コロナ禍における「オンライン授業」事情は
我が国では新型コロナウイルス感染が拡大し始めた3月初旬に政府主導で全国一斉休校の措置が取られた。その後4月7日から5月25日まで続いた緊急事態宣言により、多くの自治体で休校の措置が続いていた。そして緊急事態宣言の解除後も感染者が出た学校では再び臨時休校の措置を取っている。
こうした中で休校期間中に導入された方策として「オンライン授業」がある。教育の本来の目的からすればオンライン授業には限界はあるものの今後感染の第二波・第三波が起こった場合に教育を続ける方策としては有効とされた。そのオンライン授業を後押しする動きもある。文部科学省は7日、紙の教科書内容をタブレット端末などに取り込んだ児童生徒用の「デジタル教科書」に関する有識者らの初会合を開いた。端末不足などで学校現場のほとんどが紙のみを使っている中で同省は会合で2024年度に小学校で本格導入する方針を示しており新たな制度設計を進めるという。デジタル教科書は2018年5月の学校教育法改正を受けて2019年度から紙の教科書と併用できるようになったが2020年度もほとんどの学校が導入していないのが現状である。
(出典:U.S. Citizenship and Immigration Services)
他方で、オンライン授業を巡り米国勢ではちょっとした騒動が起こっている。
米移民税関捜査局(USCIS)は6日(米東部時間)、外国人留学生に関する新たな規則を発表し9月からの新学期で全ての授業をオンラインで行う学校に留学する場合にはビザを発給しないと明らかにしたのである。既に留学中の学生についてはオンライン授業のみの場合、出国するか、対面での授業を再開している学校に転校することを求めている。これに関してトランプ米大統領はツイッターに「学校は秋に開かなければならない!」と投稿して「脱オンライン授業」の方針を強調し、対面での授業再開を強く求めたのである。
トランプ大統領の狙いは明白で、大統領選挙を前に経済とともに社会的な活動も再開させ、回復を印象づけたいのである。徹底的な「破壊」を行ってきたトランプ大統領が遂に
教育分野にも手を付け始めたのである。だからこそ学校にとって重要な収入源でもある留学生を止めることで、圧力をかけるねらいがあると考えることが出来るのだ。留学生受け入れという「知の往来」ビジネスについて主導権を持ち、再選への足掛かりとするか。そのような視点でトランプ大統領が今次方針を打ち出したことは間違いなさそうだ。
話を我が国に戻せば、今後の第二波・第三波を考えた場合に問題は授業の継続のみではない。我が国において中学・高校・大学を問わず多くの入試は1月から3月にかけて、つまり新型コロナウイルス感染症以外のインフルエンザ等も流行する時期に実施されている。入試に関しては公平性という観点からも授業のように自宅からのオンラインでの実施には課題が多い。(韓国ではすでにオンライン試験での集団カンニングが報告されている)
オンライン授業の次はオンライン入試に商機を見出す事業者が出てくるかもしれない。実際に企業の採用における筆記テストをオンラインで行う事業者などが台頭してくるだろう。
グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー
佐藤 奈桜 記す
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