デジタル「複数通貨体制」に一気に動き出す世界? (IISIA研究員レポート Vol.39)
ロシア勢がSWIFT離脱の準備中であることを示唆した(参考)。
欧州(EU)勢がロシア勢を「SWIFT」から追放するよう求めていることを受け、ロシア外務省のマリア・ザハロワ(Maria Zakharova)報道官がその可能性はまだ仮説の段階だとしながらも、イランによる決済システムである「SEPAM」を含む代替システムとペアを組む準備をしていると5月3日テレビ・インタビューで発言したものだ。
ベルギー勢に本拠を置くSWIFT(国際銀行間金融通信協会)は、世界中の1万以上の銀行とつながっており、2つに1つの主要な国際送金が同ネットワークを介して行われている(参考)。
(図表:16世紀ドイツの商人たち)
(出典:Wikipedia)
ロシア勢には現在、国外の決済手段との組み合わせとして欧州(EU)勢のSEPA、イラン勢のSEPAM、中国勢のCIPSといった複数の選択肢がある。
実はSWIFTから除外されるリスクをかねてより抱えていたロシア勢は2014年に独自の国際送金網「SPFS」を開発し始め、2017年12月に使用を開始していた(参考)。
そして2018年、イラン勢がSWIFTから遮断されたことを受け、翌年(2019年)にはロシア勢はイラン勢とSWIFTを介さない銀行間取引を確立した(参考)。
同じころ(2018年8月)、ハイコ・マース(Heiko Maas)独外相は、イラン勢との繋がりを維持できるようSWIFTに代わる決済手段の開発に取り組んでいることを明らかにした。このとき、ドイツ勢はSWIFTに対して米国勢の決済支配からの脱却も要請している(参考)。
米国勢は経済制裁の効果を高めるためにSWIFTを利用してきた(参考)。「政治的中立性(political neutrality)」を主張してはいるものの、SWIFTは過去には米国勢の影響でキューバやイランへの取引を遮断した(参考)。
去る19世紀のタフト米大統領によるドル外交に始まる、米国勢が使ってきた「ドルの兵器化」(dollar weaponization)という手法である。為替を支配することで、米国勢は国境を越えたドルの動きを監視することができる。その監視に加えて、世界の金融商品から人々を締め出すこともできる。驚異的な権力となる(参考)。
SWIFTを押さえることで経済制裁という力を行使してきたが、皮肉にも、これがかえって「暗号通貨」市場を加速させ始めたかもしれない。
(図表:financial transaction)
(出典:Wikipedia)
昨年(2020年)にはバハマ勢が「サンド・ドル(Sand Dollar)」を発行し、世界初の政府保証型デジタル通貨(sovereign-backed digital currencies)の一つとなった(参考)。
今年(2021年)3月にパウエルFRB議長をはじめとする世界の主要な中央銀行は、デジタル通貨や安定したコインの進化が進んでも脅威にはならないと述べていた(参考)。
しかし、その翌月(4月11日)、パウエルFRB議長は「FRBがデジタル・ドルに向けてかなり精査している」と発言した(参考)。
さらにその1週間後(4月19日)には、英国勢とイングランド銀行(BoE)が、中央銀行発行のデジタル通貨を家庭や企業が利用できるようにする可能性について調整するタスクフォースの設立を発表した(参考)。中国勢やスウェーデン勢と共に、貨幣の未来における次の大きな一歩を模索しているという。
また、イングランド銀行内に「中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)」部門が新たに設置される。これには欧州中央銀行(ECB)やスウェーデン中央銀行(Sveriges Riksbank)も、2025年頃に追随する可能性が示唆されている(参考)。
5月13日、イングランド銀行(BoE)のジョン・カンリフ(Jon Cunliffe)副総裁が「政府はデジタル通貨を採用すべきである」との見解を示した(参考)。
戦後、米国勢が主導してきた枠組みは、英国勢が容認してきたからこそ成り立ってきた。その英国勢も含め、諸国勢が根底から新たな金融システムの構想、さらには実装に向けて進展しているということになるのだろうか。
米ドルによる国際基軸通貨体制からデジタル「複数通貨体制」への転換の可能性を中心に引き続き注視して参りたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮美樹 記す
前回のコラム: 「グリーン市場」“加速”が意味するもの
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