「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第31回 和
フランスでも桜の花がほころび始めました。どんよりした曇り空の中に浮かぶ薄い可憐なピンク色を見ると、心なしか気分も浮き立ちます。やっぱりピンクは心が躍る色です!同じ女子校出身の中・高時代の教師が「学生時代にずっと紺色しか着られなかったので、洋服はピンクか赤しか着ないんです」と言っていたのを聞いて、当時は30でピンク??とか思っていたのですが、いやぁピンクのよさに目覚めたのは30過ぎてからですね(笑)。とにもかくにも春の本格的な訪れが待ち遠しいものです♪
さて今回は、日本人であれば自然と身につけている「和」をテーマに話を進めていきたいと思います。
「和を尊ぶ」とは、「なるべく角を立てずに穏便に物事を進めようとする」という意味合いばかりでなく、「一つの目的に向かい、互いが互いを尊重しあって協力していく」という意味があると思います。「和」は「輪」に通じ、一つの仕事がそれだけで独立して存在するものではなく、直接的な仕事相手の先にも相手が存在し、大きなサイクルとなって仕事が回っているのだということを、日本人としては当然の如く感じていることと思います。例えば、本社や製造拠点が日本にあり海外にも営業拠点があるような物づくりグローバル企業であれば、勿論製造拠点の先に仕入れ先があり、海外拠点は本社の営業や製造拠点以外とは直接的に関係を持たないかもしれませんが、その先に仕入先があることは理解した上で動きを取らなければいけないことを日本人であれば当然理解しています。しかし、海外拠点のローカルには、この「仕事が輪として動いている」という事実をなかなか理解してもらえないという問題があるのです。というよりも、「仕事が輪として動いている」ことは理解していても、そのうちの自分たちのタスクは、「自身が所属する拠点と顧客」及び「自身が所属する拠点と本社乃至製造拠点」の輪の中の一部だけであり、それ以外のことは自分の仕事とは関係のないというスタンスを貫き通すといった方がいいかもしれません。
例を挙げるならば、海外拠点の顧客が新製品を翌年から販売するにあたり、船便等のリードタイムなどを加味すると製造拠点において夏から初秋頃までには新製品の立ち上げに動かなければならない、一方で、新製品が出るまでは旧製品を売り続けねばならないので、新製品の立ち上げまでに年内の在庫を貯めておきたいというような事例が起きる場合、日本人の営業であれば、何とか年内の売れ行き動向を見極め、また顧客と交渉して年内の販売数について握るなりして、自分の所属する海外拠点の倉庫ばかりでなく、本社の製造拠点にも、その先の仕入先にもなるべく在庫が出ないように情報の精査に尽力するし、またそういう役割を本社からも求められていると思うのですが、実はこれは極めて日本的な考え方なのです。
日本人であれば、それが日本から来ている「駐在」であれ「現地採用」であれ、海外拠点は本社にとってある意味日本の製品を買う側の「顧客」であっても、販売する製品を「作成して頂いている」という感謝の気持ちも持っており、本社や製造拠点のことまで考慮に入れながら、つまり仕事を「輪」として考え「和」の心を以て仕事をしているのですが、ローカルにこのような感謝の気持ちなど求めても、それに対する理解を求めても無駄でしかありません。彼らにとっては、海外拠点の「顧客」がはっきりとした情報を出せるのがXX頃と言ったらそれ以上の情報を出すことはできないし、俺たちはあくまで本社の「顧客」であるのだから、本社が「顧客」の要求に従うのは当然のことであり、本社の先の先にあるかもしれない仕入先のことなど製造拠点の調達の仕事であって、俺達には全く関係ないことでしかないのです。この溝をどのように埋めていくかが非常に重要な問題です。
スタンダード化するのはあまり好きじゃないのですが、あくまで直線の関係で仕事を捉えようとする「欧米人」と輪として仕事を捉える「日本人」、ここにグローバリゼーションの落とし穴があるのだと思います。「グローバル進出」しているから、全て欧米主導のグローバルスタンダードに染まらなければいけないわけではないのです。日本式の「優れた」点をグローバルスタンダードへと格上げしつつ、グローバルプレーヤーになることこそが、「グローバル進出する日本企業」が背負うべき課題であり、成し遂げていかねばならないタスクであると言えるでしょう。
プロフィール
川村 朋子
元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。
現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。
リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得
主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。