
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自動車業界を襲う規制の波 ~「第二のマスキー法」を突破する企業とは~ (IISIA研究員レポート Vol.80)

ロンドンでは交通体系における大気汚染対策として「超低排出ゾーン(Ultra Low Emission Zone・ULEZ)」という区域が設定されている。ジョンソン英首相がかつて市長を務めていた時代に計画され、去る2019年4月に導入されたものである。24時間365日、排ガス基準を満たさない車やバイクが域内に乗り入れる場合、一日あたり乗用車は12.5ポンド、大型車両は100ポンドを支払うことを義務付けるという制度である。排ガス基準を満たす車とは具体的に、去る2015年9月以降に登録したディーゼル車、または2005年以降に登録したガソリン車などである。支払わなかった場合には一日あたり160ポンドが課せられる(参考)。

(図表:“ULEZ”を示す道路標識)(出典:MAYOR OF LONDON

「超低排出ゾーン」は、昨年(2021年)10月に適用区域が拡大されたが、さらに来年(2023年)末までにロンドン都市圏全域(グレーター・ロンドン)にも拡大される予定であることをカーン・ロンドン市長は先月(3月)明らかにした(参考)。この計画の他にも、ロンドン域内に入る運転手に、少なくとも1日3.5ポンドの「グレーター・ロンドン境界料金」を課す計画や、域内で走行するすべてのガソリン車とディーゼル車に1日2ポンドの「クリーン・エア料金」を導入するというドライバーにとってはさらに厳しい計画も存在していたが、導入には至らなかった(参考)。ロンドン市内の一部の地域では去る2003年から渋滞税が徴収されているが、カーン・ロンドン市長は、気候変動問題に対する長期的で公正な解決策を講じるためには、最終的には渋滞税や「ULEZ」など既存の全ての道路ユーザーに対する料金を廃止し、運転者に1マイルあたり課金するといった、より公正でわかりやすい手段に切り替えることを示唆している(参考)。

気候変動問題に対処するための規制は車の利用における利便性や車の環境性能に対して大きな制約を課すものであり、自動車メーカーの製品開発に対するプレッシャーとなることは明らかである。しかし、逆にこうした規制の強化が長年、自動車業界に変革をもたらし、モータリゼーションを下支えしてきたとも考えることができる。

その一例が米国勢において排気ガス規制を定めた大気清浄法(Clean Air Act)の改正である。去る1970年にマスキー上院議員(E.S.Muskie)が法案を提出したことから「マスキー法」と呼称されているこの法律は、大気汚染を解決するために自動車の排気ガスを規制することを目的として作られたものである。具体的には、1970年型自動車の排出ガス量に対し、一酸化炭素と炭化水素については1975年までに90パーセント、窒素酸化物は1976年までに90パーセント減少させ、この基準を満たさない自動車は販売することできないと規定した(参考)。

こうした厳格な規定に最初に適合することができたのは他ならぬ日本車だったことを証明したのは、去る1973年3月19日、米EPA(環境保護局)の公聴会だった。予定通りにマスキー法を実施するか決定するために自動車メーカーからの証言を聞くことを目的としたこの公聴会で、1975年の規制を達成可能と証言したのは、ホンダと東洋工業(現マツダ)だけだったのである(参考)。特にホンダは、これに先立つ去る1972年、マスキー法をクリア可能な低公害エンジンであるCVCC(複合渦流調速燃焼)を発表した後、去る1973年に発売されたシビックへの搭載を実現して商品化された。当時、4輪市場からの撤退も考えなければならない状況に陥っていたホンダの反転攻勢においてCVCCの開発がきっかけになったことは間違いないとホンダは自社の歴史について振り返っている(参考)。

(図表:米国勢ワシントンの農務省ホールで行われたEPA公聴会)(出典:ホンダ

去る1970年代以降、低公害型自動車を続々と開発し、世界進出の機会をつかんだのは日本車だった。去る1973年からオイル・ショックに見舞われたため、マスキー法の実施は先延ばしされたが、クリーンな排出ガスや低燃費は自動車の性能の中で大きな位置を占めている時代の中で我が国自動車メーカーによる開発は進化を続け、「ものづくり大国」をけん引しながらグローバル経済を一変させる結果をもたらした。

(図表:シビック・CVCC第1号車)(出典:ホンダ

一方で、昨年(2021年)、欧州勢で発表された新たな規制「欧州グリーンディール」に関する法案の中で、欧州勢では来る2035年までに「事実上のハイブリッド車販売禁止」となることが発表された。ハイブリッド車市場をいち早く開拓してきた我が国メーカーにとっては大きな衝撃である。こうした新たな規制は「第二のマスキー法」となるのだろうか。この点について、我が国では、「地球環境問題を身近な私事として捉えることができる機会がまだ少ない以上、ハイブリッド車の主な購入動機が燃費の良さに伴う家計への負担軽減などに留まっている」ことなどを挙げ、厳格な規制が本当に社会のためになる結果をもたらすのだろうかと指摘する声もある(参考)。

自動車メーカーは彼らを取り巻く規制に関して対応することで進化を遂げてきたのであるが、今後もグローバル経済の行方を占う意味で、その動向により一層注目していくべきではないだろうか。

グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー
倉持 正胤 記す

前回のコラム:SDGs達成への切り札としての“国際連帯税”~その復権の可能性は~ (IISIA研究員レポート Vol.77)

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