従来型VCへの強烈な違和感と私たちIISIAの役割 (連載「パックス・ジャポニカへの道」) - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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従来型VCへの強烈な違和感と私たちIISIAの役割 (連載「パックス・ジャポニカへの道」)

このコラムでも何度か書いて来ているが、私たちIISIAは今、「地域グローバル経営者・起業塾」というプロジェクトを全国で展開し始めている。まずはさる4月より仙台にて開催している「東北グローバル経営者・起業塾 Season1」がその初動企画であり、今後、東北では秋田、さらには四国では松山、さらには九州において福岡(北九州)で順次開催していく予定である。加えて鹿児島、大阪、名古屋、さらには札幌なども視野に入れている。

率直に言うとその準備プロセスはそうそう容易なものではない。まず「何をしたいのか」とそれぞれの地元の経済人士に言われる。もちろん私たちには十分な意図と戦略があり、それを御説明するわけだが、この場を借りてこのことについて読者の皆様にも説明しておきたいと思う。

「実質金利をマイナス化させることで“カネを借りないリスク”を創り出し、イノヴェーションを推し進め、もって現下の経済的な苦境から脱出する」

これが米欧勢の統治エリート、そしてそのツールである中央銀行家たちの戦略「PLAN A」であることは明らかだ。そのために一方では名目金利のレヴェルでマイナス金利策が導入され、他方でインフレを本格展開させるべく、量的緩和がこれでもかというほど行われてきた。「名目金利―インフレ率=実質金利」だからだ。

こうしたトレンドの恩恵を最も受けているのがVC業界、いわゆる「ヴェンチャー・キャピタル業界」なのである。ヴェンチャー・キャピタルとは要するに自己資金、あるいは他者から借り受けたマネーをもってファンドを形成し、「これは」と思う事業案件に投資をし、2~5年以内にこれを新規株式公開(IPO)、あるいは大企業による買収(M&A)に持ち込むことにより、キャピタル・ゲインを得ることを意味している。今、我が国の金融セクター、さらには事業会社においてすら現金(キャッシュ)がだぶついている。その一方でとりわけ大企業においては官僚制化がはなはだしく、自らイノヴェーションを起こす力など全くないのである。他方で金融セクター、とりわけ銀行はこれまで「銀行法の範囲内での融資業務に専念するように」と当局に言われ続けてきたため、ハンズオン、すなわち何から何まで面倒を見ることで新規事業案件を大きく育てると言う能力をもった行員を育成する努力を怠ってきた。そのため、これら両者はいずれもヴェンチャー・キャピタリストなる職業家集団に対して資金を提供し、ファンドを創り出させ、そこから事業案件への投資を行わせると言う動きに出ているのである。

「良い話ではないか。餅は餅屋ということであれば、ヴェンチャー・キャピタルに任せることで全体にとっての最適解が出るはずだ」そう読者は想ってしまうかもしれない。だが、話はそうそう簡単ではないのである。

ヴェンチャー・キャピタルにとって肝なのは、あらかじめ算定(推定)した当該事業案件の2~5年後の「企業価値」どおりにそれを持って行き、出来れば可能な限り素早くこれを実現することでマーケットへと手持ちの株式を極力高値で売り払うことに他ならない。つまり「一定の収益を上げるのであれば、どれだけ短い間でそれを実現出来るか」という意味での期間効率こそそこでは命ということになるわけであり、とにかく「早く、早く!」ということになるのである。

他方でヴェンチャー・キャピタルにとっての基準がこうした形で余りにも明確であるため、たとえ一端は投資した事業案件であっても、この基準から外れるならば「失敗」ということに容赦なくなっていくのである。ヴェンチャー・キャピタリストたちと会話をすると「新規事業案件は失敗するのが当たり前。うまく行くのはせいぜいのところ2~3割にとどまるのであって、残りは早々に捨て去り、“忘れる”しかない」といったことをよく耳にする。

これだけの要求基準を、とりわけ企業価値向上という観点で満たすためにはスケール(事業拡大)の早い案件に勢いマネーは集中することになる。そこで「海の向こう」のシリコン・ヴァレー流のやり方が登場することになる。つまり半導体の製品開発がもたらす「指数関数的な発展法則」を利用し、倍々ゲーム、いや100倍、1000倍ゲームを実現しようというのである。そのためヴェンチャー・キャピタリストたちのターゲットには必ず半導体、あるいはITが含まれていなければならないことになる。昨今、我が国においても世上を騒がせているスタートアップ企業は正にこの観点から注目されているのだ。

ではこんな企業についてはどうだろうか。―――開発しているのは自動車の熱交換装置。簡単にいうとエンジンを動かすことで発生する熱を発散させないと車が傷んでしまうのである。そこでそのために冷気との熱交換装置が必要なのであるが、この作用を効率的に行うことで自動車はいくらでも性能が良くなるのである。そして7年越しの開発でついにその全く新しいタイプの熱交換装置の開発に成功したヴェンチャー企業が現れた。ヒントとなったのは何と「100円ライターの発火装置」なのだという。現在、国内外の大手自動車メーカーから続々と発注が舞い込んできており、各社共に数万点のオーダーになることは目に見えているため、まずはその生産費用としての資金が必要になっている。

