「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第7回 歴史を学ぶ、歴史に学ぶ~
新年明けましておめでとうございます。
このブログが掲載される7日は、昨年度起きたシャーリー・エブド襲撃事件からちょうど1年目に当たります。テロで始まりテロで終わった昨年度から状況はあまり改善していないのが気懸かりです。欧州に赴任、出張される方々はくれぐれも身の安全を第一に周囲への注意を怠らないようお気を付けください。
さて、今回は「日本企業が直面する課題」とは直接的には関係ないのですが、グローバルに仕事を行っていく上で語学力の向上と同様に心がけるべきである「歴史」教養を身につけるということをテーマにしたいと思います。
日本では中学、高校時代の「世界史」授業でざっくばらんではあるけれども一応世界全体の歴史を学ぶ機会がありますが、受験戦争の中では世界史にしても日本史にしても「暗記科目」としての位置づけで、ひたすら年号と事柄を覚えるだけの面白くもない面倒な科目として捉えられてしまう非常に残念な傾向があるように思います。私は、中・高時代の世界史の先生が旅行好きで楽しく歴史の説明をして下さる方であったことから、歴史好きとなりそれが高じて歴史研究をしていた口であるのですが、故に歴史教養習得推進を行っているわけではなく、特に欧州においてはそこで暮らし仕事をしていく上で、居住している国家及びその周りの国々を理解するために歴史を学び理解することの重要性が、島国であり『鎖国』をすることが出来る状況にあった我が国とは桁違いであることから敢えて言わせていただきたいのです。「歴史を学ばずして外国で仕事するなど笑止千万」であると。
その昔、外交官試験を受けた当日、トイレで雑談に花を咲かせいている女の子たちが「私、冷戦って良く分からないんだよね~」と話していたのを耳にし、モスクワ・オリンピックのこぐまのミーシャが涙した写真を子供心に忘れられないでいた私は驚愕した覚えがあり、外交官を目指す学生向けにも、外交官になるための受験対策に膨大な時間を費やすぐらいなら仕事をしたい国・地域の歴史を学び、常に思考力を養うことに時間を割け、と言わせていただいたことがありますが、グローバル人財を目指すのであれば同様に、歴史教養は必須です。これまでの歴史を理解していなければ、現在の国際情勢も政治・経済も表面的な理解しか出来ず、今後起こりうることの予測もできないわけであり、長期的視野での世界的ビジネス展開を描くのが難しくなることでしょう。ことに地政学リスクやテロリスクなど様々なリスクが世界各地に点在し、目まぐるしく国際情勢が変遷する現在において、アラブ勢と日本勢が来たらマーケットは終わりなどと言われる前に動きを取れなければ、国際ビジネスの場で生き抜いていけないのは言わずもがなです。如何に先を読み解き、グローバル人財として国際ビジネスの場で日本企業を牽引していけるか、その手助けの鍵となりうるものの一つとして「歴史」への造詣を挙げたいのです。
歴史を学ぶということは、政治も経済も社会も文化も芸術も、その国、その地域のすべてを学ぶということであり、且つその地域の国々の繋がり、関わり合い、その変遷を知ることであり、その地域・国々の人々とビジネスを行っていくための戦略を練るには必要不可欠な要素であるはずです。その国に関心を持ち理解している人間が上司である場合とそうでない場合では、ローカルとの関係も仕事のチームワークも全く異なる結果をもたらすのは自明の理でしょう。また、我々人類は歴史に学ぶことで同じような状況に陥ったときに同じ過ちを繰り返さないことで(いや、多分に繰り返していますが)文明の針を進めてきたのであり、過去と非常に似通った状況が起きた時にどう対処すべきなのか最善の策を取るには歴史から学んでいるほうが圧倒的に有利であるのは間違いないのです。また、戦後、全国民を押しなべて中流階級へと一括りの輪に収まるよう育て上げらてきた日本社会と違い、欧州の国々はれっきとした階級社会であり学歴社会です。フランス革命で国王の首をギロチンで斬首し、その後も何度も革命が起きているフランスが階級社会だなんて可笑しな話ですが、紛れもなく階級社会であり驚くほどの学歴社会です。こうした国で一般常識として、歴史、政治、経済を語れなければビジネスパートナーにはなりえませんし、カウンターパートからもこうした面で査定されかねません。
数年前、フランスでも「ゆとり教育」の一環として大学入学資格となるバカロレア試験から「地理・歴史」を除外しようという声が挙がりましたが、歴史家を初めとする圧倒的大多数の反対意見で却下されました。因みにフランスの試験にはXX事件が起きたのは何年ですか?なんて設問はありません。例えば昨年度の理系のバカロレアの地理の問題の一つ(大抵2択)は「グローバリゼーションに不均等に巻き込まれている地域について」述べよというものでした。同じく歴史は、1984年に出版された本の一部20行ぐらいを抜粋した文章を読み、1960年代から80年代までの国際関係における中国の立ち位置の変遷について述べよというものでした。両課題に対し地・歴併せ3時間かけて論文を書き上げるという形式です。歴史的事実を学びそれを如何に自分のものにして論理的にアウトプットできるかが問われる試験であり、歴史が暗記科目などでないことは一目瞭然です。そして、理系だろうと地・歴も哲学も必須なんです。オールマイティに様々な地域の歴史を学ぶ日本式の世界史授業も素晴らしいんですけどね。
せっかく休暇がとれて様々な名所を訪れたとしても歴史を知っているのと知らないのとでは感動の度合いが違ってくるはずです。是非、仕事の合間を見て歴史力を高める努力をされてみては如何でしょうか?
というわけで今回は私の大好きな歴史上人物のお墓の写真にしてみました。
【執筆者プロフィール】
川村 朋子
元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。 現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。
リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得 主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。