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パンデミックからの『出口戦略』を探る(IISIA研究員レポート Vol.40)

70年前に発売されたアルベール・カミュの小説『ペスト』に、次のようなセリフがある。

「ペストと戦う唯一の方法は誠実さです」

翻って新型コロナウイルス「第4波」を受け3回目の緊急事態宣言下にある我が国であるが、政府は解除に向けた条件の設定や解除後のリバウンドを防ぐ手はずなどの「出口戦略」を未だ示せずにいる。他方でワクチン接種が進む米欧勢では、トンネルの出口がみえる状況になっている。

では政治的、経済的、疫学的にパンデミックはいつ終わったといえるのか。欧米勢は「誠実」にパンデミックと戦っている中、我が国は「誠実さ」に欠けるというのか。各国がとる出口戦略を探る中で、我が国に求められるメルクマールを導きたい。

世界保健機関(以下「WHO」)によると、そもそもパンデミックとは複数の国や大陸での「世界的な大流行」を指し、アウトブレイク(一定のコミュニティーでの集団感染)やエピデミック(特定地域での流行)とは区別される(参考)。もともとCOVID-19はWHOによってエピデミックに分類されていたが、昨年(2020年)3月11日にテドロス事務局長によってパンデミックとの認識が表明された。そのため今後、米欧勢でのワクチン接種が進み、パンデミックの終息がみえてきても、我が国を含めインド勢やシンガポール勢などのアジア勢などにおいて依然として感染拡大の様相を呈すれば、今次パンデミックは再びエピデミックへと転換される中で、地域間、国家間における格差がコントラストを強めるという次のフェーズも考えられる。

(図表:WHO事務局長・テドロス=アダノム)

(出典:Wikipedia)

そのWHOが出した「COVID-19戦略」からは、以下の6つの指標が日常に戻るための「出口戦略」の参考となりそうだ。すなわち、①散発的な感染に抑える、②すべての感染者を検査・隔離する態勢の構築、③医療や介護現場での防護具確保など、拡大防止のリスク低減、④職場での感染予防、⑤他地域からウイルスの持ち込み警戒、⑥社会全体の理解と参画、である。

英オックスフォード大学は、この指標をさらに20の指標(学校閉鎖、職場閉鎖、公共イヴェントの中止など)に具体化し、パンデミックへの各国勢の対応(厳格度)を体系的に数値化したサイト「オックスフォードCovid-19政府対応トラッカー(OxCGRT)」を公開している。裏を返せば、これらの指標がすべて緩和され0に近づけば、少なくとも政治的にはパンデミックの出口がみえることになりそうだ。

(図表:オックスフォードCovid-19政府対応トラッカー(OxCGRT))

(出典:オックスフォード大学

では経済的にはどのレヴェルから出口がみえる、すなわちアフターコロナ経済へと移行したといえるのか。「危機は常に違う顔で現れる」といわれる。例えば、1929年の世界恐慌であれば(諸説あるものの)過剰生産と過剰投機の帰結として、2008年のリーマン・ショックであれば低所得者向け住宅ローンの焦げ付きの帰結として、それぞれ発生したとされるが、今次パンデミックによる経済危機は、これまでのようにマクロ・バランス(総供給=総需要)の悪化や、金融市場の混乱でもなく、新型コロナウイルスという「目に見えない敵」に対する個人レヴェルでの社会心理的要因に端を発している点に特徴がある。それによって、本来であれば安定的に推移する個人消費が大打撃を受けているのだ。

これを受け、各国勢では未曾有の財政金融政策が講じられており、その規模は世界全体で11兆ドルに迫るという(参考)。中でも米国勢は、今年(2021年)3月に1兆9,000億ドル(約200兆円)規模の経済対策を打ち出しており、特に3度にわたる現金給付(2020年3月に1,200ドル、2020年12月に600ドル、2021年3月に1,400ドル)を行い、景気回復の柱としている。他方で我が国でも昨年(2020年)4月に1人10万円の現金給付が行われたが、米国勢のように景気回復へは向かっていない。この違いは給付のタイミングにある。

すでにワクチン接種が昨年(2020年)12月以降に始まった米国勢においては、その現金給付は「景気対策」としての性格が強いものとなったが、我が国のタイミングは生活維持のための「社会保障」という性格を強く帯びており、それゆえ生活に余裕のある中所得者層を中心に約7割が貯蓄に回ったとみられている(参考)。

米国勢の例をみても明らかなように、アフターコロナ経済への転換点は個人消費の回復に大きく依存していることから、特に我が国において今後、現金給付や消費税の減免措置、GoToキャンペーンなど消費の喚起策が提示された時点で、経済的なトリガーが引かれることになろう。

最後に疫学的にパンデミックはいつ終わったといえるのであろうか。これは政治的・経済的な出口戦略を考える上でも前提となる重要な指標であるが、結論としてはワクチン接種が進み、集団免疫を獲得した時点となる。問題はワクチン接種率であるが、WHOは人口の60~70パーセントがワクチンを接種する必要があるという見方を示しているが(参考)、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のアンソニー・ファウチ所長ら米国勢の感染症専門家の間では70~85パーセントが転換点になるとの説が主流になっている(参考)。

現時点(2021年5月)で、イスラエル勢(62.8パーセント)は集団免疫に近づきつつあり、米国勢(47.3パーセント)でも来たる2022年正月までにこの水準に到達する見込みであるが(参考)、アジア勢やアフリカ勢では後れを取っている状況を踏まえると、世界全体では7年を要する見通しである(参考)。

以上みてきたように、パンデミックからの出口戦略は政治的、経済的、疫学的なフェーズでそれぞれ開かれるものと思われる。そしてこれらのフェーズは世界的な協力のもと開かれるのではなく、各国の取り組みに大きく依拠している。とくにオリンピック開催を控える我が国としては、いかに「誠実」な取り組みを国内外に“喧伝”することができるかがカギとなってくるが、今後の展開を注視していきたい。

 

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

原田 大靖 記す

 

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