夕闇迫る瀬戸内の島で太公望は今の世界に何を見ているのか?(原田武夫の”Future Predicts”. Vol. 61)
昨日、滞在先の広島にて呉の街中を抜け、倉橋島を訪れた。目的はただ一つ、「釣り」である。釣りの世界も随分とテクノロジー(?)が進化したもので、今や餌釣りの世界もさることながら、「エギング」と言われる疑似餌による釣りが新たな流行の火種になっている。アジング、メバリング等々、様々な名称があるが、命の最後の瞬間を疑似餌に惑わされてしまう魚たちの運命や如何に・・・などと感傷的になりつつも、車に乗って瀬戸内へと繰り出した。
潮目を見るために夕刻を狙って出向いた。倉橋島は広島から文字通り「すぐそこ」にあるが、漁村そのものといったところだ。人口100万人都市からものの数十分というところにこうした光景が残されていることに、あらためて驚きを禁じ得ない。最近、我がメンターが築地で会食した際、「今や世界中の富裕層が瀬戸内に殺到していて。我々日本人には公開されていないが、それこそ『一晩あたり1組しか受けつけない高級ヴィラ』が瀬戸内のいくつかの場所で開業しており、そこに彼らは宿泊していると香川の伝統的な人士から最近聞いた」と教えてくれた。徐々に夕闇へと包まれいていく島の漁村の光景を見ながら、私はそのことを思い出していた。それもそのはずだろう、この光景を見れば世界中から訪れた方々は魅了されるに違いない、と。
さて、肝心の釣果はというと「坊主」であった。本来ならば夕闇が深まる18時くらいからが波止の先端にある常夜灯を争奪しながらの「エギング・タイム」になるのであろうが、後ろ髪を引かれる思いをしながら倉橋島を後にした。無論、内心では「I shall return…」と心に決めながら。そして対象を昼間にむしろ狙うことが出来るアオリイカあたりに変えようかしら、などと想いつつ。
今、世界は荒れに荒れている。”解き”のフェーズが加速度的に進んでおり、まず金融マーケットでは弊研究所が数か月前より人工知能(AI)を用いた時系列分析に基づきメッセージを繰り返し発してきたとおり、我が国を筆頭とした各国で「金利」が急上昇し始めている。特に我が国において状況はかなり深刻かつ喫緊であり、超長期金利が2パーセントを超え始め、早くも「危険水域」に到達している。「想定内」といえば想定内であるが、このブログの読者の皆さんにおかれてはどうであったであろうか?
他方で日本株はというと、これまた弊研究所が音声レポート等で秋の始めから申し上げてきたとおり、「毎日1000円前後、日経平均が暴落する」といった状況が当たり前の日々が続いている。ヴォラティリティ―あらため「不確実性(uncertainty)」が上がることは、それによって乱高下することを「あらかじめ知っていた者たち」が利益を総取りすることを意味している。米連邦準備制度理事会に子飼いの理事を送り込み、「占領」しつつあるトランプ一派がその一味であることは誰の目にも明らかであろう。そうした中で、我が国ではsoverign debt問題が生まれたばかりの高市早苗政権を早くも圧迫し始めており、俄かに襲い掛かってきた対中問題も含め、「二つの保障(=安全保障、社会保障の二つのsecurity)」が我が国から消し去られそうになっている。これまた、弊研究所がここに来て繰り返し述べて来たとおりなのである。
そうした中でこの週末、太公望を目指す筆者の下に、2人のグローバルな仲間たちから連絡が入った。一人はかのゼレンスキー烏政権の「次世代」を担うリーダーの側近中の側近の一人だ。ちなみに「次世代リーダー」そのものは女性であり、現在、在米ウクライナ大使を務めている。曰く、この側近氏はここに来ての動きを踏まえ、ヴァチカン勢へと飛んだのだという。「戦火の中の不幸なウクライナ勢の子供たちを支援してもらいたい」とヴァチカン勢に依頼するためであったのだというが、ローマ法王レオ14世はそうした彼らと直接面会してくれたのだという。その報せを聞いて筆者は、先の大戦の末期(1945年春)になって、「米OSS(=CIAの前身)を経由して米国勢との間を取り持とうか?」とローマでアプローチしてきたヴァチカン勢からのメッセージを伝達した原田公使(当時)の公電が我が国外交史料館で公開されていることを思い出した。「あの時と同じ」なのである。世界史はフラクタルから成り立っている。
他方でベレム(ブラジル)からの出張を終えて、ソウルへと戻ってきた韓国代表団長を務める我が盟友からも一通のメッセージがLinkedInで入っていた。COP30においての奮闘ぶりが綴られていたが、同時に「今回の現場における一連の出来事を見て、大いに考えさせられた」とも付記されていたのが極めて印象的であった。米国勢は当然やってこない、そして事もあろうに交渉の現場である会場で火災騒ぎ(‼)が生じるなどさんざんな展開に今回のCOP30はなったと聞く。筆者からは折り返し、「また近々会おう」と励ましのメッセージを先ほど送り返しておいた次第である。
夕闇迫る倉橋島のあの「静寂」とグローバル社会全体で高まる「喧噪」という好対照な二つの景色を垣間見つつ、筆者はこう強く想った。「我が国には必ず果たすべき役割がある。しかしその時の”我が国”は今の我が国とは全く違う存在になっていなければならない。それが一体何であるのか、これを突き止めることが今の己の役割である」と。「戦争経済」という禁じ手で何とか国富を取り戻そうという今の高市早苗政権のやり方は早晩破綻する。なぜならば我が国自身が「財政破綻」しかけるからである。だが、「国破れて山河あり」なのであって、正にそこから全てが始まるのである。かつて2度の産業革命とそれに伴う資本主義(帝国主義)の急激な発展に伴う歪の解消を「原爆投下」という未曽有の出来事によって一身に背負わされたこの地・広島において佇んでいるからこそ、筆者は強くそう思うのだ。「あの時と同じやり方をしてはならない。もっと違う、全く次元の違うやり方を己自身の修練によってつかみ取り、そのことをもって我が国を変えていかなければならないのだ」と。
夕闇迫る島の漁村に佇むひと時においてふと、かつて南洲が南海の島に閉じ込められていた時に語った言葉の数々を思い出した。「必ずその時は来る」と。太公望が本当に釣ろうとしているのは、ひょっとしたら目の前の大海を悠然と泳ぐ魚たち、ではないのかもしれない。
2025年11月24日 広島の寓居にて
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 ファウンダー/代表取締役CEO/グローバルAIストラテジスト
原田 武夫記す