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いわゆる踏み上げ相場への転換と簿外資産に関する一考察 (連載「パックス・ジャポニカへの道」)

「今月(3月)20~23日の期間にグローバル社会全体を揺るがすような外生的なリスク要因が大規模に炸裂することがなければ、我が国の株式マーケットはいわゆる”踏み上げ相場”へと転換することになる」―――これが20日に弊研究所が提示した分析ラインである。このコラムは22日の早朝に北海道・苫務において書いているが、現在までのところ結果としてそのようなリスク炸裂は生じていない。したがって週明けより事態は大きく転換し、上述の”踏み上げ相場”へと進展していくことになる。

なぜそのようなことになるのかといえば理由は簡単だ。いわゆる「個人」が急ぎ”買い”へと転じるからである。弊研究所が見ている限り、この場合「個人」といっても通常のサラリーマンや主婦が主体の集団ではない。かつて平成バブルやITバブル、そして不動産証券化バブルにおいて主人公であったこららの集団にはもはや余力はないのである。他方「団塊の世代」以上のタンス預金を大量にしていると思われる世代はどうかというと、特にリーマン・ショックで痛い目にあっただけに慎重である。

その結果、残るは中小事業主ということになってくる。「決算」を自ら行わないサラリーマンや主婦である読者にとっては全く不可解かもしれないが、中小事業主にとってこの時期を乗り越えられるかどうかは、正に生死の境である。サラリーマンの世界では2月になると「決算なので忙しい」といったフレーズが横行するが、それは単に業務繁忙になるということだけなのであって、最終的に”生き死に”はかかっていない。これに対して多くの場合、事業運営のための資金捻出のために(生命保険を含む)個人資産を担保としている中小事業主にとってはこの時期を乗り越えられるかどうかは正真正銘「死活問題」だ。とりわけ消費増税の結果、消費税が実に60パーセントも切り上げられてしまった(5パーセントから8パーセントへ)今、運転資金の確保に必死だったというのが実態なのである。

そしてようやくこの意味での「生死の境」が見えて来るのがこのタイミングだというわけなのである。これまでの間生じてきた「株高」を中小事業主たちは指をくわえてみていることしか出来なかった。いや、もっといえば株高だからこそキャッシュ(現金)捻出のために保有する日本株の売却に勤しまざるを得なかったのである。そうした態度がここに来て大きく転換されることになる。いよいよ公的及び準公的マネーが大量に投入され始め、煽りをかける中でこれまで「売り」一方であった個人は一斉に態度を転換。マーケットは踏み上げ相場へと転じるというわけなのである。

無論、外生的なリスク要因、とりわけこれまで好調を喧伝してきたものの、原油価格の崩落が続くことで苦境に陥っている米シェール関連企業の発行した高金利債券とそれに紐づけられた各種金融商品を巡るリスク(それはかつての「サブプライム証券」を彷彿させるものだ)がなくなったわけではないことに留意する必要はある。また金利動向が先のイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長の発言によってはっきりとした(=一番早く見積もっても2015年6月まで政策金利の引き上げは行わない)以上、米国株こそが株価上昇率という観点では中心になる可能性をはらんでいることも忘れてはならない。

だがとにもかくにもそうした中で結果として複合リスクの同時多発的な”炸裂”(あるいは国際決済銀行(BIS)がこれまで語ってきた「グローバル・マーケットの暴力的な反転(violent reversal of the global market)」)が先送りになるということであれば、我が国においては4月12日に実施される統一地方選に向けた「官製相場」展開になることは間違いないのである。その結果、我が国の伝統的な大手メディアは大小問わず、こう連呼することになる。

「日本株の続伸こそ、アベノミクスが大成功であった証である。この事実を踏まえて国民は投票すべきだ」

事ここに及ぶと私は「バブル」に対する正しい認識が必要だと考えている。円安誘導に伴う我が国における資産バブル展開という意味での「日本バブル」はほんの一部の受益者を除き、多くの国民が現実に保有し、自由に使えるという意味でのマネーを増やしてはいない。増えているのは「異次元緩和」を続ける日本銀行を相手に、そこにある当座預金口座に溢れんばかりの(未使用の)マネーを抱え続けている我が国の銀行セクターのその意味での「預金」に過ぎない。