ヴェンチャー・キャピタリストは一般に、ヴェンチャー企業を4つのフェーズに分けている。最初のフェーズはそれこそ「事業アイデア」のみのフェーズだ。この段階では製品・サーヴィスすらまともに形になっていないことが多い。次にようやく製品・サーヴィスが出来上がった段階が到来する。しかしまだマーケットへのアプローチが甘い。売れるかどうか分からないのである。そして第3のフェーズがようやくこれら製品・サーヴィスが売れ始めた段階である。ここに至ってようやく、当該企業が類似企業との比較においてどれだけの成長率を見込めるのかが明らかになるため、ヴェンチャー・キャピタルお得意の「将来の企業価値算定」が可能となり、投資が行われることになる。しかしヴェンチャー企業の側はとにかくヒト・カネ・生産設備が足りない。とりわけカネが足りなくなるのは常であり、「ピッチ」と呼ばれる次の資金調達が行われることになる。そして徐々に芽が出て来ると、投資を行うヴェンチャー・キャピタルの規模も大きくなり、かつこれらが合同に投資をし始めるのである。いわゆる「クラブ・ディール」である。そしていよいよ「新規株式公開(IPO)」あるいは「大企業による事業買収(M&A)」が見えてくると、大手金融機関系のヴェンチャー・キャピタルが登場するのである。そしてここに至ってたとえば具体的な上場準備へと作業が移り、ヴェンチャー・キャピタリストはめでたく手持ちの株式を売り抜け、「EXIT」ということになってくる。

しかし、先ほどの「自動車のための熱交換装置を開発しているヴェンチャー企業」についてはどうであろうか。聞くところによると、創業者はかなり癖のある人物であり、ステークホルダーを増やすだけの新規株式公開(IPO)や、あるいは虎の子の技術をみすみす売ることになるM&Aには大反対なのだという。そうなるとヴェンチャー・キャピタリストにとっての「ゴール」が描けない。したがって、彼らが持っているリスク・マネーは永遠にこのヴェンチャー企業の手元には廻ってこないことになる。

そのため勢い、「銀行融資に頼るしかない」ということに話はたいがいなっていく。しかし事業開発者がいかにバラ色の事業計画書を書いたところで、現在の銀行実務において見られるのは結局のところ、当該ヴェンチャー企業経営者が所有している個人資産だけなのだ。そのため、そのようなものをそもそも持っていない若いヴェンチャー企業経営者、あるいは事業開発の途中で全てをキャッシュとして使ってしまったヴェンチャー企業経営者は銀行の「お客様」にはならず、当然、融資を受けることが出来ないのである。「これは絶対に良いモノですから。必ず売れますから」といっても銀行マンたちは絶対に首を振ることはない。信金信組ならば融資基準が多少なりとも緩いかもしれないが、最後は信用保証協会が何というのかだけを見ている。そしてそこで見られるのは結局同じことなのである。

そこでヴェンチャー企業経営者たちはあの手この手を使って金策を練ることになる。その際最も使われるのが件の「バラ色のストーリー」を喧伝しては、地場の小金持ちに対して「儲け話」として自らを演出し、資金をひねり出すというやり方なのである。だが、事業案件が技術開発案件(R&D)」であればあるほど、最後の最後に投資分が回収出来るのは下手をすると十年後、二十年後かもしれないのである。そのため、最初はヴェンチャー企業経営者兼最高技術責任者(CTO)が語る熱い情熱にほだされて資金提供をした小金持ちも、次第にしびれを切らし、「いい加減、俺のカネを返せ」「詐欺だ!」と叫び始めることになる。こうした中でヴェンチャー企業経営者兼最高技術責任者(CTO)はリーガルな案件までをも抱え込むようになり、もはや経営どころではなくなってしまうのである。現に私はこの目でこうした悲劇に巻き込まれているヴェンチャー企業経営者たちを我が国で何人も見てきた。それがこの熱交換を巡る最先端技術を巡って、我が国の自動車セクターにおいて多大な雇用を創出することが目に見えていても、事態は全く変わらない。ただひたすら”放置”されているのだ。

