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2019年04月06日 #

今、なぜ「IISIAプレップ・スクール」なのか?(続「パックス・ジャポニカへの道」)

早いもので今年(2019年)も四半期が過ぎ去った。実は昨年(2018年)からそうなのであるが「当たり前」がもはや「当たり前」ではない時代が恒常化している。毎日がヴォラティリティー、すなわち激しい乱高下の連続であり、「不確実性の時代」(ガルブレイス)などといった呑気なことは誰も口にすらしなくなっている。

そうした中で我が国において誰しもが感じつつも、日常生活において口にしないことが一つある。それは所得格差に伴う生活空間の明確な二分という現実だ。我が国の「富裕層」などというのはグローバル社会におけるそれと比べれば実に可愛いものだが、それでもデフレが恒常化している我が国においては相当“裕福”なのである。それに対して「働けど働けど」(石川啄木)という人口は微増どころか、激増しつつある。これまた誰しもが知っているもの公論とならないことに「パパ活」がある。未熟練労働者、あるいは学生である我が国の女性たちはそのまま暮らしていても生計が成り立たないのである。そのため、最後の手段として、しかし実にファッショナブルに自らの「春」を売っている。これを「富裕層」の男たちが公然と買いあさっている。銀座を本拠地にした主婦売春組織もこうした「富裕層」の男たちの間では「売る側」である主婦層の間でかなりの人気だとも聞く。

私は外務省を自らの意思で辞した2005年春より前から「情報リテラシー(information literacy)」をメインに据えた、学生対象の無償のスクール、すなわち「学費タダの学校」を展開してきている。早いもので今年(2019年)14年目だが、卒業生は270名を超えた。一番年齢が上のかつての「学生」たちは35歳くらいになっている。彼・彼女らはそれぞれの場所で活躍していると聞く

だが、この様にして日々学生たちと触れ合う中でますます強く想うようになったことがあるのである。それはようやく20歳を越えるか越えないかの彼・彼女らの頭の中における「国家」概念の急激な消滅だ。2005年にこの学生向けの無償スクール、すなわち現在の「IISIAプレップ・スクール」を始めた時には「天下国家」を語る学生が一方では大勢居り、他方でそれに対してやや斜に構えつつも「俺は金持ちを目指す」とマーケット志向の学生たちがかなりの数いた。私は彼・彼女らの間に立って、グローバリズム、そして金融資本主義の中で翻弄される我が国の実情を説き、それに対峙するための能力としての「情報リテラシー」の必然性を問いたのであった。そして具体的には公開情報分析(Open Source Intelligence, OSINT)と圧倒的な歴史学習、そして何よりも出会うもの全てに対する感謝の念に基づくシンクロニシティ(synchronicity)に対するセンスの向上を通じた「気づき」の獲得による未来シナリオ(future scenario)の策定と、リーダーシップによるその具現化のための具体的な方法論を丹念に教え込んだものだった。

リーマン・ショック(2008年)の頃からだろうか。突然の金融恐慌で逃げ惑う大人たちと同じか、あるいはそれ以上のスピードで若い彼・彼女らも逃げ惑い始めたのである。そしてもはや「天下国家」を語る者は全く居なくなった。さりとて「マーケットでの大成功」を夢見る者も同じく全く居なくなったのである。学生である彼・彼女らはとにかく必死であり、目の前に置かれている障害物を越えるのに必死なのである。

しかも圧倒的なデジタル化(digitization)である。そうした「障害物」は容赦なく次々と置かれていくのである。大学は知の楽園ではもはやなく、あたかも「金を払って通う会社」の様な存在になった。そこでは健全な批判や疑問、あるいは「既存の構造」に対する反骨精神は一切不要であり、デジタル化によって極めて精密に組み上げられた障害物レースを日々こなすことだけが求められている。

しかしながら若い彼・彼女らは一方でそうした状況に必死になって適応しようとしながらも、同時にそうした順応の「先」には何も待っていないことも直感的に知っているのだ。かつてのバイト=今の「インターン」すらどういうわけか「就業体験」として取得単位になるという実に不可思議な制度すら設ける大学が後を絶たない中、大学にはもはや行かず、会社員よろしく「日々、出勤する」学生も大勢になっている。彼・彼女らはそうすることによって自分は誰よりも早く社会における指定席を得た、安定性に手が届いたと信じ込んでいるのである。

