洗濯日和にマネーを思うなど
少しお久しぶりです。
先月までさんざん家に引きこもっていた反動か、今月は文字通りほとんどエストニアの家にいない状態でした。
再び突然の呼び出しを受け日本に3週間弱、その後フィリピンに1週間程滞在。
今回は週末にフィリピン人の友だちに彼女の田舎に連れて行ってもらい、
ほんの数時間だけですがフィリピンのローカルな村にもお邪魔してきました。
マニラ市内から車で3時間程の道中なのですが、道すがら多くの家で洗濯物が大量にたなびいていたので
「雨季だと晴れの日に皆ここぞとばかりに洗濯物干してるね」
と話しかけたところ
「いや、溜まるだけ溜まってから一気に洗う家が多い。
この辺りは皆手洗いだから、洗濯する日を決めてその日は一日中洗濯するんだよ。
もし洗濯機一台持っていたら、お金とって貸しだせるよ」
とのことでした。
ちなみに私は「フィリピンで何を学びましたか?」という質問に対して
「二槽式洗濯機の使い方をマスターしました。」と答えるのを鉄板ネタにしています。
全自動洗濯機が開放した、そしてこれから開放されうる全地球上主婦の合計時間を考えると
まさに神器と呼んでなお余りあると思うのです。
そんな電化製品の恵みを目一杯浴びて今まで生きてきたコテコテ都会人の私ですが、
更に車を走らせニワトリや野良犬を抜けること一時間ほどの小さな村で豚の丸焼きをご馳走して貰った後
カエルを捕まえに近所の少年グループに先導されて田んぼに行ったり(残念ながら晴れた昼間だったため断念しました)お墓へ挨拶に行ったり、ちょっとブラブラ歩いたり。
日本でもいわゆる田舎へ帰省する、という経験が今までなかったため、トトロの世界や…!と意外に楽しむことができました。
暗くなる前には出発したのですが、きっと印象的な程に暗闇に閉ざされるのだろうなと想像します。
私たちが外にいる間に、親戚どころか近所の人たち大分集まってきているんではないの、
といった様相でカラオケ大会になっていた裏庭と対象的に
恐らく長老組と彼女の父親だけが喧騒から離れ表玄関の前で煙草をふかしつつ屯しており、
友人姉妹が請求書らしきの束と台所に拉致られていったので
私はその集まりの中ただ空気のようにボーッと座って待っていたのですが
マニラへの帰りの車中で聞いた話によると、家のリノベーションを計画しているとのこと。
彼女の田舎の家は普段は農家のお父さんと盲目のおばあさんの2人暮らしで、ほぼ自給自足に近い生活を送っています。
色々複雑な事情はあるのですが今のところ交流と経済力があるのは彼女と妹の二人だけなので
彼女たちが政府の助成プログラムを利用してお金を出すつもりだそうですが、
やはり大金になるため目下色々と悩み中であるとのこと。
その悩みとはプログラムの申請やローンの種類、または貯蓄や返済への計画の不安かと思いきや、
根本的に父親にそうした大金を扱う機会を与えるにためらいを感じているとのこと。
父親は文盲であるので書類が一切読めないというのもそうですが、
そもそも以前にも屋根の雨漏りを直すためといって(そこの生活にしては)少し大きめの額を渡したのに、
今日帰ったら一部材料は増えていたものの結局何も変わっていなかった。
金額は十分だったはずなのにもう残っていないと言う。追求はしていない(できない)が、きっと同じことになる。どうしよう。
それが彼女たちの世界であるので私の価値観で感想を述べるのもどうかと思いますが、
何も意見しないというのも他人事に過ぎるかと半分冗談でこう提案してみました。
とりあえず洗濯機を買ってあげるというのはどうか。
私の部屋にある小型の洗濯機でも雨漏り修理のために渡した額よりちょっと高いくらいで、もっと大きくてシンプルで安いのだってあった。
どちらにせよ頭金を用意するのに数年かかる計画なんだから、その間洗濯機で皆から少しずつお金を貯めたらいいのでは?
村の皆も楽になる、少しだけでもお金が溜まる。自分で手に入れたお金なら少しはお父さんも考えるかもしれない。
結果として答えは即座にNO。あの小さな村で人から現金をとれるわけがない。
うまくいってもお米をもらうだけだろう。米を貯めても仕方ない。
安易に貨幣経済を地域社会に持ち込もうとして惨敗した旅商人みたいな気持ちを味わいつつ、
このあたりで妹さんが現在住んでいる市街に入り皆でポケモンGOを起動していたので、
またちょっとした好奇心で
「例えばモバイルで必要な分だけ送金できるとしたらどう?
大金を渡すと用途不明で使ってしまうんだったら少額送金が簡単にできると便利だと思う?」
(前回の私の記事を読んでいただければ私が何を言いたかったのかお分かりいただけるかと思います)
と聞いてみたのですが、それもまったくのNO。
数字が増減したところで、彼らは画面上のそれをきっと信じられない。それならまだお米のほうがマシ。
フィリピンではテキストメッセージが非常に盛んで、彼女たちも基本的には家族と携帯で連絡を取り合っています。
だから機械に対する抵抗はないはずなのですが、現物と極少額の通貨交換で生活をしている人々にとって
ただ増えたり減ったりするだけの数字はきっと何者でもないんでしょう。
(もちろん近くに銀行がなく直ぐに現金化できない、そもそも生活圏で通貨がさほど流通していないという大前提の大きな問題があるのですが)
普段まさにFintech関係のニュースを見聞きし、実際にECサイトなどでオンライン上の収支をプログラムするのが自分たちの仕事であるわけですが、
一体世界は物々交換の時分から、もはや空想とも言える方向に随分遠く突き進んできたものです。
その後も色々と車中議論は白熱していたのですが、完全に感覚がズレている私は特に何をいうでもなく、そんなことをぼんやりと考えていました。
【プロフィール】
楼 まりあ
神戸・東京・マニラのオフショア開発を繋ぐブリッジSEとして、そして東欧での新拠点をリサーチするため現在エストニア現地企業で外部契約社員としてタリンで在宅勤務。大学時代、マニラオフィスのオープンスタッフとして1年間マニラに滞在。NYでインターン経験有。
東京大学経済学部卒。