「何かがおかしい」のである。マネーは今、量的緩和によって金融機関で、さらには円安誘導で設けた輸出産業を中心に事業会社で、それぞれだぶついているはずなのである。しかし本当に意味あるイノヴェーションを行い、我が国全体にとって、すなわち私たち日本勢の将来的な「食い扶持」になるかもしれない技術の開発を日々粛々と行っている御仁たちには永遠にそのだぶつくマネーが廻って来ることはないのである。それがたとえ将来性に富んでいたとしても、「半導体」「IT」が絡まない以上、従来型のVC(ヴェンチャー・キャピタル)は歯牙にもかけない。他方で金融機関はそもそも相手にせず、最後は地場の篤志家たちによっても「詐欺師」扱いされてしまう。「そんな時だからこそ政治だろう」というかもしれないが、所詮、自分自身で起業経験、あるいは企業経営経験のない政治家たち、あるいは行政官たちにこの苦しみが分かるはずがないのである。結果として金融機関紐付きのシンクタンクが書いたレポートどおりに、「中小企業の資金需要は乏しい」と語り、それで話を終えてしまうのである。政治献金を大量にしてくれるのは大企業であり、中小企業ではないという頭がそこにはある(無論、中小企業はある意味、良いカネ蔓であるが、しかし面倒といえば面倒なことも事実なのだ。「秘書」にでも任せておけばよい)。

「何かがおかしい。決定的な“何か”が」―――そうは思わないだろうか。そしてこの余りにも全うな疑問、そして視点に基づいて始動したのが私たちIISIAのプロジェクト「地域グローバル経営者・起業塾」なのである。そしてこのプロジェクトは具体的には次の事を行うのを責務としている:

―地域にあって埋もれている事業案件、あるいは「まだ見ぬ」事業アイデアを発掘し、”見える化“する。そして何よりも、誰がそれらを経営者として、あるいは起業者として任っているのかをゼロ・ベースで明らかにし、これらの者たちをエンドースしていく

―何かというとこれまでの狭い領域・利益に拘る余り、地域全体としての「最適解」を明らかに紡ぎ出していない地場の関係各機関に広く声をかけ、IISIAを中心としたネットワークへとあらためて入って頂く。産業人財育成の場というイニシャルな「見える化」をこれら関係各機関に対してオープンにすることにより、第三者目線を織り込んだ”気付き“を得て頂く

―事業フェーズにも確かによるが、地場の中小企業及びヴェンチャー企業が「うまくいっていない」理由は、(1)“売り物”がプロダクトアウトに過ぎ、マジョリティーである顧客が求めている「must-have」、すなわち「べき論ではなく、それがなくては生きていけない」というレヴェルにまでマーケットインの発想で再構成されていないか、あるいは(2)“売り方”がベタなセールスに終始しており、戦略的かつ最新鋭のマーケティング手法を用いていないか、あるいはそもそも拡大することが今後はない我が国のドメスティック・マーケットだけを対象にしているか、のどちらかである。私たちIISIAはこれまで全国で行って来た企業コンサルティングの豊富な経験と、国内外への広くかつ深い人脈を通じて、こうした状況を打開するお手伝いをしていく

―何よりも重要なのは中小企業経営者、あるいはヴェンチャー企業経営者、さらには起業者の側における「リーダーシップ」としての自覚の育成である。伸び悩んでいることのもう一つの理由が組織戦略である場合がほとんどであり、それはまた、手探りで、あるいは創業者である親を見て、見様見真似でそれまでリーダーシップ、あるいはマネジメントをこなしてきたことによる場合が往々にしてあるのである。しかしそれでは迅速なスケールは見込めないのであって、この点でも2009年に本格参入して以来、一貫して産業人財育成を行って来た私たちIISIAが伸び行く経営者・起業者の皆さんのお手伝いをする余地は大きいのだ

―そしてこれを約2~2.5年行うことにより、ヴェンチャー・キャピタルの言葉を借りるならば「ハンズ・オン」の時期がようやく終わることになるのであって、そこで”売り物“”売り方“共に整い、それに対する資金需要が現実的かつ明確な事業計画に基づくことが明らかになる中で、地場の金融機関、あるいは域外(時には国外)の金融機関やファンドなどへと御紹介することが可能になってくる。私たちIISIAは各地域でこうした意味での新たな事業の「芽吹き」を巡る最終段階も、それまでに培ってきている国内外、さらには地域間・地域内での深く広い人脈を通じてお手伝い出来ればと考えている

いかがであろうか。以上が私たちIISIAが日々、「行軍」するかの様に我が国の各地域を周り、「地域グローバル経営者・起業塾」という柱を立てて廻っていることの本旨なのである。明日は必ず読者の住まわれている地域へと私たちIISIAのキャラバンは訪れる。そこでの志ある経営者・起業者の皆さん、そして現状打破に向けて持ち場持ち場でもがいていらっしゃる様々な皆様との出会いと、そのシンクロニシティがもたらす輝かしい成果を所員一同、心から楽しみにしている。なぜならば「パックス・ジャポニカ」は決して天から降って来るものではないからだ。それは私たち日本勢が自らこの手で創り出すものである。そのための、いや「そのためだけ」のプロジェクト。それが私たちIISIAが繰り広げ始めた「地域グローバル経営者・起業塾」に他ならない。

2016年6月9日 福岡にて

原田 武夫記す

 

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