だが、違う。世の中はそんなに甘くないのだ。彼・彼女らは自らの生き残りに必死な企業側からすれば「労働関連法令すら知らない手ごろな未熟練労働者」に過ぎないのであって、所詮切り捨てなのである。親=大人たちすら生きる方向性を見失い、必死である中、社会常識の根源としての「集団行動規範」を家庭における教育で叩き込まれていない少子化「御子様」世代である彼・彼女らは実社会においておよそ使い物にならない。それでも企業社会において「仕事ごっこ」を出来ている間はまだ良いが、鳴り物入りで本採用となった瞬間に企業側が課すハードルの高さを前に「このハードルこそが悪い」とのたまわり、たちまち「使えない社員」に転落するのである。

そうした彼・彼女らは次に「より時代に即応しているデジタル企業」へと次々に転職する。だがそもそも社会において必須な「集団行動規範」すら知らない彼・彼女らにそこで残されている仕事といえば、PCを「叩いているふり」をする仕事だけなのであって、あとは卓上でもはや公然とスマホをいじり、社内の様子をリアルタイムで(!)ソーシャル・メディアにてつぶやく、といったことしかないのである。そして時に動画でもあるそれは「炎上」するわけだが、そのこと自体が彼・彼女らにとっては快感でたまらないのだ。なぜならばそれは唯一の「存在証明」のやり方なのであるから。そしてまたそのことは、「パパ活」さらには「ママ活」(!)にいそしみ、春を売る時の刹那の快感と充足感についても言えることなのだ―――。

そうした中で今年(2019年)5月から私たちの研究所は昨年度に引き続き「IISIAプレップ・スクール」を開講する。そのシンボリックな狼煙として今月(4月)15日からは京王電鉄井の頭線「駒場東大前駅」構内の大きな看板にこの開講を告げる広告が掲載される予定である。それ以外にも一斉に告知を行い、東京・丸の内で1年間続く集中講義により集う学生たちを募集することになる。

私・原田武夫自身、「国家」はもはや存在しえないという立場である。従来型の既得利権構造に過ぎないそれは全くもって無用の長物なのである。そのことを様々なグローバル・シーンで活動を繰り広げる中で日々痛感している。

だがしかし、そうであるからといって「公」すら存在しないのかというと全くそうではないのである。このことを忘れてはならない。それでは「公」とは何かといえば、それは自覚した市民の集合体なのである。「己が何故にここに生きているのか」「自らの手で宿命からつかみ取った運命をもって何を自分は為すべきなのか」そして何よりも「己のことは大丈夫だから、周囲の全ての者たち・事どものために何をすべきか」を考え、行動し続ける。それがここでいう市民である。自覚した存在としての「ヒト」といっても良いだろう(これに対して無自覚に「ヒト」と「ヒト」の間を漂う存在が「人間」である)。

そして「情報リテラシー(information literacy)」とはこうした「ヒト」あるいは「市民」にとっては必須の能力(capability)なのである。「ヒト=市民」は基本的に自立した個人である。そこで必要とされるのはありとあらゆる状況変化に耐えていくために必要な鋭敏なセンスだ。「分脈を感じる力(contextual intelligence)」といっても良いだろう。

「己は果たして何のために生まれてきたのか」

「己は何を天から求められているのか」

「己は全体のために何が出来、また何をすべきなのか」

これらのことを24時間365日感じ続け、また考え続けること。それを通じてもはや光の速度で全力疾走をしながらも俊敏な動体視力によって誰よりも早く物事の本質をとらえ、その行く先に先回りし、全体を「あるべき方向」へとリードして行き、結果として「全体としての最適解」へと人類社会を導くこと―――。この営みの全体こそが「公」なのだ。そしてこの意味での自覚した存在としての「ヒト」の集合体としての「公」へと人類社会を再構成し、再構築して行くこと、そしてそのためにいかなる学びがまずは必要であり、どの様にすればその学びを永続的に自ら行うことが出来、それをベースに「全力疾走の爽快な人生」を自らの手で構築できるのかという課題。このことこそが今、若い学生の皆さんが学ぶべきことなのであり、このことこそが私たちの展開する「IISIAプレップ・スクール」という社会貢献事業の本旨なのである。

今年もまた「この季節」がやって来た。学生諸君との出会いは講師である私の人生を実に豊かにしてくれる。そのことへの心からの感謝をあらかじめ述べながら、「まだ見ぬ若人たちとの出会いに対する喜び」を共にこうした企てを日々お支え下さっている会員制サーヴィス「原田武夫ゲマインシャフト」の会員の皆様に対する心からの感謝の念をお伝えさせて頂ければと強く想う。

2019年4月6日

東京・丸の内にて

原田 武夫記す

※2019年度「IISIAプレップ・スクール」は我が国の大学・大学院に通う学生の皆さんのために弊研究所が無償で展開している社会貢献事業です。詳細・御申込はこちらのリンクをクリックしてください。

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