知られざる「世界最強」の日の丸潜水艦の世界(IISIA研究員レポート Vol.12)
紀伊半島の東、三重県南部に位置する九鬼町。織田側の水軍としてその名を全国に轟かせた九鬼水軍発祥の地として知られている。大坂冬の陣においてこの九鬼水軍が盲船と呼ばれる船を使用したという記録がある。全体を木や竹で囲み上から空気を取り込んで水面すれすれを走り大砲や鉄砲の装備を備えていた。これが我が国における潜水艦の始まりとされている。
(図表: 九鬼水軍の陣容)
(出典:Wikipedia)
去る10月14日海上自衛隊の最新鋭潜水艦「たいげい」の進水式が三菱重工株式会社の神戸造船所で行われた(参考)。高性能のリチウムイオン電池を搭載し一度の充電で長期間の航海ができる。世界で初めてリチウムイオン蓄電池を採用した「そうりゅう」の次世代になる。
原子力によらない通常動力型潜水艦として最新技術をふんだんに使った世界トップレヴェルの我が国の潜水艦。その1つに「静音性」が挙げられる。潜水艦は敵に見つからないことが絶対条件だ。そして見つからないために鍵となるのが「静音性」である。
他方で我が国も原子力潜水艦を造るべきだとする意見もある(参考)。リチウムイオン電池を搭載したディーゼル電気推進方式の潜水艦は確かに静音性に卓越しているが連続潜水航続の点で艦の秘匿性に課題があるというのがその理由である。
(図表: 16世紀のイスラム世界のガラスの潜水船の絵)
(出典:Wikipedia)
潜水艦が求めるもう1つの技術革新がどのように外部とコミュニケーションを取るかである。当然のことながら最も単純な答えは海の上に出てアンテナを使えばよい。しかし地上にいるとき潜水艦の脆弱性は最も高くなる。
海中での通信技術の進化を目指し研究が進められている。今年(2020年)6月に水中でのインターネットの無線接続を可能にするLEDとレーザーを用いたシステム(「Aqua-Fi」)がサウジアラビア勢のキング・アブドゥッラー科学技術大学(KAUST)から発表された(参考)。実験では防水スマートフォンと青色と緑色のレーザーを使うことで2.11Mbpsの速度でSkype通話を行うことに成功した。
また潜水艦(水中)から航空機(上空)へ直接「無線通信」する技術も模索されている。潜水艦は超長波といった帯域の電波と音波による通信を利用している。しかし水中で放射された音波は水面でほとんど反射してしまい航空機との通信には使えない。MITは去る2018年に水中と空中の通信を可能にする技術TARF(Translational Acoustic-RF communication)を発表している(参考)。考案したのは水中から発信された音波信号によって振動する水面を空中のレーダーでとらえ、その振動を直接デコードする手法だ。
上記のいずれも実用化はまだ先の話になる。
来る11月にインド洋で行われる日米印の合同軍事演習「マラバール」にオーストラリア勢が参加する。中国との緊張が高まる中4カ国の軍事的関係強化を図る(参考)。国内外の情勢がいよいよ激しく動き始めようとしている。今後さらに増すであろう潜水艦の技術革新の動きにも注視していきたい。
グローバル・インテリジェンス・ユニット Senior Analyst
二宮美樹 記す