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アンドロイドは電子本の夢を見るか

ここ数日、時々やってくる活字渇望症を癒やすために噂のKindle Unlimitedで読書に勤しんでおりました。

ご存知の方も多いと思いますが、月額を払えば、Unlimitedとして登録されている書籍群から10冊まで同時に無料で読むことのできるAmazonのサービスです。

ラインナップの感想は人によりけりだとは思いますが、私としては登録しておいて損はないとかなり好印象です。

 

そもそも世の中には読み物の類がオン・オフ問わず玉石混交溢れかえっており、それはそれで充実していて大変結構なわけですが

量が膨大になるほど個人には吟味のコストがかかってしまうので、最近は実際の価格よりも正直一冊一冊の本の値段が(その受ける満足度に対して比較的)高く感じてしまうのです。

購読料で一定金額にしてしまえばその範疇では選択時のコストが限りなく低くなるので心理的な面でもハードルが下がり、単純なものですからお得感がいっぱいです。

 

何よりエストニアというまったく現地語を理解していない外国の土地で

図書館で目についた本を手当たり次第借りてきて流し読むあの感じが久しぶりに実現していることは非常に嬉しいです。

(ますます外に出かけなくなってしまいますので健康面からはまったくオススメできませんが、もうこの娯楽を知ってしまった私には後の祭りです)

 

私の今の仕事スタイルだと基本的な言語は日本語なので、海外にいるから日本語に飢えるという感覚はないのですが

やはり日本語の書籍に思い立った時に簡単かつ大量にアクセスする方法がないことは不便です。

気になる本をネットで見つけた時、友人からオススメされた漫画、衝動的に読みたくなるフィクションや短編集、絶版本…

図書館と、異常に素早く正確な配達サービスと、漫画喫茶、巨大な総合本屋。それから自分名義のクレジットカードで購入できる電子書籍。

 

実家の近くにある図書館と駅前の本屋と裏通りの古本屋をはしごしていた高校生までの私が見たらきっと歯ぎしりする何とも快適で夢のようなサービスが

布団の中から遠くても自転車で行ける距離に大量に転がっているのが大都市・東京なのです。

ちなみにですが東京の公立図書館は都内在住というだけでカードが作れるところが多いので

一時期散歩ついでに各区の図書館で図書カードをつくって回るというアホみたいな趣味も持っていました。

後は湯水のように書籍代につぎ込めるお金があれば完璧ですが残念ながらこちらはまだ実現していません。

 

今でこそ電子書籍どっぷりで、むしろこのご時世新しく出る本に電子版がないのは一体何事か?と真剣に抗議したいほどなのですが、

元々はかなり過激な紙の本大好き人間で、文庫本のペラペラ感すらイマイチ好きになれない、

本というのはずっしり重みを両手に感じて楽しむべきのハードブック派です。

そんな私が電子書籍に手を出さざるを得なくなったのはフィリピンで発熱を繰り返していた時に暇を持て余して青空文庫を読み漁り始めたのがきっかけですので、本当に物理的不可抗力でしかありません。

 

ですので電子書籍反対派の言い分もよくわかります。

情緒がない。確かに。書き込めない。ごもっともです。もう少し印刷しやすくなればいいのですがなかなか難しいでしょうか。貸せない。これは確かに痛いところです。どうしても他人に読んで欲しい本はやはり紙で買ってしまいます。

電子書籍が紙の本を駆逐するというならそれは断固反対しなければいけないでしょう。物理的な本屋がこの地上から消え失せるというならそれは嘆き悲しむことです。

たとえ私自身がかなり本屋に足を運ぶ機会が減っているまさに薄情な客の1人であったとしてもです。

 

でも、だからといって電子書籍の勢いを抑えようというのはもう全然間違っているとしか思えません。

やはり電子書籍のメリットは計り知れないところがあります。日本語みたいなマイナーかつ人口の減りつつある言語で書かれた情報の塊が世界中からアクセスできるそれだけで打ちのめされるほど素晴らしいです。

むしろ出版業界は(もちろん業界そのものも刷新が必要でしょうが)早いこと電子書籍市場をきちんと稼げるような体制を確立し、

以前よりはちょっとした贅沢品として紙の本をより最適かつ快適な形で提供して欲しいと思っています。

 

そのためには、そもそもここにきて人々の「お金の払い方」に対する意識を変えなきゃいけないのかなとふと考えます。

 

今回のKindle Unlimitedのように一定の購読料を払って後は自由、というパターンもその一つでしょう。

ただ購読制の利点はプラットフォームの規模や性格にかなり左右されますし、1人の人間が一定期間に購読できる量も限られています。

購読制に利点を感じる層が全利用者の何%程度か、という設定も中々難しそうです。

 

例えば小説や漫画等の分野では、作家さんに対して直接支払いたい、という人も多いのではないかと思います。

私だって○○円以上集まれば新刊頑張れそうですなんて言われたら有無をいわさず500円応援ボタンをクリックしたくなるような作家さんは何人かいます。ただし作家さんが食っていくためのメジャーな方法とするには色々と問題もあるでしょう。

 

似たような方法に、最近はファンドを募ることで翻訳本やドキュメンタリーなどの出版を支援するというのもあります。

分野によっては非常に有効だと思いますが、宣伝という分厚い壁があります。

 

マイクロペイメント(超小額決済)の技術が普及し、いいねやシェアを押すのと同時にクレジットカード以上になんのストレスもなく少額が動かせるとしたらこれもまた私たちの行動を変えるでしょうか。

 

etcetc…

 

今までのようにモノやサービス単品に対価を払うのではなく、権利を買う。

より広く好きな対象そのものの存続または発展に期待してお金を払う。

または一定期間の行動に対して事前、事後にまとめてお金を払う。

 

時にフリーライダーの問題もよく槍玉に挙げられますが、

システムが崩壊しない限りでフリーライダーを抱えることそれ自体は、そんなに目を吊り上げて忌避しなくてもいいと思います。

いわゆる「布教」のためにもう一冊買う、みたいな、身銭を切ってでも他人にただ乗りして欲しいと思う要素も人間の行動の中には確かに含まれているのですから。

 

特に自分が本の世界に救われてきた人間ですので、私としては1人でも多くの人が1冊でも多くの素敵な読み物に、より安価で容易に巡り会える機会が開かれている方が絶対にいいと思います。

 

そのためにはより一層の技術の進歩を待たなくてはいけない面もありますし、

同時に私たち一般の消費者が物理的なお金を払って物理的な商品を受取る、という従来の行為に対して意識を変えていかなくてはいけない部分もあると思います。

それ以外にも翻訳技術や人工知能の執筆などまだまだこの分野にインパクトを与え得る話題はたくさん転がっています。

時間はかかるでしょうが、電子書籍の向かっている方向は間違ってはいないと私は信じています。

 

皆さんも良い読書の秋を!

 

【プロフィール】

 

楼 まりあ

 

神戸・東京・マニラのオフショア開発を繋ぐブリッジSEとして、そして東欧での新拠点をリサーチするため現在エストニア現地企業で外部契約社員としてタリンで在宅勤務。大学時代、マニラオフィスのオープンスタッフとして1年間マニラに滞在。NYでインターン経験有。

東京大学経済学部卒。

 

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