“ブルー“水素はどれだけグリーンなのか?(IISIA研究員レポート Vol.64) – IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 – haradatakeo.com
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“ブルー“水素はどれだけグリーンなのか?(IISIA研究員レポート Vol.64)

去る11月3日、我が国では「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)内で日本が化石賞という不名誉な賞を授与された」というニュースが広く報道された。しかし、これはミスリードな報道であり、実際はCANという環境NGOが自身のメディア・プラットフォームで「化石賞」と名付けた賞を様々な国の政策批判の場として発表しているにすぎない(参考)

我が国は、ノルウェー勢とオーストラリア勢と並んで批判の的になった。何が批判の的になったかと言えば、石炭火力発電の継続的な利用に取り組んでいるという点だ。CANにより「岸田首相はアンモニアと水素が脱炭素化達成の燃料であるという夢を信じている」と痛烈批判を受けた。(参考

ではなぜ、ここまで国際社会から批判を受ける化石燃料の最たる資源である「石炭」の使用を日本政府は「ネット・ゼロ」の目標達成の文脈の中で挙げるのか。

我が国は東日本大震災後、それまで描いてきたエネルギー政策をゼロベースからの見直しを迫られた結果、日本国内では化石燃料への依存度が85.5パーセントと高まり、特に天然ガスの輸入に大きく依存する結果となった。しかし、液化天然ガス(LNG)の国際的な需要の高まりにより価格は年々高騰していく。そういったエネルギー供給問題を解決しようと去る2010年代後半に我が国では石炭火力発電所の新設が相次いだ。新設された石炭火力発電所は硫黄酸化物(Sox)や窒素酸化物(NOx)の排出量がきわめて少なく、米欧勢と比べてもクリーンなレベルを誇っているとされ、今後も新設の予定が多くあった。しかし、「脱石炭」の国際的な圧力は厳しく、我が国の石炭火力最大手Jパワーも去る2021年4月に山口県宇部市での新設計画を断念する結果となっている(参考)。

そこで、日本政府がよりクリーンなエネルギーへの経済にインパクトを与えずに移行していく戦略の一つがアンモニアの利用である。クリーン燃料アンモニア協会の岡島裕一郎氏によれば、今後2030年までの政策としては、①燃料アンモニアの実現と②液化天然ガス(LNG)との混焼の実現を目指していくということである。アンモニアを単体の燃料として現在は実現しておらず、IHIなどが石炭との混焼実験を行っており(参考)、現在はアンモニアが2割、石炭が8割の割合で二酸化炭素が2割減少させられたことから、アンモニアの割合を次第に上げていく段階である(参考)。この混焼実験は、JERAとJパワーも開始しており、今後世界に向けて研究結果を発表していく予定である(参考)。②のLNGとの混焼実証実験はIHI(参考)の他にも東北電力が来たる2024年度に開始することを発表している(参考)。今後も、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が重点的にアンモニア混焼火力発電技術の先導研究をしていくものと見られ研究発表への注視が必要である。

しかし、この試みはあくまで「ブルー・アンモニア」の燃料利用として区分けされる。この色分けの区別は新しく、また非常に危うい標識である。この色分けに関しては、誰がいつどこで定義し広まったか定かではないが、英国勢の王立学会で細やかな定義がされたものが去る2020年2月に政策提言として発表されており(参考)、それに追従するように言葉が使われ始めている。

(図表:グレイ、ブルー、グリーンの区分け)

(出典:経済産業省)

去る2021年11月17日から11月19日にかけて東京国際展示場にて開催されたINCHEM TOKYO 2021でも、講演会では「石炭が悪者にされていることは明白で、次はLNGだ。いつブルーエネルギーと現在規定されているものがグレイ認定されるかわからない」という危機感を持っていることが何人もの登壇者の話から伺えた(参考)。

日本の水素エネルギー産業では、そういった指標は欧州勢によりコントロールされており、彼らのビジネス展開が優位に進められるように規定されると認識されている。実際に、去る2021年8月頃からは、“ブルー”水素の批判の喧伝が始まり(参考)、日本勢がアンモニアの輸入を依存するオーストラリア勢はブルー水素を得る過程で排出する二酸化炭素(CO2)を「二酸化炭素回収・貯留」技術(CCS)で解決している点についてCOP26で批判される展開となっている。

(図表:我が国―豪州勢間のクリーン燃料アンモニア・サプライチェーン概念図)

(出典:JOGEMC

しかし、“グリーン”水素を先進している大陸欧州勢においても、彼らが掲げている“グリーン“水素への置換え目標を達成するのはほぼ不可能であるという見通しが持たれている。水素エネルギーの開発競争でイニシアティヴを取るためにはもっと大量の資金投入が行われなければ、太陽光発電の競争のように中国勢に競争で負けてしまうと危機感を募らせている。スペイン勢に本拠地を置く多国籍電力公益企業イベルドローラ社の新CEOは、コロナ復興支援金を“グリーン“水素に投入すべきだと主張している(参考)。

去る11月10日にオーストラリア国立大学より発表された論文によると、“グリーン”水素の方がコスト面でも“ブルー“水素より優れている中で、“ブルー”水素に関しては現在の「二酸化炭素回収・貯留」技術(CCS)で排出が抑制できるとされているメタンなどの漏えい排出物に問題があり、天然ガスからの水素製造は効率的ではないと断じている(参考)。我が国の水素製造産業界が問題視している、「“ブルー”水素が“グレイ”水素の烙印を押される」日は予想よりも早く現実のものになるのではないだろうか。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

横田 杏那 記す

前回のコラム:「ロシア・ゲート」に見え隠れする米リベラル系シンクタンクの影 (IISIA研究員レポート Vol.63)

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