超音速ミサイル「ツィルコン」がもたらす未来(IISIA研究員レポート Vol.17)
ロシア勢が「ツィルコン」の試験発射を行った(参考記事)。
「ツィルコン」とは超音速ミサイルでその速度はマッハ8(時速1万キロメートル前後)以上の速度で飛行するという。ロシア勢による超音速ミサイルの試験発射は今年(2020年)に入り少なくとも3回目となる。
マッハ8というのがどのような速度かと言えば、ロシア勢から米国勢の国防総省を含む5か所について5分以内で攻撃が可能となる。加えてロシア勢によれば超音速で飛行するミサイル本体の周囲にはプラズマを帯びたガスが発生し「プラズマステルス」と呼ばれる状態となることでレーダーによる接近の探知が非常に難しくなるという。
ロシア勢は「ツィルコン」について数年以内の正式配備を予定している。
(図表:マッハ7到達時のコンピュータ計算による流体解析の等高線図)
(出典:Wikipedia)
これに対して米国勢の連邦議会調査局(Congressional Research Service)は去る11月23日に2019年秋に出した報告書(“Hypersonic Weapons: Background and Issues for Congress”)をアップデートしロシア勢―と中国勢―の当該兵器における優位性と米国防総省による超音速航空機開発の重要性を強調した。
そのスピードゆえに超音速ミサイルは爆発の為の弾頭すらなくとも相当の爆発を引き起こすことが可能だ。
しかしロシア勢は、米国勢との間の軍備管理における緊張の高まりによっては米国勢近海に配備される潜水艦に超音速核ミサイルを配備しなければならなくなると警告を発している。
実は超高音速ミサイルの試験発射に先立ち今年(2020年)8月にはロシア勢の核兵器についてのある情報公開が行われている。
1961年10月30日、当時のソ連勢がノヴァヤゼムリャにおいて「ツァーリ・ボンバ」の大気圏内核実験を行った。
(図表:実験が行われたノヴァヤゼムリャの位置)
(出典:Wikipedia)
ロシア語で「爆弾の皇帝/帝王」を意味する「ツァーリ・ボンバ」はソ連勢が開発した
人類史上最大の水素爆弾である。その威力は広島に投下された原爆(「リトル・ボーイ」)の3800倍にも及ぶもので、実験では最大威力の半分の50メガトンに制限して行われた(参考)。
(図表:ツァーリ・ボンバの原寸大模型)
(出典:Wikipedia)
長らく機密情報であったこの「ツァーリ・ボンバ」に関する実験映像を、同国の原子力産業75周年を記念して去る8月20日に公開したのである。このドキュメント映像の中では製造に関わる技術的内容には触れられていないものの、その威力をはかり知ることができる。
命中率の精度の向上などにより兵器は小型化の傾向にはあるものの、ロシア勢の「ツァーリ・ボンバ」はいまだに人類最大の核兵器である。
超音速ミサイルと人類最大の核兵器製造技術の脅威の威力を強調することは、自国の軍事力の拡大という主張を裏付けるものとなり得る。
トランプ米大統領はその政権において核兵器の刷新と維持、超音速兵器の開発が進められてきた(参考)。バイデン「新大統領」の誕生によりこの政策に変更がなされ、米ロ勢間の戦略にも変化がもたらされるのか。引き続き注視していきたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す