「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第12回 日本式対応のデメリット - IISIA 株式会社原田武夫国際戦略情報研究所 - haradatakeo.com
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「グローバル進出する日本企業が直面する課題」~第12回 日本式対応のデメリット  

フランスでも柔らかな日差しの中桜の蕾がほころび始め春を感じられるようになってきていますが、皆様いかがお過ごしでしょうか?今回は、日本式サービス万歳!!と常日頃思いつつも、グローバルビジネスの場においては通用しないと思われる日本式対応について、海外企業には理解されにくい「日本式対応のデメリット」と題しいくつか挙げてみたいと思います。  企業により風土の違いは多少あるでしょうが、日本企業は非常に慎重であり100%確実なことに対してしかイエスと言わず、大抵の場合「尽力させて頂きます」を決まり文句として海外顧客にも対応していることが多々見受けられます。例えば、半年後や1年後のあるプロジェクト納期に対し、最初の段階では「対応できるかわからない」といった回答を続け、対応できることが100%確実になるまで「対応可」という回答はしないといったことがよくあります。「おそらく可能」の状態で「おそらく可能」という回答はほぼせず、しかし顧客から要求されれば、そこは日本人ですから何とかして納期に間に合わせる手段を尽くし、結局は顧客の要求にきちんと応えるといった対応をするのですが、これが海外顧客には奇異に映ります。日本人顧客相手ならば、厳しい納期に全力を尽くして努力をし有り難いと思ってくれるかもしれませんが、海外顧客相手では「できるなら最初からできると言え、何か月もハラハラさせて」と有り難く思われるどころか説教でもされかねず、努力がすべて水の泡となってしまうのです。一度ならまだしも、これが数回続けばどれだけ納期にマージンを見ているのかと信用すら失いかねません。「できないこと」を「できる」と言えとは言いませんが、I have a pen.と言えるだけで「英語ができる!」と豪語するのがフランス人です(笑)。海外進出するからには、謙遜しすぎ、慎重になりすぎではビジネスチャンスを逃してしまうという点を努々忘れずに行動していきたいものです。努力を陰ながら行うのは日本的には美徳ですが、見えていないもの、見せていないものを評価してくれるほど海外勢は甘くありません。相手に評価されたければ、どれだけ努力しているのかを目に見える形ではっきりと誇示し、そしてそれに対する対価を堂々と要求するぐらいの気概が必要です。「出来ないといいつつ、全てが終わった後で、実はこれだけの努力をしたので結局出来ました」というのと、「最初からこれだけの条件が整えば努力してできるはず」というのでは印象が全く違うはずです。「最悪シナリオ」から発表する悪い癖は封印する方が無難です。  同様のことが全ての決裁過程に言えるかと思います。企業規模が大きくなれば決裁過程に時間がかかるのは仕方なく、これは日本企業だけに見られる問題ではないともいえるのですが、顧客が必要な情報を出すのに時間をかければかけるほど国際ビジネスの場ではチャンスが失われていきます。よく言えば慎重なのですが、海外顧客には対応が遅いだけと捉えかねられません。本当にチャンスをものにしたいのであれば、ある程度ターゲットを絞り、その絞ったターゲットについては迅速な対応を取れる体制を整えることが重要といえるでしょう。おそらくどの企業もそんなことは百も承知だと思いますが、あり得ないレベルの現実離れした回答を顧客に提出する現場などもいまだ散見され、実際に実現されていない事例が数多く見受けられるため改めて言わせていただく次第です。  また、モノづくりの現場でよく聞かれるのが日本製品が高スペックすぎるという点です。価格が高くても高スペックであれば売れる製品もあれば、スペックは適度に抑えて価格で勝負しなければならない製品もあり、それは対象地域にもよれば対象顧客にもよるわけでその見極めが非常に重要になってきます。高スペックを求めない相手に対しその良さを説き続けたところで時間の無駄でしかなく、相手の要求をいかに見極め要求に沿うものを提供できるかがカギなのですが、ビジネス展開がこれだけ早い世の中になってくると、対象地域や対象顧客の要求が絶えず変化していく点にも注意が必要です。1年前の条件がそのままであるとは限らず、この地域ではこれは売れない、これなら売れるといった思い込みは捨て、絶えず情報収集を怠らず変化に柔軟に対応していかなければチャンスをものにできません。  「慎重」であることはもちろん美徳であり「リスク」をとることばかりが重要でないのは当然なのですが、ケースバイケースで石橋をたたきながら渡るぐらいでないとグローバルなスピード感についていけないのも事実です。進出する先の地域や相手によって「慎重さ」を加減しつつ、日本式対応をデメリットにしないよう留意しながらビジネス展開を行っていくには、しっかりした目的意識を持ち且つ現地の状況をよく理解したい上で海外展開していく必要があるといえるでしょう。そのためにも、これまで述べてきたような能力を持ち合わせるグローバル人財の確保が急務となってくるのです。

 

【プロフィール】

川村 朋子 元外交官。大臣官房儀典官室、在フランス大使館、在ガボン大使館にて勤務。現在は在仏日系企業に勤務。留学、外務省時代、現在と在仏歴通算15年以上。 リヨン第二大学歴史学修士、リヨン政治学院DEA(博士予備課程に相当)取得
主な論文に「アンシャンレジーム期のリヨンの倒産・破産状況」「日本の軍事問題の現状」がある。

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