1. HOME
  2. ブログ
  3. 「国連SDGsとパックス・ジャポニカ」Vol. 7 ~ポストSDGsに求められている教育アプローチとは~

「国連SDGsとパックス・ジャポニカ」Vol. 7 ~ポストSDGsに求められている教育アプローチとは~

2015年9月、国連で採択されたSDGsは、「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを目標に、包括性や公正さが強調された。そこには、現在の私たちの生活が将来世代の発展の可能性を脅かしてはならないとする「世代間の公正」と、同時代の現代社会に生きる人びとの間に厳然として存在する格差を是正するべきだとする「世代内の公正」の2つが示されている。

教育に関わる領域も、目標4に掲げられたように、公正な社会を築くための不可欠な達成目標として認識されている。2021年から発生した新型コロナウイルスの世界的拡大は、グローバル化を改めて痛感するイヴェントであった。感染拡大の防止にあたって、我が国を含む多くの国では、学校を一斉に休校する措置が取られ、このことは、格差に関わる重要な問題を提起した。なぜなら、とりわけ途上国では学校に行けないことで、家庭環境が、子どもの学習環境を直接的に左右するためである。有事において、既存の格差が浮き彫りになった状況といえる。

<図:アフリカ諸国で猛威を振るうコロナウイルス>

(参照:朝日デジタル

教育に関わる資源の配分は、教育の質保証や平等性担保を支える重要な要素であり、そのシステムは、教育制度・政策の中でもその根幹に位置づけられる。実際の配分のシステムは、平等性の捉え方を始め、何を望ましい状態と考えるのかという規範に依存して設計されるため、国や地域によって一様ではないが、少なくとも、格差を拡大したり、再生産したりすることを意図して設計される訳ではない。他方で現実的には、学校の教育制度が既存の社会構造の再生産に寄与している側面もあり、凡庸な格差社会とされる我が国も、結果からみると決してその例外ではない[Gorard, 24]。こうして格差を是正するために教育を推進しているにも関わらず、“公正な教育”を推進することで益々社会の格差を拡大させているパラドックス(矛盾)を受け、人類全体として今の教育に対するアプローチに問題はないのか。これまでのSDGs採択の経緯を紹介した上で、ポストSDGsに向けて何が求められているのかを以下の通り論じる。

<図:2000年 国連ミレニアム宣言>

(参照:外務省HP

まず周知の通り、SDGs は2000年の国連ミレニアム宣言に基づいて策定されたMDGsの後継として定められたものである。2015年を主な目標達成年とした MDGs には、 6つの目標が設定され、そのうち教育に関わるのは、目標2の「初等教育の完全普及の達成」、および、目標3の「ジェンダー平等推進と女性の地位向上」であった。目標3のターゲットには、男女格差の解消が挙げられた。しかし、格差の解消について、男女同数をもって達成とするなど量的な平等性に偏重し、「格差=ジェンダー」という観点にのみ焦点が当てられてきた。そこでSDGs では、より幅広い課題が包括され教育に関して明記が成された。ジェンダーだけでなく、たとえば5つ目のターゲットには、「障害者」、「先住民」などのジェンダー以外の要素も具体的に触れられている[Kelly, 24]。

<図:パリに拠点を構えるOECD本部>

(参照:ethics

くわえて、MDGs では、「equality」という言葉が多用されていたのに対し、SDGs では、「equity」という言葉が強調されるようになったという特徴もみられる。従って 経済開発協力機構(OECD) など国際機関は、「公正(equity)」を、「国レベルの教育政策におけるグループ間の違いへの配慮という観点」から捉えており、そこには「困難な状況にある人びと(vulnerable groups)」や「疎外された人びと(marginalized population)」などと呼称される諸集団を、十分に包摂しようとする意図がある。ただし、平等と公正の捉え方については、国際機関など各アクターによってそれぞれ異なり統一されているとはいえない。このような系譜を辿ると、教育格差を縮小させようと取組みが成されているものの、格差については各方面から統一されず、概念としての位置づけが一様ではないといえる[Kelly, 24]。

こうした一元化されていない目標に向けて、SDGsのその先である次のフェーズにおいてはどういう教育へのアプローチが求められているのだろうか。例えば各国政府において様々なアプローチが試みられてきた。例えば、英国勢では教育格差を是正するため、経済環境に応じて生徒に支援を行う政策を教育省は実施している。ただ、本政策においては格差縮小へ繋がったというデータは未だに無く今後の継続については議論されている。

 

<図:英国政府の教育政策における概要>

(参照:英国教育省HP

政策レベルで解決できない今、どうすれば良いのか。一つの教育を巡る突破口を握るカギは、一般市民レベルにおける活動にあると考えている。例えば、弊研究所では創業以来、主に大学生を対象として教育社会学で求められている社会化(社会に適用する能力)と選抜・配分機能(リーダーを育てる)という役割を担っている。社会化においては教育を受ける側が社会に適応する能力を育むことをいう。後者ではその中でもリーダーを育てることを指す。弊研究所では、これからの社会に求められている“情報リテラシー”を育むと同時に、その学生らが社会に出て活躍できるようプロジェクトを進めている。

<2023年開催の軽井沢サマースクール>

(参照:IISIA撮影)

近年とりわけ政府の債務がニュースで取り上げられるなど、大きな政府の役割は限界を迎えていると考えている。だからこそ、一般市民レベルにおける教育の在り方が益々普及し、教育政策とのシナジー効果を生むことがポストSDGsにおいては議論されるべきであろう。

 

コーポレート・プランニング・グループ 岩崎州吾 拝

 

(参考文献)

[Gorard, 24] Stephen Gorard: The difficulties of judging what difference the Pupil Premium has made to school intakes and outcomes in England (2024)

[Kelly, 24]Comfort, Kelly. “Chapter Introduction: A Global Humanities Approach to the United Nations’ Sustainable Development Goals (SDGs) and Education for Sustainable Development (ESD).” A Global Humanities Approach to the United Nations’ Sustainable Development Goals. Taylor & Francis, 2024.

[貞広, 23] 貞広斎子. “社会経済的格差縮小を目指す。教育資源配分とその政策規範―英国 Pupil Premium に着目して―.” 日本教育政策学会年報 第30号

ぜひアンケートにてご感想お聞かせください。
bit.ly/3USepjk

メルマガ登録はこちら
https://bit.ly/3VaquR8