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「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第13回 海外での人財獲得

またも大規模なテロがベルギーで起きています。ベルギーは欧州の中心として国際機関が集中しているばかりでなく、租税メリット等もあり、欧州に進出している日系企業の中でもベルギーに進出している企業の数は多く、テロの起きたブリュッセル空港に馴染みの深い方も多いのではないかと思われます。どんなに痛ましい事件が起きても変わらず日常は繰り返されており、歩みを止めるわけにはいかないのですが、どんなに気を付けてもある日突然巻き込まれてしまう可能性のある「テロ」行為の前に為す術もないという恐怖は着実に欧州市民、欧州在住民の心を曇らせている気がします。フランスで同時多発テロが起きた時と同様、テロが起きてすぐに多くの企業で安全確保ができるまでの出張延期要請は出ているようですが、それでも例外扱いで出張される方もおられるでしょうし、このような状況でもゴルフコンペは中止にならないんですよね~。これだけ「テロ」の危険について騒がれていても、我が身に実際に降りかかるまでは対岸の火事ということなのでしょう。こういうところが、日本企業だなとつくづく思います。

と、長い前置きはさておき、今回は海外での人財獲得ということで、ローカル人財獲得について思うところを綴ってみたいと思います。

これまでいろいろと書いてきた中で、グローバル人財にはコミュニケーション能力が何よりも重要であり、それを生かしローカルの協力を得られるようにマネジメントを行うのが最大のタスクである旨述べてきていますが、裏を返せば時に微妙なコミュニケーションしかできない相手にも対応でき、それなりに協調性のあるローカルを雇用できればこれに越したことはありません。まぁ、そのような人材獲得は、これまで述べてきた点を併せ持つような理想のスーパー・グローバル人財上司像と同じく多分に夢物語でしかないので、如何に誤った人選をしないかが重要となってくるでしょう(笑)。

と、冗談はさておき、本音を言ってしまえば、優秀な人財は欧州であれば欧州系或いは米系企業に獲得されてしまうのが一般的であり、わざわざ日系企業を選択する人財というのは数少ないのが事実です。それでも、一流企業のトップを約束されるレベルの人財というのは一握りでしかないわけであり、大企業ではなかなかできないチャレンジを国際的に行う可能性が開けているという意味で、日系企業に転職してくる有能な人財がいないわけではありません。こうした希少な人財を如何に獲得できるかが企業にとって死活問題であり、そのためにはどのような人財が企業にとって必要であるのかしっかりと定義づける必要があるといえます。この定義づけの段階が曖昧というか甘いというか、大枠を決めるだけで後は採用後の教育でという方針なのかもしれませんが、雇用側の企業と雇用されたローカル人財との間で認識にずれが生じているケースが少なくなく、双方がこんな筈じゃなかったのにとの不満を抱えるという、傍から見ていても非常に勿体無いケースがよくあります。せっかく有能な人財を雇用できでもそれを活用できなければ意味がなく、活用するためにはその人財の能力を最大限に生かす方向でのタスクが与えらなければいけないわけであり、採用の段階で企業側が求めているものを限りなく明確にすることで、採用したのにすぐ辞職され、また採用活動を行わなければならないといった無駄な繰り返しを省くようにしなければなりません。

エンジニア系など専門的要素が強くなる職務では、本社で研修を行うことで企業にとって有益な人財へと教育をしていくことを考慮に入れた上で採用を行うこともあると思いますが、このような場合もはっきりと研修期間なりを採用段階で決めておかないと、研修に行かせた直後に辞職などという憂き目にあうこともありえます。日本的感覚では、企業が全額負担して給与も保証したうえで半年や1年日本で研修を受けさせるなどといった待遇は「厚遇」以外の何物でもなく、それにノーと回答するなど信じられないのかもしれませんが、アジア人ならいざ知らず、欧米人にとって日本に行くということは、日本人がアフリカに赴任するのと同レベルの扱いなのです。外務省的に言えば、住む地域の危険度や生活環境によって瘴癘度というのが設定されておりアフリカ各国が瘴癘度3-5に当たるわけですが、諸外国にとって日本はこの瘴癘度が非常に高い国なのです。一体、何故!!と実際私も初めて聞いた時には思いましたが、フランス人外交官にあっさりと梅雨があり、夏も耐えられないレベルの暑さで、しかも言葉が通じず、アフリカより大変とあっさり言い返されました。フランス人外交官は二ヶ月くらいバカンス取って夏に日本にいませんが(笑)。というわけで、採用時に六ヶ月の研修と言われたから転職を決めたのに、1年間研修に行けと言われ彼女に相談したけど許可が下りず(←この辺がフランス人)、人事とひと月ぐらい研修期間で揉めたフランス人の例等、枚挙に暇がありません。

最後に、もう一つ重要なのが、雇用したが最後、解雇するのが非常に大変という「労働者」の権利が手厚く保障されている国々が欧州には多い点です。勿論、雇用から1-2年位は、仮契約期間もありまた短期契約も可能なのですが、そうした期間を過ぎると途端に解雇手続きが大変となり、どんなに使えない人間でもなかなか解雇できないという問題が出てきます。辞職したい場合にも、「解雇」の形でなければ手当が受給できないことから、解雇されるまで待つといったケースも多いのですが、かといって短期で赴任してくる上層部は責任を自分が負うことに及び腰となり決断ができず、見て見ぬふりの繰り返しで、結局定年まで朝出社してお茶を飲んでいるだけの社員がいたなんてこともありえます。

こうした意味でも採用活動は慎重に行う必要があるのですが、いざという時には「切る」という判断ができる人間が海外拠点にも必要であると思うのです。

 

【執筆者プロフィール】
川村 朋子
元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。
現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。
リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得
主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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