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2019年06月13日 #

米国/イランは戦争に突入するのか・その3(特別コラム)

*本稿は去る4月に入社しました、防衛省・自衛隊幹部を務めあげた島村修司が、専門家でないと分かりにくい軍事事情について、現場の視点を織り交ぜながら分かり易く伝える不定期コラムです

*今回は、「軍事のプロ」である島村修司・研究員が軍事リスクおよびそれを踏まえたマーケットの展開可能性の読み解き方をシンプルな報告書の形で毎週御説明申し上げる特別レポート「IISIA Defense Brief」の創刊を記念し、特別に今回のみ創刊号の一部をここでご紹介します!本商品の詳細は以下のURLを要チェック!!:

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はじめに ~今何が起こっているのか?~

米国では宣戦布告及び戦争予算承認の権能を掌握する議会への世論の反映度が高い。したがって世論調査は軍事行動の未来像を推察する上で第一に着目すべき基本指標である。去る1979年のイスラム革命直後に在テヘラン米大使館占拠・人質事件があって以降、イランを好ましくないとする米国民は一貫して約8割である。先月(5月)末の調査では別に北朝鮮を脅威と見なす割合が58パーセント、ロシアのものが脅威51パーセントとなり脅威認識が分散・相対化されたこともあって、イランへの脅威認識は53パーセントにとどまっている。更にトランプ政権のイランの核問題に関する7か国協議における合意からの離脱不支持率が61パーセントと高い比率となったことは、イランに対する先制攻撃への反対60パーセントと合わせ、米国民の嫌戦の志向は強く、悪の枢軸イランは大国であり米軍侵攻に対してはリスクが大き過ぎるとの認識を国民レヴェルで判断しているものと考える。

他方イランにおいては、保守強硬派、保守穏健派、改革派という3政治勢力のうち特に保守強硬派が発言力を増している。初代最高指導者ホメイニ師の死去を受け1989年に後継となったハメネイ師はホメイニ師の下でイスラム法学を学びイスラム革命防衛隊司令官も歴任した保守強硬派である。保守強硬派には宗教界や司法部門、革命防衛隊などが属するとされ、イスラム教に敬虔な層や地方の貧困層などが支持している。

一方保守穏健派代表格のロウハニ大統領は核開発を制限する見返りに制裁を緩和させる核合意を成立させた功労者であったがトランプ米政権による核合意離脱と制裁再開で窮地に陥っている。またロウハニ師はイラン空軍司令官、イラン国軍副司令官の経歴を有する。国軍と国軍を監視するために創設された革命防衛隊の力学を考慮すれば、基本的な優位が保守強硬派側に在りロウハニ大統領及び保守穏健派の退潮は必然と言える。

すなわち自由を求める人々(改革派)とイスラム的秩序を重視する保守派がせめぎあうイランにあって、米国トランプ政権のイラン包囲網が市民生活を疲弊させ、米国との合意を進めた保守穏健派の力を弱め、結果的に反米・保守強硬派の勢力を強めることになっているのである。

米中央軍の状況 ~増派された米軍部隊は何をしているのか?~

軍事的観点から情勢を分析する際には、クラウゼヴィッツによる戦争論に在る命題「軍事は政治の延長に過ぎず、政治目標を達成するのが軍事目的である」ことを念頭に置くべきである。現時点で米国が持っている政治目的は「大量破壊兵器の拡散阻止」であり、これを受けた政治目標は「イランの核兵器開発を完全かつ不可逆的に放棄させる」ことである。これに対し米国の軍事目的は「防護力・抑止力の強化」であり政治目標に一致していない。よって、政治目標を達成するための水面下での軍事的活動や両国間での非公式な外交交渉が行われていると見るべきなのである。

他方増派された米軍部隊は先月(5月)29日(マナナ時間)から翌1日にかけ、アラビア海オマーン沖合約320キロの海域において統合機動演習を実施している。同演習にはリンカーン空母打撃群(SBECSG:第12空母打撃群(艦艇部隊DESRON-2+空母艦載機部隊CVW-7:F/A-18,EA-18G等約70機+1個海兵遠征打撃群の一部)、米空軍第20遠征爆撃部隊(B-52H×4機)、米中央軍爆撃任務部隊(F-16戦闘爆撃機)、カタール空軍戦闘機部隊(ミラージュ2000)等約である。内容は偵察活動、地上・水上部隊への近接航空機支援、統合打撃力発揮訓練の模様である。しかし増派された部隊の訓練フェーズの経過を考察すると標準的な統合作戦任務遂行レヴェルには達しているものの、想定される厳しい戦闘環境への慣熟度は未だ低く完全な即応態の確立までには更に追加的な演習が計画されるものと考えるのが妥当である。すなわち今回の演習を通じて軍事プレゼンス上昇という効果は当然生ずるものの実効性のある防衛態勢は未完の状態であると考える。

 

図表 リンカーン空母打撃群(一部)B-52H戦略爆撃機他の訓練風景

20190613_リンカーン艦艇

(出典:米中央軍広報部)

 

おわりに ~今後はどうなるのか?~

イランの軍事力特性に加え、両国政府や軍関係者の発言等から垣間見えるその戦略思考形態、世論動向を合わせて分析すると、予想される武力衝突事態の発生は(1)偶発的、(2)限定的、(3)短期的であり、米軍の地上兵力(陸軍、海兵隊)を投入したイランへの大規模侵攻は基本的に想定しがたいと考えるべきである。

特にイランの先進的地対空ミサイルは米軍パイロットの脅威であり、軍事行動全般の第一段階として必要なイラン防空能力の破壊(SEAD)と航空優勢獲得のためには、強力な電子戦能力に加えステルス性(隠密性)に優れた戦力(F-35A、F-22、B-2爆撃機、ズムワルト級対地攻撃艦艇等)、無人戦力の投入が必要である。

すなわち軍事的に考察すれば当該ステルス兵力の増派がなされない段階で米軍が計画的武力侵攻を実施することはまずあり得ないと評価出来る。またその増派を行う際には米軍の計画として最低3個空母打撃群の投入を必要とするものであり、空母打撃群の投入数が開戦時期を判断する際の1つの指標となり得る。

このように現時点で米国を中心としてイランに対する武力衝突が生ずるとは考えづらく、特に武力衝突が生じたとしてもそれは「限定的かつ短期的」に終息すると見積もられるため、当面、原油マーケットへのポジティヴ・インパクトを与える蓋然性は低いと考える。

(終わり)

 

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島村修司(しまむら・しゅうじ)

株式会社原田武夫国際戦略情報研究所グローバル・インテリジェンス・ユニット ゲスト・ リサーチャー。1981年防衛大学校電気工学科卒業。1981年より2015年まで防衛省・海上自衛隊に勤務。同期間中、英国陸軍教育機関、英国海軍参謀大学、ロンドン王立大学(安全保障修士)留学。米国海軍大学連絡官、同戦略部研究員、米国海軍戦闘開発コマンド交換士官、日米防衛当局間協議等に従事。2017年衆議院議員公設第一秘書。2019年4月より現職。

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