結局謀られたのは我が国であったという話。(原田武夫の”Future Predicts”. Vol. 62)
以前、就任したばかりの高市早苗・総理大臣がトランプ米大統領を我が国で「歓待」した際に、筆者は「外交と接待は違う」と書いた。なぜならば外交とは結局、合従連衡の連続なのであって、「ここで終わり」ということがない世界だからだ。「接待」とは、ビジネスの世界でプロジェクトの合間や最後に行うものだ。そこでは関係性の維持が目的ではあっても、一応の区切りはある。また民間の世界では「こことは付き合わない」と決めれば他がある、必ず。しかし国家間における外交となると話は全く違うのだ。特に大陸で物理的に角をつき合わせている諸国勢は日常的に、この合従連衡を繰り返している。すなわち「今日の味方は明日の敵、明日の敵は今日の味方」というのが当たり前なのであって、それを前提に繰り広げられているのが外交(diplomacy)なのである。しかも、我が国は文明開化の折、主に「英国流の外交」を学んだ。英国流ということは、大陸欧州における伝統的なそれとはまた異なるということを意味している。そのせいだろうか、我が国は欧州外交、そして大陸外交に弱いというきらいがある。実際、外務省の中で働いていても、欧州外交の最前線でname upし、「あぁ、あの日本人外交官ね」という名を轟かせている人物は現在、ほぼ皆無というのが筆者の実務経験を経ての印象だ。
さて。そうした中で我が国としては最も恐れていた事態が発生した。国会におけるいわゆる「安保答弁」でテレビのワイドショー並みにはっきりした発言をしてしまい、明らかに「滑って」しまった高市早苗・総理大臣に対し、トランプ米大統領が電話首脳会談を申し入れてきたのだ。そしてこともあろうに、「中国を刺激するな」と横やりを入れてきたのである。トランプ米大統領についてはその腹心であるベッセント財務長官曰く、来年(2026年)には恐らく4回、習近平・中国国家主席と会談を行うというのだから事態はさらに深刻だ。将棋の世界を思い浮かべればすぐにご理解頂けると思う。要するに「挟み撃ち」に我が国は実のところあっていたというわけなのである。国内での政争に明け暮れている間に我が国の「政体」勢力(政治的リーダーシップ)は肝心のことを怠っていた。すなわち本当の意味での「外交」、そして「戦略」を考え、実行するということである。
もっとも「こうなること」は弊研究所はかねてより分析として繰り広げて来ていたこともまた事実だ。昨日(28日)にリリースした音声レポートにおいて、今後のあり得べき展開可能性と共に詳述しているわけであるが、そもそも米中は「つるんでいる」のである。現に筆者の中国勢におけるカウンターパートであり、中国共産党を取り巻く集団における中心的な人物の一人は「米国において大統領が共和党になろうと、民主党になろうともどちらでも我々としては構わない。最大の献金者の一人は我々なのだから」と豪語していた。米中は清朝の昔から「つるんでいる」のである。ただそれだけのことだ。そしてその現代的な在り様のことを筆者は「グローバル「共同」ガヴァナンス」と呼んできた。米国勢はもはや一国ではグローバル・ガヴァナンスを表向き支えられず、これから自らが内戦になることを前提に、在外権益を守ってもらうべく中露にむしろ「御願いをしている」というのが実態なのである。この冷厳な現実を見ずに、やれ「台湾有事だ」などと無責任に繰り返し述べる我が国「政体」勢力を、当の台湾勢(実質的には中国勢とこれまたつるんでいる。なぜならば血族だからだ)自身が冷ややかに見ているというのが実態なのだ。
さて、追い詰められた高市早苗・総理大臣はどうするか?———ここで起死回生を外交で狙うとするならば「朝鮮半島カード」を切ることであろう。しかし、北朝鮮勢はというとロシア勢が既に先に押さえてしまっている。ということになると、「親分格」であるロシア勢に接近せざるを得なくなるわけだが、ここでもまた「ウクライナ戦争」をイシューとしながら米露が頂上戦を繰り広げている。そこに今更のこのこと入っていくとするならば我が国が何を言われるのかは火を見るより明らかなのである。すなわち「ここから話し合いに入りたいというのであれば、この勘定を支払ってからにしろ」と言われるのである。この展開は読者におかれて既視感はないだろうか?そう、「湾岸戦争」の際と同じなのである。あの時も、中東勢における権益を英米勢がさんざんぱらリシャッフルした挙句の果てに、最後の最後、我が国が「100億ドルの勘定書」を突き付けられた。そして我が国はその後、その支払い(実際には期限に間に合わず、当時の自民党幹部の名義でスイス勢にある有名銀行の口座に眠っているのであるが、その資金は)を行い、ほぼ同時期に軽々低迷が始まる中、ついには「平成バブル崩壊」「失われた30年」がスタートすることになるというわけなのである。
「過去に盲目な者は未来に対しても盲目である」。かつてのドイツ大統領、リヒャルト・フォン・ヴァイツゼッカーの遺した言葉である。この警句だけでは語り切れないほどの冷厳な現実に私たち日本勢は直面している。そして高市早苗・総理大臣が禁断の「北朝鮮カード」を切り始める時、次の衝撃的な展開が始まるというわけなのである。
いずれにせよ、私たち日本勢は今こそ思い知らなければならない。「謀られた(たばかられた)のは私たち日本勢なのだ」ということを。もはや逃げることは許されない。ここから何を打ち出すのか。本当の意味での「外交(diplomacy)」が今こそ求められている。そしてそこにこそ、弊研究所が民の立場でありながら、グローバルという観点から打ち込んでいくべき広大な世界が広がっていると筆者は確信している。
2025年11月29日 東京の寓居にて
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 ファウンダー/代表取締役CEO/グローバルAIストラテジスト
原田 武夫記す