福岡・国際金融都市構想までのカウントダウンが始まる!?「後背地」が紡ぐ大革新 (IISIA研究員レポート Vol.69)
現在、東京、大阪、福岡において国際金融都市構想が進められている。その中でも、他の2都市に比べ、九州という中国勢に一番近い距離に位置している福岡は、アジアにおける「金融ハブ」の役割を果たす上でも多くの可能性を秘めている。しかしながら、他の東京や大阪と同様に課題もある上、福岡に関しては地方都市ということから、今後の金融都市構想の実現可能性はいかなるものなのか。
まず始めに、現在においてまだまだ本格的な金融機関の誘致とまではいかないものの、現地の関係者によると、スタートアップ企業による街の活性化が根付きつつあるという。特に天神と大名はスタートアップ企業の活性化の場となっている。例えば、天神地区では「天神ビッグバン」というプロジェクトを推進しており、以前は空港に近いという理由で建物の高さ制限があったが、今では高さ制限を無くした規制緩和地域となっている。
(図表:天神ビッグバンエリア内の主なプロジェクト)
(出典:福岡市)
次に大名という地域では旧大名小学校の跡地を使い、官民共働型スタートアップ支援施設「Fukuoka Growth Next」が誕生し、業務に集中できる多様なタイプのオフィスや、コミュニティースペースをスタートアップ企業に提供している。
(図表:スタートアップ支援施設「FUKUOKA growth next」)
(出典:PARTNER)
入居者数でいうと、コワーキングスペースの数は2019年5月の約60社から2021年5月には104社に増えている。スタートアップの業種も下記の通り、幅広い業界からスタートアップ企業が福岡で活動していることがわかる。
(図表:多種多様な業態のスタートアップ企業)
(出典:PR TIMES)
こうしたインフラ整備が進む一方、現場の企業からは福岡に一つの拠点置くというよりは、東京と福岡にそれぞれ拠点を置く戦略や福岡で実績を積んでから東京へ進出する戦略を計画する企業もある。この意味で、福岡の国際金融都市構想は文字通り「玄関口」としての機能を持ちつつある。
では、福岡が玄関口として機能するには何が重要であろうか。今後の国際金融都市構想の行方を左右する重要なファクターは「後背地」、すなわち北九州市である。北九州市は鉄鋼が有名であったが、中国勢による過剰生産により世界的な鉄鋼デフレが発生した中で、新型コロナウィルスによる需要の落ち込みも相まって我が国は後れを取っていた(参考)。
しかしながら、我が国の鉄鋼産業を取り巻く環境も変化しつつある。中国勢では「脱炭素」の潮流の中で石炭が使えず、鉄鉱石を採掘できずにおり、減産の方向へと推移している。また韓国勢も「脱炭素」に加え、政治的混乱ゆえに鉄鉱石でメインのプレーヤーになれずにおり、結果として現在の状況は我が国にとって追い風となりつつある(参考)。
加えて、福岡においては行政のトップが変わるという政治的力学の変化も作用している。去る2021年11月2日、北橋健治北九州市市長と溝があったとされる小川洋前福岡県知事が亡くなられ、新しく服部誠太郎福岡県知事が誕生している(参考)。
服部知事の誕生により、福岡県と北九州市長との関係において転換期を迎えつつある。例えば、去る16日には北九州空港について両者は意見交換し協力を確認し、非公開の会談の下、新型コロナ対策や日本製鉄が手掛ける洋上風力発電産業の拠点化を始め約10項目について協議した(参考)。
(図表:取材に応じる服部誠太郎知事(左)と北九州市の北橋健治市長)
(出典:西日本新聞)
こうした取り巻く環境が変化する一方、日本製鉄の業績も上向き、2022年3月期の連結最終損益が3期ぶりの黒字となり、黒字額は3700億円と大幅回復する見通しとなっている(参考)。
今後、福岡市の目指すアジアの国際金融ハブとして存在していくには、産業の集積地、物流の拠点としての「後背地」が重要となってくることは上述の通りであり、政治レヴェルでのインフラ構築の動きと、国際情勢の変化、それから日本製鉄の業績など、国際金融都市構想に向けて条件は整いつつある。まだまだ中国の政策の変化など外部的要因リスクは拭えないが、「後背地」としての産業の集積化への潮流と産業を昨今の取り巻く環境の変化を勘案すると、今後の福岡における国際金融都市構想に期待が集まり、益々注視すべき展開になるのではないだろうか。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
岩崎 州吾 記す
前回のコラム:2022年米国勢中間選挙イヤー幕開け!~選挙の行方と米国株への影響を予測する~選挙の行方と米国株への影響を予測する〜(IISIA研究員レポート Vol.68)
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