1. HOME
  2. ブログ
  3. 拡大するオンライン診療ーアフリカ勢における動向と問題(IISIA研究員レポート Vol.7)

拡大するオンライン診療ーアフリカ勢における動向と問題(IISIA研究員レポート Vol.7)

新型コロナウイルスの感染拡大を追い風に、アフリカ勢でオンライン診療が急拡大している(参考記事)。

オンライン診療の拡大はSDGs(持続可能な開発目標)目標3「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活の確保」の達成につながるのだろうか。

 

アフリカ勢においては、医療へのアクセスそれ自体に困難を抱えている国が多い。

例えば人口1000人当たりの医師数では、統計のある14か国中13か国が1.0を下回っている。日本で2.4、高水準のヨーロッパでは27か国中13か国が4.0上回っていることに比べると圧倒的に医師数が少ない。人口に対する医師数が少ないところでは、必要な医療が十分に行き届かないことが懸念される。

(図表:人口1000人当たり医師数)

figure1

(出典:筆者作成、参考資料:総務省統計局『世界の統計2020』)

註:『世界の統計2020』(総務省統計局)に基づき、アフリカ勢諸国、日本に加えアジア・北アメリカ・南アメリカ・ヨーロッパ・オセアニア各地域におけるそれぞれ最多・最少の国を抽出し示している。

また1人当たり医療費支出の面からみても、アフリカ勢14か国のうち9か国が2ケタ台にとどまり、一番多い南アフリカ勢においても428米ドルであった。公的補助も大きく影響するものの、我が国やオーストラリア勢で5000米ドル前後、米国勢やスイス勢においては9800米ドルにも上ったのと比較すればその少なさは明白である。一概に医療費支出が多いことが良いとは言えないものの、アフリカ勢の状況は必要最低限の医療に対しても支出がなされていない可能性があるだろう。

(図表:2016年1人当たり医療費支出(米ドル))

figure2

(出典:筆者作成、参考資料:総務省統計局『世界の統計2020』)

註:『世界の統計2020』(総務省統計局)に基づき、アフリカ勢諸国に加えアジア・北アメリカ・南アメリカ・ヨーロッパ・オセアニア各地域におけるそれぞれ最多・最少の国を抽出し示している。

「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活の確保」はSDGs(持続可能な開発目標)目標3に定められており、上述のようなアフリカ勢の状況は特にターゲット3.8「すべての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する」(参考:外務省仮訳)に関わるものである。

(図表:SDGs-Goal 3: Ensure healthy lives and promote well-being for all at all ages)

E-WEB-Goal-03

(出典:United Nations Development Programme)

新型コロナウイルス感染拡大以前からアフリカ勢におけるオンライン診療導入は注目されていた。これにより例えば人口の急増による医療需要の増加や、特に地方における診療所までの距離といった問題に対応することが可能となるのではないかと目されていた。

新型コロナウイルスの感染拡大はオンライン診療導入の後押しとなり、アフリカ勢の医療ハイテク企業へのベンチャーキャピタルからの資本投資は2017年、2018年の2000万ドルから昨年(2019年)には1億8900万ドル、今年(2020年)の上半期にはすでに約970万ドルとなっている(参考)。

オンライン診療の拡大がより多くの人々にとって必要な医療にアクセスする方途となれば、「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活の確保」(SDGs:目標3)達成の一助となるかもしれない。

 

ここで問うべき点は、誰がこうしたアフリカ勢におけるオンライン診療に関わる資金を提供するのかという問題である。

オンライン診療システムの導入には、様々なアクターの参与が必要となる。例えばインターネットの安定的供給、カルテのデジタル化に関わる企業、さらには診断結果にもとづく治療薬を提供する会社などにとっても大きなビジネスとなろう。

他方で懸念すべきはオンライン上で医療というプライバシーにかかわる情報が他の情報と紐づけられ、把握されることある。例えば製薬会社はオンライン診療の導入への期待として「医療の外」にある人々の状態の把握と必要な医薬品の提供を挙げている(参考)。これまで医療体制が確立していなかったアフリカ勢地域での導入を考えれば、健康状態が把握されることに加え必要以上の医薬品への依存という事態も起こり得るのではないか。

またカルテの電子化の整備といった動きの中で個々人の身体の情報が把握されることになり、これは例えばDNA情報の収集にも使われる懸念もあろう。

さらには医療費の支払いのために紐づけられる口座情報や、さらには医療費用の借り入れといったサービス(南アフリカ勢「Hello Doctor」など)は、一方では緊急で必要な医療をより多くの人が受けられるようにする一方で、上記のような身体情報と資産状況を一括に把握できるようにする懸念もある。

 

アフリカ勢におけるオンライン診療の導入は、新型コロナウイルスパンデミックという未曽有の事態、そしてそれによる世界的な経済の低迷の中で急拡大している分野となっている。

必要な医療へのアクセスを確立するという世界的な課題の解決策として注目される一方で、上述のような問題にはより詳細な議論も必要であろう。

 

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

佐藤 奈桜 記す