「情報化社会におけるグリーンウォッシングとは何か」(IISIA研究員レポート Vol.56) - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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「情報化社会におけるグリーンウォッシングとは何か」(IISIA研究員レポート Vol.56)

来る10月末、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が英国・スコットランド勢のグラスゴーで開かれる。地球環境問題の解決に向け、公的機関、企業、消費者の各レベルで対策を推進する努力が続けられている。しかしながら、「環境への配慮」を喧伝する企業は数多くあるものの、実際の効果はどれほどなのかを疑問視されるケースもあり、そうしたうわべだけの環境重視は「グリーンウォッシング」といわれる。

近年問題視されるようになった「グリーンウォッシング(greenwashing)」であるが、その言葉が初めて使われたのは、去る1986年に米国勢の環境活動家ジェイ・ウェスターヴェルド(Jay Westerveld)によって書かれたエッセーにさかのぼる。そのヒントとなったものは、彼がかつて立ち寄ったホテルに備え付けられたタオルだった。サモアに研究旅行中、彼はサーフィンを楽しむためにフィージーに立ち寄り、ビーチコンバー島のリゾートホテルでタオルとともに置かれた注意喚起を促すカードを見つけた。カードにはこのように記載されていた:

「地球を救ってください:毎日、大量の水が一度しか使われていないタオルを洗うために使われています。ご自由にお選びください:ラックの上のタオルは『再び使用します』、床のタオルは『交換してください』という意味です。私たちが行っている地球上の重要資源の保全活動に対して手助けをしてくれることに感謝申し上げます」

ウェスターヴェルドはこの注意書に込められたメッセージを皮肉ととらえ、こう記した:

「ホテルは他にたくさんの方法で資源のむだ使いをしている。タオルなどのたくさんのリネン製品を洗わないということは、会社のお金のむだ使い削減にはなっている」(参考

タオルの再使用は海やサンゴ礁という重要な資源や生態系へのダメージを減らすと考えられ、そうした観点から、注意書きはビーチコンバー島の生態系保護を求めているのだが、島は自らを”南太平洋で最も人気のある観光地”と称しているように、島は拡大し続けているという状況についてウェスターヴェルドは気づいていた。「彼らがサンゴ礁について実際にはそれほど気にかけているとは思わない。島は当時、拡大の最中であり、多くのバンガローが建設中であった」とウェスターヴェルドは述べている(参考)。

(図表:ホテルに掲げられた注意書きのイメージ)

(出典:abillion

ウェスターヴェルドが「グリーンウォッシング」という語を想起して以来約30年、「脱炭素」、「再生可能エネルギーへの移行」という時代の流れは徐々に強化されてきた。2000年代以降、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の3つの観点を重視するESGという概念が誕生し、各企業はESGの概念を強化した経営を進め、投資先としても企業のESGの状況が考慮されるに至った。

しかしながら、ESG評価を行うプロバイダーは、企業の設立を促すためには高い評価を提供することも考えられる。地球環境問題とは本来、長いスパンでの取り組みがなされていかなければならない問題のひとつでありながら、投資や起業という短期的な視点での効果を重視する概念と地球環境問題を結びつけることは、果たして適切なマッチングなのかも問われることも想定される。そこで、我が国の金融庁は「ESG」とネーミングされているファンドについて実態に即したものであるかを審査し、「グリーンウォッシング」を排除することを検討しているという(参考)。

(図表:ESGファンドの資金フロー)

(出典:三井住友DSアセットマネジメント

ウェスターヴェルドは実際にはリゾートホテルに滞在しておらず、近くのゲストハウスに宿泊している最中に、きれいなタオルを拝借するためにホテルに忍び込んだだけだったという(参考)。その思わぬ出来事と彼の卓越した観察眼との相乗効果は「グリーンウォッシング」という言葉を生み出した。インターネット空間へのアクセスが無限に広がった現代の情報化社会では、ウェスターヴェルドのような観察眼を持って企業を評価・審査することはより容易になったともいえよう。企業は自分たちをあたかも環境保護者のように見せることが簡単ではない時代に差し掛かっているといえるのではないだろうか。

グローバル・インテリジェンス・ユニット リサーチャー

倉持 正胤 記す

 

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