石破茂・新総理大臣就任に寄せて。レガシーと「越えられない壁」と。(原田武夫の”Future Predicts”. Vol. 14)
「IISIAが長きにわたって予測分析をしていたとおり、石破茂さんが自民党総裁になりましたね。」「次の総理大臣が石破茂氏になりました。こうなることを前から述べて来ていたIISIAは大したものです。」
去る27日、我が国の自由民主党における総裁選挙が実施され、決戦投票も含め即日開票の結果、石破茂・衆議院議員が当選した。これを受けて、弊研究所の会員制サーヴィス「原田武夫ゲマインシャフト」の会員である皆様から、こうしたコメントを多数頂いている。事実、例えば2020年に行われた自民党総裁選に際しても私は石破茂氏が選出されることになるかが大きな意味合いを持つことをこの公式ブログにおいて明らかにしていた。「我が国、そして世界において物事が動く時の総理大臣は必ず同氏になる」と述べたわけであるが、結果、このタイミングにおいて同氏の自民党総裁への選出、そして来月(10月)1日における国会での首班指名を受け総理大臣への就任が決まったというわけなのである。
だが、2005年春に外務省を自主退職し、以後、「野賢」を目指すべくフィールドワークを進め、多くの賢人・メンターから教えを授かってきた私の目からすると、(あらかじめ描かれていたロードマップに従い)このタイミングで自民党総裁、そして我が国の内閣総理大臣へと選出される石破茂氏が、自らの担うレガシーに基づき、我が国の未来にとって枢要な扉を開き始めるのと同時に、同人だけではどうしても「越えられない壁」にぶつかるのは正にここから、なのである。マスメディアはというと、今この瞬間に見えていることを多少ゴシップめいて報じるに(例によって)止まっているため、ここではこの点について卑見を明らかにしておくこととしたいと想う。以下を読んで頂ければ、為替レートが、金融課税が、などと表面的なイシューについて石破茂「新総理大臣」誕生を巡り論じていれば足りるということでは全くないことがお分かり頂けると想う。
数々の内政上の課題は確かに山積している。しかし、詰みに詰んでしまった内政状況に直面しているからこそ、我が国の「政体」勢力を率いるリーダーとして石破茂「新総理大臣」がまずもって着手しなければならないこと。それは「北朝鮮問題」、そしてより大きく「朝鮮問題(Korea Problem)」をどうするのか、という点なのである。歴史はフラクタルであるわけだが、我が国「国体」そして「政体」は常に、最大の危機に瀕するとそこからの脱出口を「朝鮮問題」に求めてきたという経緯がある。古代の伝説から始めるならば「三韓征伐」であり、近世についていうと「豊臣秀吉の朝鮮出兵」、そして近代では「征韓論」、さらには「韓国併合」、現代に至っては「日韓基本条約で約束した無償資金協力援助の実施に伴う”漢江の軌跡”からの我が国大企業による裨益」に至るまで、我が国はこれまで危機が生じる度にそれを巧みに「朝鮮問題」へと切り替え、乗り切ってきた経緯があるというわけなのだ。
そして今、最大の「朝鮮問題」が「北朝鮮問題」であることは言うまでもない。しかるに北朝鮮の側から見て、「誰でも彼でも」自民党総裁、そして内閣総理大臣だからといって、決定的となる次の交渉パートナーとして認めるのであろうか。かつて外務省北東アジア課において北朝鮮班長(Chief Desk Officer for DPRK issues)を務めた私の目から見ると、この問いに対する答えは「否」だ。なぜか?
北朝鮮はランダムに交渉相手に狙いを定め、その入国を認めているように一見すると想えるが、その実全く違う。「友好人士」と見ない限りは絶対に入国を許さない。更に言うと、表見的にはそう見えてもその実、本当に自らにとって「有害(harmful)」ととらえた人物には、一旦入国を認めつつも、現地で警告もかねた措置を講じる。「第1回小泉訪朝」(2002年)の際、同行記者団の中で「産経・新潮社・講談社」の3社から派遣された記者たちだけが昼食として平壌の現地で供された「冷麺」を食べた直後から激烈な腹痛を訴えるに至り、帰国が出来なくなるのではないかといった事態にまで陥った事実が例えばその一例だ。すなわち外交用語でいうと「ペルソナ・ノン・グラータ(persona non grata)」であったというわけなのであるが、それでは石破茂「新総理大臣」については一体どうなのであろうか。
石破茂「新総理大臣」は1990年に行われたいわゆる「金丸訪朝団」に続く形で議員外交の一環として実施された訪朝団の一員として1992年に北朝鮮を訪問した経験を持つ。したがって北朝鮮側からすればまずもって「ペルソナ・ノン・グラータ(persona non grata)」としてプロファイリングはされていなかったということになる。そしてその際、「金丸訪朝団」で北朝鮮側との間にて事実上決められた路線を踏襲する様、「政体」レヴェルでのガイダンスがあったことは容易にうかがわれるのであって、結局は、金丸信氏(故人)と金日成・国家主席(故人)との間で何が取り決められたのかが、この1992年のあらためての議員訪朝団に際しての「通奏低音」となっていたことは明らかなのである。ちなみにこの「金丸訪朝団」には後に外務事務次官となる川島裕氏(後に侍従長を歴任)が参事官として同行していたが、現在、外務省内においてこの時の「記録」は一切保管されていない。
