平均寿命は本当に延伸するのか~真相と今後の展開を求めて~(IISIA研究員レポート Vol.92) – IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 – haradatakeo.com
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平均寿命は本当に延伸するのか~真相と今後の展開を求めて~(IISIA研究員レポート Vol.92)

「人生100年時代」と言われて久しい。厚生労働省は「人生100年時代構想会議」を設置し、去る2017年に取りまとめられたその中間報告は、「ある海外の研究では、2007年に日本で生まれた子供の半数が107歳より長く生きると推計されており、日本は健康寿命が世界一の長寿社会を迎えています」と記している(参考)。

一昨年(2020年)時点で我が国の出生時平均余命(平均寿命)は女性87.74年、男性81.64年、前年と比較すると男性は0.22年、女性は0.30年上回っており、拡大傾向が継続している。去る1947年、出生時平均余命が女性53.96年、男性50.06年だったことを考えれば、大きく拡大してきたことがわかる。また、平均寿命の男女差は6.11年で前年より0.08年拡大していることから、我が国では女性の平均寿命における延びが著しいという実態も浮かび上がる(参考)。

高度な科学技術や産業の発展、それに伴う経済成長、生活水準の向上は、平均寿命の拡大を支えてきた重要な要因ではないかと見られる。Dora L. Costa “Causes of improving health and longevity at older ages: a review of the explanations” は高齢者の死亡率や罹患率の低下について、様々な環境的な要因を挙げて、説明を試みている。その要因として指摘されているのは、(1) 医療技術の向上、(2) 感染症罹患率の低下、(3) 肉体労働からホワイトカラーへの移行などに見られる職業的ストレスの軽減、(4) 乳幼児期やその母親に関する栄養摂取の改善、(5) 禁煙や低脂肪の食事などライフスタイルの変化、(6) より良い食事、住居、公衆衛生、医療を可能にする所得の増加、(7)教育水準の向上などである。このうち(1)は高齢者の死亡率が低下するという現象に直接結びつく要因であり、その他の要因は直接的な効果が生じるものではないが、長期的な観点で十分な効果が発揮される可能性があると分析している(参考)。

しかしながら、生活水準の向上が右肩上がりの平均寿命の延びをもたらし続けているというイメージとは裏腹に、各国勢における実態は一様とは言えない。実は米国勢では、去る2014年に78.9歳となったのを最後に、男女トータルで平均寿命が短くなっていることはあまり知られていないかもしれない。世界銀行が報告した最新の数値である一昨年(2020年)時点では新型コロナウイルスによるパンデミックの初年度であったこともあり、減少傾向は大幅に加速し、トータルで1.51年(男性1.8年、女性1.2年)減少し、出生時平均余命は77.28歳(女性80.2歳、男性74.5歳)となったのである。この他、去る2020年に最も平均寿命が減少したのは、リヒテンシュタイン勢で2.35年の減少、次いでカザフスタン勢で1.81年、ロシア勢1.75年、セルビア勢1.71年それぞれ減少しており、米国勢は世界で5番目に減少幅が大きかったということになる。スペイン勢、ブルガリア勢、リトアニア勢、ポーランド勢など、世界でも平均寿命が長い傾向を示している欧州勢においても平均寿命の減少が生じた。194か国集計された中で減少したのは39か国、変化なしが3か国、延びたのは152か国であったため、圧倒的に延びた諸国勢の数が上回っているが、トータルで見ると増加幅よりも減少幅が大きかったことで0.02年減少した(参考)。

(図表:米国勢の出生時平均余命:男女トータル)

(出典:The World Bank

 このような世界規模における平均寿命の増減値は発表主体によって異なるが、去る1800年と2012年を比較すると、すべての国で平均寿命が増加しているとのデータも示されている。去る1800年には平均寿命のトップはベルギー勢で40年であったが、去る1950年には、すべての国の平均寿命が1800年よりも高く、米欧勢における比較的に裕福とされる諸国勢の平均余命はおよそ60年以上となり、その後去る2012年までは開発途上国勢の延びが活発化した(参考)。こうした経緯を振り返ると、上記で述べた世界的な平均寿命の減少がいかに大きな事象であるのかが認識できる。

(図表:世界の平均寿命、1800年、1950年、2012年)

(出典:Our World in Data

 平均寿命の減少は新型コロナウイルスが主な要因であると考えられている。なぜなら、新型コロナウイルスは年齢の中央値が高い国ほど新型コロナウイルスによる死亡率が高くなるが、一昨年(2020年)、平均寿命の縮小で最悪の結果となったのはリヒテンシュタイン勢であるが、中央値が43.2歳と世界で17番目に高く、セイシェル勢の中央値は35.4歳で71位であり、世界で最も高い平均寿命の高い延びを記録している。

では、「経済発展や生活水準の向上から平均寿命の延びへ」という「方程式」は、新型コロナウイルスという要因を取り除いたとしても今後継続していくといえるのだろうか。インフレ、実質賃金の低下、食糧危機というグローバル経済の苦境は、人間の営みに影響を及ぼすのではないかと危惧する声もある。11か国を対象としたある調査では生活費の危機に見舞われる中、トルコ勢の3分の2、米国勢とドイツ勢で16パーセントなどの人々は生活が苦しいと答え、11パーセントが快適に暮らしていると答えている(参考)。新型コロナウイルスだけが要因と見るだけでは、今般における平均寿命の低落傾向を理解できないのかもしれない。

平均寿命のトレンド変化は、拡大を続けてきたグローバル経済が今後変転していくことを余儀なくされ、さらには、「脱グローバリゼーション」にも向かうことを示唆しているのだろうか。この問題に今こそ注視していく必要があるのではないだろうか。

グローバル・インテリジェンス・グループ リサーチャー
倉持 正胤 記す

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