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―思考法の転換が、能力開発を可能にする (“情報リテラシー”教育の発展とその向こう側(Vol.1))―

“Fixed mindset(固定思考)”・“Growth mindset(成長思考)”という用語をご存じだろうか。これらの思考法は、現在スタンフォード大学の心理学教授であるCarol Dweck氏によって提唱され、2006年の著書“Mindset: The New Psychology of Success”によって世に広まった。

〈Carol S. Dweck, Ph. D.の著書:“Mindset: The New Psychology of Success”〉

“Fixed mindset”とは、人間的資質が生来のもの、かつ固定的なものであるという思考を示す。知能の量は容易には変容せず、難題に取り組むよりも、自らの手の届く範疇に心地よさを感じ、“失敗”しないことに安堵する。つまり、現状維持、もしくは自己自身ではなく、自らを取り巻く外界からの影響によって生じた結果を重視している状態である。この“Fixed mindset”は、教育における“外発的動機”と共通する点があると感じた。

我が国の公教育における子どもたちの学習動機といえば、先生に褒められる(怒られない) ため/偏差値の高い大学に入る(偏差値の低い大学に入らない)ため/有名な企業に就職するためなど、つまり、学習成果に伴う報酬への欲求によって、学習意欲やモチベーションを保とうとすることが多い。このような外発的動機は、競争意欲を喚起し学習を促すことはできても、ひとたびその成果の報酬が得られないとわかれば、それ自体を辞めてしまう可能性を十分に孕む。したがって、自己以外の外的要因に人生軸が置かれている点は“外発的動機”も“Fixed mindset”も同様であると言えるだろう。

反対に、“Growth mindset”では、知能の量を努力次第で増大させることができると考え、“失敗”をしても自信を失うことはなく、それを受け入れることができる。また、得意だと捉えていない事柄にも果敢に挑戦することができるという思考である。外発的動機に対して、“Growth mindset”にあたるのは、“内発的動機”だと考えられる。内発的動機とは、個人の単純な「好き」「やりたい」という興味、「疑問を解決したい」「〇〇を知りたい」といった知的好奇心など、学習そのものを欲求することを指す。内発的動機に基づく行動選択をする者は、学習そのものに価値を見出し、自然と継続した学びを実行し、学習の効率をも上げる。やはり“Growth mindset”と共通する点があるように思う。

2014年にDweck氏自身がTED Talkに出演した動画が公開されているが、そこでは難題に直面した際の子どもの脳を分析したところ、“Growth mindset”であった子どもの脳のみが活発に働いていた。つまり、脳の情報伝達と処理に特化した特殊な細胞である“ニューロン”が新たに強い連結を生み出していたのである。科学的にも“Growth mindset”が、人間の能力開発・育成を可能にするということを証明した研究となったのだ。

〈“The power of yet”:September 2014〉

以上のことから、“Growth mindset”の有益性が示されるわけだが、十二分に外発的動機付けに特化してきた我が国の公教育は、間接的に“Fixed mindset”の人間を大量生産してきたと言い換えられるのではなないだろうか。内発的動機付けを促す教育が合わさった時、“Growth mindset”の人間が一気に増加すると考える。しかし、同様に“Fixed mindset”から“Growth mindset”への転換は我が国がこれまで普及してきた思考法に逆行するため、そこからの脱却は努力なしには得られないだろう。

AI技術が発展した現代において、我々“ヒト”に最も求められているのは、単に知識や技術を系統的に伝達するような伝言ゲームの能力ではなく、「0から1を生み出す能力」だ。今後生き残る“ヒト”は、自己を静かに見つめ正当に評価し、外的要因に振り回されずに自分軸を強く持って突き進む力を持つ者なのである。現代社会は“ヒト”が捌き切れないほどの情報で溢れ返っているが、社会に表出する情報と、そうでない情報の双方から必要な情報のみを自ら掴み論理的に考察するための能力開発が必要不可欠となる。これを可能にするヒントの一つが、Dweck氏の思考法、すなわち“Growth mindset”への転換なのだ。

弊研究所では、公開情報からその意味を読み取り、Scenario Planningで未来を導き出す力を“情報リテラシー”と呼んでいる。会員様には会員制サーヴィスを通じて日々“情報リテラシー”を高めるお手伝いをさせていただき、未来を担う学生にはこの能力開発を援助する場を無償で提供することで、弊研究所が行う社会貢献活動の一つとさせていただいている。データ流通量の爆発的増加が、我々の生活を皮肉にも不自由にしている現状に改めて対策を講じなければならない。これこそが弊研究所の提供している能力開発の援助であり、“情報リテラシー”教育である。

情報に埋もれながら他人軸で生きるのではなく、“Growth mindset”による自分軸を強く持ち、貪欲に学ぶ姿勢を推進していきたい。

社会貢献事業担当 田中マリア 拝

 

 

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