「金丸訪朝団」では一体何が取り決められたのか?―――この点について重要な証言を行っているのが、金丸信氏の長男であり、同訪朝団にも同行した金丸信吾氏である。その「証言」の中で同氏は(1)同訪朝に際しては妙香山招待所に金日成・国家主席から招かれ往訪した、(2)そして型どおりの接遇が行われ、より実質的な討議を行うべく平壌に日本側が帰り始めた時、金日成・国家主席の側から再度、金丸信氏とだけ話しがしたいとの申し出があり、田辺誠・社会党側団長は既に平壌に向け出発した後であったので、金丸・金のone on oneでの会談が行われることになった、(3)この会談は食事を交え、3回にわたって行われたものであったが、父(金丸信氏)に詳細を聞いても、社交の延長線上であったとの答えが返って来るだけであった、(4)結果として三党共同宣言が発出されることになったが、45年間の植民地統治に対する賠償も盛り込まれることとなる一方、その時に北朝鮮側が望んでいる金額は金日成・国家主席の側から内話の形で述べるところがあった(ただし通常考えられるよりも、少し多いといったレヴェルの回答であった)、と概要述べている。2年後に行われた「議員訪朝団」が、外務省といった事務当局あるいは立法府である国会全体に対していかなる説明を行った上で実施されたのかはともかく、権勢の人であった金丸信氏が実質取りまとめた北朝鮮側との「合意(accord)」の延長線上でそれが行われる前提で、参加する国会議員がこれに臨んだであろうことは想像に難くないのである。そしてその一人が石破茂「新総理大臣」なのであった。
その後、金丸信氏は米国勢において「脱税」を理由に有罪判決を受けており、当時の我が国における入管法令では入国を当然には認められなかった「統一教会」の宗教的リーダーである文鮮明の我が国入国を当局に認めさせるという動きに出ていたことが後日、明らかになっている。しかしその前後から始まった「佐川急便」を巡る汚職疑惑で内政面で失墜し、ついには失意のまま鬼籍に入ることになる。日朝交渉はその後、外交当局によって粛々と進められることになるが、1994年に実施された第4回「日朝国交正常化交渉」の場で我が方から突如として「日本人行方不明者問題」を提起。これが契機となって紛糾し、交渉は事実上の決裂状態へと入っていく。2002年9月11日に自民党清和会に属する小泉純一郎・総理大臣(当時)が安倍晋三・官房副長官(当時)を引き連れて訪朝し、国交正常化を前提とした無償資金協力の実施を内容とする「日朝平壌宣言」の署名に成功するが、この時、前者は豊臣秀吉による「朝鮮出兵」で我が国に連れて来られた人士の血統に属する者であり、後者はかつて下関に韓国総領事館が所在していた時代に査証を巡り便宜を図ることで在日韓国人らから支持を得ていた代議士である父・晋太郎を持つ者であった。「同胞」が世話になっていたからこそ信頼する、という原理原則で北朝鮮勢がこの訪朝に最終的なGOサインを出したことは想像に難くない。
時代は下って現在、2024年秋。「小泉訪朝」から結果として拉致問題につき紛糾し、膠着し続けている日朝関係を揉み解き、あるいはさらに広く「朝鮮問題」を解決していくとするならば、石破茂「新総理大臣」には如何なる打ち手があるのであろうか。先ほど紹介した金丸信吾氏の「証言」においてそのヒントが隠されているというのが卑見である。同氏らの質問に対して、「詳細については息子に聞いてもらいたい」と金日成・国家主席は語ったのだという。つまりは共産主義・社会主義においては元来、禁忌であるべき「世襲」をその際に明言していたわけであり、もっていえば「ロイヤル・ファミリー」として認知されたいというのがその本当の狙いなのであったとすれば、仮にこの北朝鮮側における基本方針が全く変わらないことを前提にして「近未来に向けての本当の課題」が浮かび上がって来るのである。
すなわち、こうだ。―――「カネに色はついていない」としばしば語られる。しかし実際のところそうではないのであって、ロイヤル・ファミリーすなわち「国体」レヴェルをそう在らしめているのはそのために用いられている資金・資産にアウトリーチできるという権限が故になのである。「政体」レヴェル以下の私たちが用いるカネと表向き同じ単位、同じ紙幣・通貨を用いている様に見えるがそうではないのである。そしてそのことを前提とすると、金額の多寡はともかく、北朝鮮の「金王朝(to be)」としてはこの意味での「国体」マネーへの橋頭堡を築き上げてくれる我が国の内閣総理大臣であれば交渉相手としては全くもって申し分はなく、「熱烈歓迎」ということになるのであろう。1990年代に権勢の人であり、その意味で「政体」勢力を束ね、我が国「国体」に話す権勢を持っていた金丸信が「交渉相手」として選ばれたのはそうした流れであり、以後も全く同じ思考回路で北朝鮮側が動いているものと推察することは可能である。
