「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第13回 海外での人材評価
今般の熊本地震で被害に遭われた方々にお見舞いを申し上げるとともに、お亡くなりになられた方々に哀悼の意を表します。
最近はフランスでも花粉予報が出ており、花粉症が浸透してきました。昔は、フランスには花粉症がない~と喜んでいたのに、いつの間にやら絶賛花粉症中です(泣)。さて、前回は海外での人財獲得について述べましたが、今回は獲得した人財なり人材の組織内での評価について話をしたいと思います。
評価システムというのはたいていどこの企業でも同じだと思いますが、評価基準になる項目や年間目標の達成度などにより上司が評価を下すというのが一般的でしょう。しかし、日系企業において、その部署に日本人がいない場合、或いは上層部にしかいない場合に、ローカルがローカル基準で判断するのに任せておくと、それこそある担当の不手際が重なり数千万レベルの損失を出しているにもかかわらずいつの間にか担当の役職が上がっていたり、本社側から見ると何にもできないのに役職だけ高いローカルがいつの間にか出来上がっていたりという不可解な事態が起こりえます。
とはいっても、そもそも人事評価というのは人間がしていることですから、感情も入れば、色々な要素が加味されるわけで、仕事の出来不出来のみで評価されるわけでもなく、客観的にみて100パーセント正しい判断などというのはありえないものなのですが、それでも日本企業であるが故に求められる資質というのも加味されていかないと仕事が上手く回っていかない状況が起こりうるし、また様々な判断基準が日本人の目からすると全然十分なレベルに達していないのに良しとされてしまっているがために問題が出てくる場合等もあり、縦割りでの評価ばかりでなく横の連携を見た上での評価というのを考慮に入れていかないと、実質的な評価がなかなかできないのではないかと思います。
すでにこれまでのコラムでも述べていますが、日系企業の海外拠点である限り、その拠点のみで完結するワークというのはほとんどなく、日本の本社を含めた大きなサイクルで回っている業務が大半を占めており、この大きなサイクルの中での海外拠点のある部署の業務は必ずその先に本社或いは他の海外拠点が控えているのです。例えば日本で作った物を海外に売るのであれば、在庫は海外拠点の倉庫のみならず、洋上在庫、工場在庫、部品在庫等それぞれ存在することになるわけですが、海外顧客のニーズがなくなる場合、海外拠点の物流管理が拠点倉庫のみに注力して、日本工場への的確な指示を怠れば、倉庫拠点はゼロになってもその先に在庫が残ることは十分にありえます。しかし、海外拠点の物流管理部門にローカル人材しかいない場合、大抵「拠点在庫の管理」のみがタスクであるとしか理解しておらず、連絡や指示の遅れ等により日本に過剰な在庫が発生したとしてもそれを自分たちの責任とは認めないどころか、「拠点在庫」をゼロにしたと担当部下を評価し、実は本社に大損益を与えているにも拘らず、功績を認めて昇格させるなどということもありうるのです。
「部下」が昇格するということは自身の指導が良い、すなわち自身の功績を認められることにもなるわけですから、ローカルだけで縦のつながりを作ると、積極的に部下を昇格させる上司も現れるようになり、結果、仕事もさほどできないのにとりあえずそれなりのレベルの役職がついたローカルが少しずつ出来上がっていくという構図が生まれる場合もありえます。
海外拠点が出来て少し月日が経つと、こうした問題が露呈、或いは深刻化していきます。ヨーロッパでは縦社会ですから役職が下の者の言うことなど、たとえ本社から派遣されてきた駐在員であろうと聞こうとしません。下手に役職がついたローカルが増えてしまうと、グローバル人財育成の一環として若いうちに海外拠点での経験を積ませるといった意味で「若い人財」を赴任させても、鼻であしらわれるだけで、せっかくの貴重な赴任期間があまり意味の持たないものとなってしまう恐れもあり、自社のグローバル人財育成にまで影響を与えかねないのです。まぁ、そこで鼻であしらわれても、見返せるほどの実力を見せつけるぐらいでなければ「人財」とは言えないので、それを見極めるにはちょうどいい試練ともいえるかもしれませんが(笑)。それは置いておくにしても、「ヒト」を動かすところに必要以上に時間や労力をかけなければいけないという事実には変わりなく、一分一秒を争うグローバル・ビジネスの舞台で「負」の要素になるのは間違いありません。
また、役職だけはついていても結局それだけの知識やノウハウを持ち合わせなければ、新しいビジネスを開拓するにしても、常に本社からの応援がなければ対処できない形になってしまい、新規ビジネス開拓の機会を失うことにもなりかねず、そもそも海外進出し、海外拠点を築いた意味がなくなってしまいます。
こうした意味でも人材評価には慎重になるべきで、決してローカル人事に任せっぱなしにするような対応をとるべきではない点、御留意願いたいと思います。
【執筆者プロフィール】
川村 朋子
元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。
リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得
主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。