「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第26回 欧州における難民増加に伴う外国人の権利法の改定状況(フランスの場合)
あっという間に師走。シャンゼリゼはクリスマスのイルミネーションできらきら輝きとてもきれいです。先日、折角パリまで足を延ばしたのに寒すぎて写真を撮り忘れました(泣)。数年ぶりにRER(パリ近郊高速鉄道)に乗ったところ、駅での「スリに注意」放送が日本語でもされるようになっていて、驚いた次第です。普段、車ばかりですからね…。車と言えば、この時期になるとパリでは光化学スモッグがひどくなり、汚染度がある一定以上になると、車のナンバーの奇数/偶数で車の使用が制限される交通規制が敷かれます。違反すると35ユーロの罰金。6日この20年間で4回目となる右規制が行われ、7日も継続。2日続けての規制は初のことです。
さて、今回は欧州における難民の増加が様々な方面で影響を及ぼしていることは皆様ご存知だと思いますが、それに伴う法改正により、出張者や駐在員にも影響が出てくる状況が出てきている点につき、お話しさせていただきたいと思います。
欧州では、ドイツにしても、フランスにしても、難民対策として不法滞在者を取り締まるのと同時に、人材と見做せる外国人は積極的に受け入れるスタンスを取り始めています。フランスでは2016年3月8日にフランスにおける外国人の権利に関する改定法が公布され[1]、11月1日付で施行されていることになっています。
これまでの法律では、フランスで働く人材に対しては6種類の滞在許可証があり、駐在員に対しては「Salarié en mission」という駐在員向けの専用滞在許可証が存在していました。しかし、新たな法律では細かな滞在許可証の区分が廃止され、高度な人材に対して最長4年間有効な「passeport talents」(人材パスポート)という名の一括りの滞在区分が新設され、駐在員もその滞在区分に組み込まれることになりました。手続きもこれまでより簡略化されます。さらに、欧州に進出している企業にとって便利になる点は、複数のEU加盟国での就労を可能にする、グループ企業内の派遣者に関するEU指令(2014/66/EU[2]) の国内法化も記されている点です。例えば、これまで2年間ドイツに駐在後、さらに1年間フランスで駐在を続ける場合にはそれぞれの国で滞在許可(労働許可)を取得しなければならなかったのが、「salarié détaché ICT」という企業内移動派遣者滞在許可証の取得により両国で仕事に従事できるようになります。
また、高学歴留学生の雇用を促進するために、滞在許可の身分変更が簡略化され、修士以上の免状取得者は留学経歴に関連する職を1年間探すことができるようになっており、雇用側からも高学歴の留学生を受け入れやすいように法改正されています。その他、現在までは短期間であっても報酬が発生する就労に従事する場合には労働許可を取得しなければならなかったところ、新法では三か月以内の滞在での労働許可取得義務が廃止されており、短期プロジェクト等の場合には、煩雑な行政手続きやその労力が免除されることになるといった恩恵もあります。
と、利点ばかり挙げていますが、一つ落とし穴が(笑)。
上記でこの法律が施行されていることになっている、という書き方をしておりますが、このような書き方をしているのは、政府の法制度に関するサイトでは、確かに施行されていることになっているのですが、実際に滞在許可証の手続きを行う例えばパリ警察庁のサイトでは、施行から一か月以上たっているにも拘らず、引き続き古い6種類の滞在許可証の情報しか掲載されていないからです(笑)。フランスではよくあることなのですが、法改正などがある場合には、上からの情報が下までいきわたるまでに時間がかかり、実際に窓口なりで対応するフランス人は、何がどのように変わったか法律施行からしばらくの間は全く理解しておらず、誰に聞いても正確な情報が得られないというお粗末な状況が続くのです。パリですらこの状況ですから、地方ではもっと情報伝達に時間がかかり、対応する人により回答が違うというようなことは日常茶飯事。実際、この改正により申請手続きに非常に時間がかかるようになっているようで、先日、グループ企業の方から申請手続きが滞っているのだが、どこに問い合わせれば的確な回答が得られるのだろうか、と非常に困惑した様子での相談が巡り巡ってきました。このように、改正が行われてからしばらくの間は、手続きを行う側自身も状況を把握できてないことが多く、スムーズになるはずの手続きに余計時間がかかるといった矛盾した展開が続きます。この過渡期さえ経れば、フランスに進出している日本企業にとっても、面倒な行政手続きの簡略化の恩恵を受けることができるでしょうが、もう少しの間は辛抱が必要そうです。
プロフィール
川村 朋子
元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。 現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。
リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得 主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。
[1]https://www.legifrance.gouv.fr/affichTexte.do?cidTexte=JORFTEXT000032164264&dateTexte=&categorieLien=id
[2] http://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A32014L0066