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「Real Value of Delegation」(“権限委譲”の真価)

大橋祐介です。昨年2015年にお送りした6回のコラムに引き続き、「IISIA特別コラムニスト」としてIISIA公式HPでコラム執筆させて頂く事となりました。「ちょっとした視点の切り替えが生む大きな変化」という観点で、少しでも読者の皆様のご活躍の一端となれば幸いです。

第7回は「Real Value of Delegation」(“権限委譲”の真価)について扱います。

世界各国のビジネスリーダーや有識者などからよく「Delegate(権限委譲)」という言葉を耳にすることが多くなってきました。「Delegation」とは“自分の業務をうまく部下に委任し、リーダーはより重要な業務に注力する”という意味です。このコンセプトと価値を最も重視しているのはおそらく少数精鋭の”サービスファーム”でしょう。弁護士やコンサルタントなどがそれに当てはまります。

これには明確な理由があり、権限委譲こそがファームを存続させつづけていくコアとなるからです。今回はそのコンセプトを中核とする組織のロジックを知ることで、皆様が現場組織を牽引する上での参考にして頂ければと思います。(筆者のコンサルティングファームでの経験を含めてお送りします)

そもそも、弁護士やコンサルタントなど“高付加価値の業務”を提供するサービスファームは、いったいどういった仕組みで利益を生んでいるかご存知でしょうか?数年前までバブル絶頂にあったソーシャルゲームのように、バイラル効果で瞬時に何百万人ものユーザに課金し、あっという間に限界利益を超えて儲けを生み出すといった仕組みは持ち合わせていません。レバレッジが効きにくいのです。高いフィーをクライアントに請求しますが、その分人件費コストも安くはありません。少数精鋭を謳っていることもあり、ファームに属する“プロ”の数は限られています。「稼働時間」に対してクライアントに請求するという売り方は基本的にはパートナーからジュニアまで変わりません。

そのため、現場(=往々にして彼らはプロジェクト単位で稼働することが多いですが)では、とにかくも収益を上げるための最大効率が求められてきます。つまり、高コスト構造を持っているサービスファームは、いかにより高い能力を持つシニアがそれに価しない“低い”価値の仕事をしないかがファームの生命線となるのです。 (筆者もジュニア時代、徹底的にインプットされたのを思い出します)

 

より重要で高い価値の仕事をシニアが手掛けられないという事態を防ぎ、シニアからうまくジュニアに”低い価値”の業務を引き渡していくことが収益に直結します。プロジェクト組成がされるときには、コモディティ化したサービスや方法論が確立したやり方を実践するのはジュニアが遂行し、シニアが“難易度の高い”業務を遂行します。権限委譲してうまく回す仕組みがないと、ファームの将来の成功にとってより重要な高い価値の仕事をシニアが手掛けられない事態を生んでしまうのです。

 

クライアントに成果を出して満足を与えながら、ファームの中ではジュニアを育て、うまく“権限委譲”していく必要があります。コスト見合いにあった労力で大きな成果を成長させることが何よりも重要になり、卓越した個人としての“スター”さも必要ではありますが、それよりもチームやファームの利益を最優先で考えられるかがものさしで測られています。

 

サービスファームでの例を参考にしながら現場課題を考えると、読者の皆様も下記のような問いかけを現場にしてみてはいかがでしょうか。

 

・シニアが担うべき仕事とジュニアに任せるべき仕事が区別され、シニアが重要な案件に手掛けられない体制や組織になっていないか?

・「重要な案件」とは事業にとっての優先度の高い案件のことであり、会社の戦略に沿って「重要」なものと定義され、社内で共通認識が取られているか?

・重要な案件」がシニア主導の元、組み立てられており、最終的にはジュニアに委任して運用されているか? シニアの各案件の関与範囲や方針が明確になり、配下メンバーは必要な段取りを把握して漏れなく動けているか?

 

サービスファームは“マージン”で利益を得る仕組みを持ちますので、“権限委譲”ができないと利益額にクリティカルな影響を与えてしまいます。商品・コンテンツベースで効率的に提案して受注できる仕組みを持つサービスであっても同じくらい権限委譲は重要です。サービスファームでは常に(いい意味でも悪い意味でも)可視化されているが、事業現場ではなかなか直接の影響範囲が見えにくくなってしまうからです。利益との直接的な因果関係が弱いため、権限委譲ができていない状況に現場が置かれていてもなかなか気が付きにくい現状があります。権限委譲ができないことによる「組織全体の非効率性」・「シニアの非最適活用」「業務の属人化」の弊害は大きいというのはご認識の通りですが、なかなか可視化されずに権限委譲が足りなくとも気が付きにくいというところを考慮すべきでしょう。

 

このコラムを機に、権限委譲を意識することで読者の皆様の現場が抱える課題がよりクリアになって焦点が定まり、更なる問題解決に向けて取り組むことに繋がっていけば嬉しく思います。2016年も各回個別のテーマを関連付けながらお伝えさせて頂きますので、次回のコラムがリリースされるまでに、ぜひ今回の視点を踏まえて現場を更に“盛り上げて”頂ければと思います。

 

【執筆者プロフィール】
大橋祐介(おおはしゆうすけ)
慶應義塾大学卒業後、経営コンサルティング・ファームに参画。戦略、マネジメント、オペレーションを総合俯瞰したコンサルに価値を置く。国内外を跨いだ 数々のプロジェクトに従事し、直近では合弁会社設立や新規事業立ち上げに参画。アメリカ発祥の国際的非営利教育団体Toastmasters Internationalにてエリアディレクターも務める。

 

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