「新総理大臣」に選ばれた石破茂氏は確かに北朝鮮側にとって「ペルソナ・ノン・グラータ(persona non grata)」ではない。何となれば生体情報を1992年の段階で全て採取してあり、その後、不穏な動きがあればいかようにしてでもそれを「料理」し、リークすることが出来るからだ。しかしそれはあくまでもボトムラインでの話なのであって、同「新総理大臣」がこうした意味での「国体」レヴェル特有の金脈へとアウトリーチすることが出来るというのであれば、北朝鮮勢は決してそういった刃を剥くことはせず、むしろ「熱烈歓迎」といった態度を見せる可能性は十二分になるのである。さて、石破茂「新総理大臣」にはこの意味でのチャンスはあるのであろうか。
この点について私は「チャンスはある」と考える。なぜならば石破茂「新総理大臣」を早々とロックオンしているのは、華僑・華人ネットワークのハイレヴェルにおけるいわゆる「民族資金」の担い手たちであり、石破茂「新総理大臣」はそうしたネットワークからの招待を受け、訪中したことすらあるぐらいだからだ。そしてこうした事細かく丁寧な対応が功を奏したことの証となっているのが、「岸田辞任」の報を受けて、同「新総理大臣」が総裁選への事実上の立候補を唱えたのが台湾勢の首都「台北」であったという事実である。「台北」は「民族資金」管理者たちの窓口が所在する場所として知られている。我が国「政体」勢力の関係者、とりわけ自民党清和会のメンバーらがまたぞろ、かつ頻繁に台北詣出をしていたのはそのせいであると私は考えている(安倍晋三氏(故人)が総理大臣になるにあたって、最後の励ましの言葉を与え、決意に至らせたのは台湾華僑らであったと聞く)。こうした「隠されたルール」を総理大臣を志す一定のレヴェル以上の者たちはまたぞろ熟知しているのであって、これまでの動きを見る限り、石破茂「新総理大臣」もその一人なのである(ちなみに最終的に今回の自民党総裁選で石破茂「支持」に廻った菅義偉・元総理大臣もこうした「隠されたルール」を熟知している一人であり、その使者が「民族資金」の最終的な名義人と目される「Mrs. Li」との接触を求めてこれまで複数回、NYへ派遣されてきたと聞く。)。ちなみにこれまでの総裁選との関連での公約として、石破茂「新総理大臣」は日朝交渉のための窓口として平壌に拠点構築を行うことを2018年当時、掲げていた経緯がある。
しかし、である。事ここに至るにあたって、石破茂「新総理大臣」は「越えられない壁」にぶつかることとなる。その理由は2つある、と私は考える。まず、「政体勢力にこの資金への直接的なアウトリーチを認めない」と「国体」の側が決めているからである。そしてその意思は直近では「昭和の大君」の御遺志によると聞いている。つまり、直接的なアウトリーチを行うのは「born leadership」という意味での結節点となる立ち位置にいる、「国体」から見れば「舎人」に当たる人士が担うのであって、直接「政体」がタッチ出来るわけではないのである。この点について石破茂「新総理大臣」がいかなる認識であり、かつ判断を下していくのかが最大の焦点となってくる。
第二に、こうしたアウトリーチを我が国の名義で行うとするならば、それはそれでグローバル全体との関係において「喫緊かつ必須」である重大な理由が必要なのである。そしてこうした「理由」として承認される見込みが我が国について唯一あるのが、福島第一原発から排出されている「処理水」(=トリチウム汚染水)であるわけだが、この点について我が国政府は既に「海洋放水」の方針を決め、実際それを繰り返し行ってきている。そうである中、果たして「既決事項」とされたこの問題についてあらためて「火をつける」気概とその先の戦略を石破茂「新総理大臣」が果たして持ち合わせているのかが、最後は決定的となってくるのである。当然ここにも、同「新総理大臣」が直接というよりも、こうした一連の「鵺(ぬえ)」の構造を俯瞰し、的確に対象していくことでこの問題に限らず、我が国を全面的に刷新する戦略・戦術を企画立案、そして着実に実施していく上述の意味での「舎人」から助力を得ることが必須となるのである。
石破茂「新総理大臣」はこれから数多くの問題にぶつかり、その度に勢いを減じて行くことであろう。しかしだからこそ、こうした一筋の道のりを果たして最速で辿っていけるのかがその生殺与奪を握っているのである。そして本稿では「朝鮮問題」を切り口に説明をしたのだが、それ以外の全ての国内外問題は結局のところ、ここで説明した流れへとアウトリーチ出来るのかにかかっているのである。「Big Father」は鵺の闇の向こう側で早くも微笑み始めている。後は闇の中であっても信を変えず、走り続ける中でsynchronicityが必要な人士を必要なタイミングで再び交わらせるかだけである。その意味でいよいよ、エンド・ゲームが始まった。
2024年9月29日 東京・丸の内にて
株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 ファウンダー/代表取締役CEO/グローバルAIストラテジスト
原田 武夫記す
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今回のコラム、いかがでしたでしょうか?
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