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暴露された英国勢の新「世界戦略」~英軍の機密文書が“発見”された意味~(IISIA研究員レポート Vol.46)

去る(2021年)6月22日、イングランド南東部ケントのバス停で英国防省の「機密文書」が水浸しの状態で“発見”された。発見した匿名希望の一般市民は、警察に連絡したり、SNSに上げるなどもせず、英国放送協会(BBC)に持ち込み、事件が発覚した。50ページに及ぶ同文書には、電子メールやPowerPoint資料が含まれており、以下のような内容が記されていたという:

・「クリミア半島沖における英国駆逐艦HMSディフェンダーの航行に対するロシア軍のシミュレーション」

・「アフガニスタンにおける北大西洋条約機構(NATO)の同盟軍が撤退した後、英国軍が引き続きアフガニスタンに残る可能性」

機密文書が発見された翌日(6月23日)には、実際にウクライナ軍との合同訓練を終えた後にクリミア半島沖を通航したHMSディフェンダーに対し、ロシア軍が警告射撃を行ったとの事件が発生している。ロシア側は、HMSディフェンダーが領海を侵犯したために警告射撃を行ったと主張したが、英国側は国際法に従ってウクライナの領海を航行しており、警告射撃も受けていないと主張している。

(図表:英駆逐艦「ディフェンダー」)

(出典:BBC

2014年にクリミアを併合したという立場のロシア勢にとって、クリミア半島沖はロシア勢の領海という認識だが、他方でクリミア併合を認めていない英国勢にとって、この海域はウクライナの領海であるという認識にある、という前提がある。

そうした中、同文書によると「ディロイト作戦」と名付けられた本計画は6月21日までに英国軍の高官レヴェルで議論されたものであり、HMSディフェンダーがクリミア近くを航行した際に、ロシア側がどういった反応を起こすのかについて、「安全で意図的な方法」から「安全でも意図的でもない方法」まで3パターンの推測を行っていた。

議論の中では、英国軍の常設統合司令部(PJHQ)のある高官は、「起こり得る『歓迎パーティー』について何が分かっているか?(“What do we understand about the possible ‘welcome party’…?”)」とも質問している。あるプレゼン資料では、「国防活動から作戦活動に移行していることから、ロシア海軍および空軍の活動は、今後さらに頻繁かつ積極的になってくる可能性が高い」とも警告している。

(図表:ケントで発見された英国軍の機密文書)

(出典:BBC

発見された文書の大半は「official sensitive(公式、機密)」という、比較的機密度合いの低いものであったが、中にはベン・ウォレス英国防相の私設秘書宛で、「Secret UK Eyes Only(機密、関係者限定)」と記された、極秘扱いの書類も含まれており、同書類には、アフガニスタンから米軍とNATO駐留軍が撤退した後も、英国軍は駐留を継続すべきだとの議論が展開されていた。

しかし、書類の機密性の高さや、アフガニスタン勢における各国駐留軍の安全性を鑑み、BBCはその内容について詳しく報じないことを決定したともいう。

BBCは、これほど多岐にわたる重要文書が紛失した例は少なく、国防省にとっては大きな“失態”と報じているが、果たして本当に単なる“失態”なのか。

実は、6月初旬には本件以外にも英国国防省の“失態”が報じられている。英国特殊部隊における昇進を発表する電子メールが誤って多くの政府機関に転送されてしまい、100人以上の指揮官と諜報員の身元が暴露されてしまったのである(参考)。

ここまで防衛機密の漏洩が立て続けに起こると、もはや失態ではなく意図的なリークと考えても不思議ではなかろう。その裏で考えられることとしては、英国国防省内の勢力争いとしてのリーク、国防省以外の政府機関が国防省を攻撃するための手段としてのリークなど、想像力が掻き立てられるが、いずれにしても明らかなのは英国勢がもはや一枚岩ではないということの証左ではないか。

去る6月13日には、ベン・ウォレス国防大臣が次期NATO事務総長としてテリーザ・メイ前英首相を推薦しているとの報道もなされており(参考)、同国防大臣の言動が今後の英国勢の動きをみる上でもカギになるのかもしれない。そのウォレス大臣だが、現在(2021年7月4日時点)、なんとコロナウイルスの濃厚接触者として自己隔離中にあるという(参考)。2021年後半には、空母「クイーン・エリザベス」を中核とする空母打撃群がインド太平洋地域に展開する中で、我が国にも寄港し、自衛隊との共同演習も実施する予定である。我が国としても他人事でない英国軍の動向につき、その狙いを俯瞰的に把握しなければなるまい。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

原田 大靖 記す

前回のコラム: 新旧「大西洋憲章」を読み解く(IISIA研究員レポート Vol.44

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