なぜならば「バブル」とは多くの経済学者たちが語るように「起きるもの」ではなく、「起こすもの」だからである。端的にいえば一部の者たちがそれによって裨益するのではなく、広く遍く一般国民がマネーに対して容易にアクセスできるようになることで初めて発生するものなのである。簡単にいうとそれ以上でもそれ以下でもない現象、これが「バブル」なのである。

1980年代後半の「平成バブル」を思い起こしてみれば良い。あの当時、「消費者金融」「相互銀行」あるいは「信用金庫・信用組合」といった形で私たち一般国民はいわゆる普通銀行に頼らずとも比較的容易にマネーを手にすることが出来たのである。だから「バブル」となったのである。しかしその後、我が国当局は国策としてこれを潰し、あるいは規模を相当程度縮小させた。しかも「アベノミクス」と言いつつ、この部分については一切、目に見える施策はとられていないのである。

さらに忘れられないのが当時は盛んに用いられていた「ファンド・トラスト(通称「ファントラ」)の存在である。これは企業が証券会社に対して一任勘定で有価証券売買を依頼するというものだが、非常にざっくりした言い方をすれば「この余り金を使ってどんな銘柄でも良いから任せるので投資して殖やしてくれ」と委託するものなのだ。しかも当時の大蔵省はこれを税制上優遇した。つまり企業に余り金が出来たらばそれを証券投資に廻せ、そうすれば税金は払わなくても良いぞというのである。その結果、株価の急騰という意味でのバブルが発生した。今となっては語られることがほとんどないが、これが真実なのである。

つまりバブルは「自然発生」するものではなく、「人為的に」発生させるものなのである。しかも単にカネを金融機関相手にばらまくのではなく、国民の津々浦々までそれが実際に均霑するような仕組み作りが必要なのだ。そしてまた身銭は絶対に切るはずもない(正真正銘の)個人ではなく、結局は他人のカネをサラリーマンたちが(最終的には「無責任に」)扱うに過ぎない企業が証券投資や不動産投資を活性化することを実利を与える形で後押しするようにしない限り、怒涛の展開としてのバブルを発生させることは出来ないのである。

そして同じことは何も表だってのマネー・フローについてだけあてはまることではないという点にも留意しなければならない。国家のレヴェルで言うならば、何も表だって語られる公会計だけがこの文脈において大切なわけではないのである。「国民国家」なるものが近代以降、成立するよりはるかに前より人的ネットワークは世界中に存在し、それぞれが蓄財・運用・投資を行って来た。これらの上に立って、いや正確にいうならばこれらにとって都合が良いように設計され、使われてきたのが国民国家なのである。国民国家という表の世界から見るとそれは枠外にあるという意味で「簿外資産」というべきものであるが、しかしこうした成り立ちからいえばむしろ世界史の基底を成すのがこうした資産の存在であることを忘れてはならない。

そしてこれら「簿外資産」が動いた時にこそ、バブルは発生するのである。端的にいうならば政府、あるいは金融機関が手に届かない隅々までマネーを流し込み、バブルを発生させるのがそのやり方なのだ。しかもそこで投入される金額は通常の感覚を遥かに超える桁のものである。我が国の「本当の権力の中心」も歴史上、当然関与しているこの簿外資産システムの動きこそ、世界史の原動力に他ならない。そして私が知る限り、まだそのマネー・フローは我が国に及んではいないのだ。

したがって大事なのはここから始まる「踏み上げ相場」の中にあっても決して冷静さを失わないことである。以上述べたような「バブル発生のための本当の仕組み無き疑似バブル」がどのような末路を辿るのか、またその先にどのような世界が、そして我が国が築かれようとしているのか(端的にいうならば目先の「踏み上げ相場」はそのための仕掛けに過ぎず、その直後に世界システムそのものを激変させる動きが迫っている)。これらの事共に対してこそ、意識を集中させ、あらかじめ探求すべきである。そうする者たちに対してだけ、世界史はその扉を開け放つのだ。

2015年3月22日 北海道・苫務にて

原田 武夫記す

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