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「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第20回 為替損益

4週間のバカンスから戻りましたが、案の定、引継ぎを頼んでいった件もほとんど動いておらず…。まぁ、期待はしていませんでしたが。取引先もみんなバカンスに入ってしまっているので、9月を待つしかありません(笑)。8月の声を聞くや通勤時の渋滞も緩和され、ちょっぴり落ち着きモードのフランスオフィスよりのブログです。

さて、今回は大分円高が進んできた今日この頃のタイムリーな話題として為替損益を取り上げてみたいと思います。

海外に進出した場合に必ず付いて回るのが、通貨の違いによる為替損益の発生です。ユーロが流通する前から欧州にいた私としては、ユーロという単一通貨の導入による欧州域での為替手続きの消失及び損益発生確認工数の消失がどれほどの恩恵をもたらしたか痛いほど身に染みており、この点においてだけは単純にEU素晴らしいと思うのですが、あくまでそれは欧州域内だけの話であって、日本企業が欧州にしても何処にしても海外進出している際には、どこかしらで為替の問題に突き当たることになると思います。以前、急激な円高となった際には日本国内で物を作っても売れないからと、多くの企業が外国へとモノづくりをアウトソーシングした時期もありましたが、円安に振れた際には結局そこがリスクとなり撤退を余儀なくされた企業も多く、単純に円高・円安に振り回されてしまうと余計な工数・損失を発生させてしまうことになります。企業によっては、日本で生産したものをアジア地域に販売するのに、為替だけ見るとメリットが出るからと日本からわざわざ欧州経由でアジア地域に物を運ぶなどといった荒唐無稽なロジルートを使用し、多少の益は出たのかもしれませんがそれ以上にCO2を発生させ地球を痛めつけただけのような動きを円安の間だけ見せ、円高に動き始めた際には通常の日本→アジアルートに戻すというような対応をしているようなところもありますが、やはり健全な動きではなく、こうした動きを取ることで本社は利益を享受できていたとしても、本来売り上げが立っていたはずの欧州拠点は突然利益を奪われ使い捨てにされた感が拭えず、本社と海外拠点の間に凝りを残してしまうといった2次被害まで生じさせてしまったりもしています。

以前は欧州企業も円建てでの価格設定を受け入れていましたし、ユーロ建てで価格を決定するにしても半年ごとの為替調整を行う条件などを受け入れてくれていましたが、これを行うことで余計な工数が双方に発生するのは否めず、2010年ぐらいを境に価格設定はユーロ建てオンリー、為替調整なども行わないといった契約が主流になってきたように思います。多くの業種で現地現調が進められている中で、購買側の現地通貨決済の流れは当然と言えば当然なのですが、これまで買い手と売り手が為替損益を折半していたのに対し、この動きの中では為替損益を売り側が一手に引き受けなければならなくなる点に注意が必要です。そのため、ビジネス期間の為替の動きを織り込んだ売価設定を慎重に行うことがこれまで以上に重要になってきています。勿論為替の動きを想定するのはプロですら難しいことですから一朝一夕に培えるものではありません。ただこうした力を少しずつ養っていくためにも、このブログを目にしている方々の中には当研究所の会員である方も多くいらっしゃると思いますが、世界の動きを発信している情報を活用して、経済面ばかりでない様々な方面でのグローバルな動きを随時チェックし、情報リテラシー能力を研鑽していく必要があるのではないでしょうか。特に為替の動きは実際経済だけでは語れない部分が多く、国際経済ばかりでなく国際政治の動きも十分に理解することが重要であると考えます。

一方で、円安時に取ったビジネスが為替の動きのせいで利益率が落ちてしまいそうになった際非難を受けないためにも、売価、為替、利益率の設定をしっかりと本社側にも受け止めてもらう必要があります。間違っても、一番いい円安状態の為替でのみの今後5-10年の利益率の推移なんてものを騙し絵のように本社に展開するのはアウトです!重要なのは、円高に振れて一時的に利益率が悪く様な事態が起きても、ビジネス期間を通算した上での利益率がどれだけになるのかを説得力を以て説明できることです。ビジネスの期間によっては、円高の時期の方が長くなるビジネスもあれば、反対に円安の時期が長いビジネスもありえます。そこを長期的視野を以て為替の動きを予測した上で、その動きを理論的に説明し反映させた上での売上げ、利益率を説得できる力を養うことが、グローバル人財への第一歩ともいえるでしょう。そういう観点から為替の動きを見ていくのも勉強の一つだと思います。

 

 

プロフィール

川村 朋子

元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。

現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。

リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得

主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。

 

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