UAEの宇宙開発を支える我が国のねらいは(IISIA研究員レポート Vol.2)
先月(7月)20日午前6時58分、我が国の宇宙研究開発機構(JAXA)と三菱重工業はアラブ首長国連邦(UAE)勢の火星探査機「アマル」を載せたH2Aロケット42号機を、鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げた。探査機は約1時間後、予定の軌道に投入され打ち上げは成功。アラブ首長国連邦(UAE)勢が惑星間飛行する探査機を飛ばすのは初めてであった。
(図表 UAEの火星探査計画 イメージ図)
(出典:UAE SPACE AGENCY)
UAE勢は宇宙開発のノウハウは全くなく米国勢や本邦関連企業が開発に協力した末の打ち上げ成功だったのである。そもそもUAE勢の国家的プロジェクトとして火星探査計画は立案されている。背景にあるのは中東の経済のハブとしての存在感を更に高めることにあった。オイル・マネーで潤う中東産油国としての存在感に加えて宇宙開発という柱を国家として打ち立てることを選んだのである。
2014年7月。ここを境にUAE勢のプロジェクトは具体的に動き出す。中東勢としては初となる計画で2021年までに火星へ無人探査機を送るというもので、司令塔としての国家機関・宇宙庁も設立された。
UAE勢の宇宙開発においてカギとなるのは実は我が国である。米国勢と我が国が実際の開発計画の具体案を提案しているのである。
(図表 UAEと我が国の開発相関図)
現在、地球周回軌道に関する技術では通信機器、カメラや温度計や気圧計のような各種センサーが活躍する領域であり小型化・高性能化は必然である。その意味でこれら衛星も超小型化していくのが当然の流れだ。しかし仮に火星に都市を建設する場合で重要となるのは「物流」であり「旅客」であってそこで使われるの「トラック」であり「バス」である。
UAEが火星を目指すにあたっては、このあたりの輸送系を再検討する必要があるだろう。しかもこの場合の「輸送系」とは地球から宇宙への輸送系(ロケット)ではなく、地球と月の間の軌道から火星軌道という軌道間の高度な輸送能力が必要になる分野である。地球からH2Bという高推力ロケットで打ち上げられる我が国の「こうのとり」は宇宙空間で放出され軌道間輸送船としての能力を発揮する。これらの技術・ノウハウはUAE勢が進めようとしている火星開発に貢献することは間違いないだろう。
我が国のH2Aロケット打ち上げの成功は連続34回、成功率は97.5パーセントとなっているように、我が国での打ち上げは“立派なビジネス”になっていると言えよう。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
羽富 宏文 記す